◆−Illusional Temptation−水晶さな(7/29-14:26)No.6977
6977 | Illusional Temptation | 水晶さな E-mail URL | 7/29-14:26 |
苦手なのに思いつき短編(>_<) 話で言うと「Song of Starting」より前、姫がまだ城を出ていません。 アズリー主役話は・・・スミマセンもうちょっと待って下さい(泣)。 =================================== 「マホロバ ノ イザナイ」 渇望しているのかもしれない そう思うのはこんな時 夢の中私は一人で 砂漠に立ち尽くして 漆黒の空を横切るのは 美しく孤独な蝶 貴方の横顔に似た どんなに手を伸ばしても 貴方には届かない 虚空に指を伸ばして 私はまた渇いてる ヒラリヒラリと舞い遊ぶように 姿見せたアゲハ蝶 夏の夜の真ん中 月の下 喜びとしてのイエロー 憂いを帯びたブルーに 世の果てに似ている漆黒の羽 「・・・目覚めが悪いのは寝付きが悪いせいです」 自分でもよくわからない事を言いつつ、彼女は身を起こした。 少し伸びたつややかな黒髪が、肩を擦って前にこぼれ落ちる。 いつもと同じ感触なのに何故か不快感を覚え、それを片手で払いのけた。 苛々している。それは自覚している。 判明せぬ空虚がある。それも自覚している。 「〜〜〜〜〜・・・」 前髪の辺りを乱暴に掻きながら、アメリアが声にならぬ声でうなった。 「ああっもうっ!!」 もはや八つ当たりのように掛け布団をはね上げ、ベッドから飛び降りた。 「ああっもうっ!!」 全く同じ叫びで返され――アメリアが眉をひそめた瞬間、 何の予想もしていなかったアメリアは、丸めたベッドシーツに体当たりを食らった。 ぼふんという柔らかい感触の割に大きな音をたてて、反動でアメリアが尻餅をつく。 「・・・・・・・・・・・・・・・」 しばしくらくらする意識にさいなまれた後、アメリアがベッドシーツの後ろから顔を出した人物を睨みつけた。 「・・・・・・・・・・・・・・・エトル」 母親代わり兼友人の侍女の名を苦々しく呟くと、彼女は笑顔で答えた。 「おはようございます、姫様」 柔らかな茶の髪を一つに束ねた、恰幅(かっぷく)の良い侍女頭。 いつの間に部屋に、とは無駄な質問である。 アメリアの起床時間は毎朝決まっているだけなのだ。 「・・・今の攻撃は何です・・・? 不意打ちの練習などと言わないで下さいよ」 床に腰を下ろしたままアメリアが問うと、エトルがベッドの脇に丸めたシーツを立てた。 「ベッドから飛び降りると、スプリングが痛みます」 わざわざ人差し指を立てて、エトルが説明する。 「・・・・・・・・・で?」 「モノを大切にしない御方にはモノから仕返しをされます。とりあえずシーツからの無念の声を代わりに遂行したまでですが、それが何か?」 「・・・・・・・・・もういいです」 ここまであっけらかんと言われると反論する気もなくなる。元はと言えば自分に非があるから最初から反論する気などないのだが。 てきぱきとシーツを替えるエトルを横目に、アメリアが着替えようとドレッサーを開けた。 「・・・姫様、お出かけですか?」 アメリアが着慣れた白装束を引っぱり出すのを、エトルはしっかり見ていたらしい。 「・・・気分だけです。忙しいこの時期、私だって考えてます」 見とがめられたのが気まずいのか、アメリアがあさっての方向を見ながらつぶやく。 「女官達に見つかったら、何かとうるさいですからね。お気をつけ下さいまし」 回収したシーツを丸めて、エトルが部屋を出ていく。 「・・・・・・・・・ふぅ」 脱いだ寝巻きをたたんでベッドの上に押し付ける。 朝食の時間にはまだ早い。 アメリアは窓際の円形テーブルの方まで移動すると、備え付けの椅子に力なく腰を下ろした。 「・・・・・・・・・・・・」 狭い窓から見上げた空には雲一つなくて。 虚空に視線をただよわせながら、無意識の内に蝶を探していた。 夢の中で見たあざやかなその色を。 旅人に尋ねてみた どこまで行くのかと いつになれば終えるのかと 旅人は答えた 終わりなどはないさ 終わらせることはできるけど 寝苦しい夜に見る夢は決まっていて 現実が訪れる瞬間も同じ 手を伸ばしても届かない 貴方は空で 私は地上で 届かないのに わかっているのに あなたに逢えた それだけでよかった 世界に光が満ちた 夢で逢えるだけでよかったのに 愛されたいと願ってしまった 世界が表情を変えた 世の果てでは空と海が交じる 「・・・私は待つタイプじゃないですよねぇ」 執務室にお茶を出しにきたエトルの手が止まった。 「攻めて攻めて押しまくる方のがお似合いですけれども、突然どうなされたんです?」 他人の自己イメージに少し落胆を覚えつつも、アメリアがとにかくつがれた紅茶をあおる。 「・・・・・・いえ、ちょっと自己分析をしてみただけです」 邪魔にならない場所にカップを移動させ、アメリアが再び羽根ペンを手に取った。 「・・・そうですか」 茶菓子を机の端に置いて、エトルが去りぎわに振り返る。 「このお話は、以前もした事があったかもしれませんが」 アメリアが顔を上げたのを確認してから、続ける。 「私の母は資産家の娘でしたけれど、しがない番兵と恋に落ちて家を飛び出しましたよ。おかげで生活に苦労はしましたが」 初聞きだったらしく、アメリアが目を見開いた。 「母は後悔をしていませんでした。その娘である私は、そんな母を誇りに思っております。では」 丁寧に礼をすると、エトルが扉の隙間に姿を消した。 アメリアはインクが垂れているのに気付かぬまま、彼女の消えた空間を見つめていた。 詩人がたったひとひらの言の葉に込めた 意味をついに知ることはない そう それは友に できるならあなたに届けばいいと思う 「またな」 その一言がどんな重みを持っていたか 貴方は気付いていたんでしょうか それは希望であって、絶望でもあって 私を繋ぎとめる鎖でもあった 貴方は「来い」と言わなくて 私は「行く」と言えなくて その結果 そう それだけの結果 空を舞う貴方に 届く筈のない私の手 これが現実 あなたが望むのなら この身など いつでも差し出していい 降り注ぐ火の粉の盾になろう 気乗りのしない仕事を終え、自室に戻るとすぐに女官が訪ねてきた。 「アメリア様、差し出し人不明の方から花が届いているんですが・・・如何致します?」 「・・・・・・・・・・・・」 女官の抱く花束を見つめて、アメリアがしばし言葉を失った。 「気味が悪いので捨ててしまえと言う官もいたのですが、希少価値の高い珍しいお花ですので・・・」 黄色と黒が見事に映えた六枚花が咲き乱れて、 あでやかさはまるで――蝶のよう。 「・・・・・・アメリア様?」 反応の無いアメリアを不審に思ったのか、女官がさらに名を呼ぶ。 「・・・・・・・・・私の部屋に飾ります。花瓶を持って来てもらえますか?」 目線は花に位置したままで、アメリアが呟いた。 あなたに逢えた それだけでよかった 世界に光が満ちた 夢で逢えるだけでよかったのに 愛されたいと願ってしまった 世界が表情を変えた 世の果てでは空と海が交じる 「気味悪がられて、捨てられたらどうするつもりだったんです・・・?」 テーブルの上に肘をついて、アメリアが花瓶にいけられた花と対面する。 砂漠の一部にしか生えないと言われている、幻蝶花。 暑さに強く日もちする花で、水に浸(ひた)した途端元気になった。 アメリアがふと手を伸ばして、その花びらの一枚にふれる。 壊れ物をさわるように、そっと。 「・・・・・・・・・・・・」 どんなに伸ばしても届かなかった指先が、羽根にふれた。 「・・・・・・ゼルガディス、さん」 開け放した窓から、気まぐれな風が吹いて、 揺れた花びらの1・2枚が、誘われるように宙を舞った。 「あ・・・・・・・・・」 窓の外へ空の中へ吸い込まれて。 蝶が舞うように。 風に吹かれ落ちる事もなく、さまよい続けて視界から消えた。 「・・・・・・・・・・・・・・・」 窓を閉める事もせず、なびく黒髪を払いのける事もせず、 アメリアは――ただ静かに笑みを浮かべた。 荒野に咲いたアゲハ蝶 揺らぐその景色の向こう 近づくことはできないオアシス 冷たい水をください できたら愛してください 「綺麗なお花ですね。蝶のような色」 テーブルの上に飾られた、花を視界に入れるなりエトルが言った。 「綺麗でしょう? でも、蝶は舞うからこそ綺麗だと思いません?」 「・・・・・・・・・・・・」 にこやかな顔で同意を求めるアメリアに、エトルが目をしばたたかせた。 「ご心境の変化でもありまして?」 「別に?」 きょとんとするアメリアに、エトルも何事もなかったようにカーテンクロスの付け替え作業を続ける。 ――が、アメリアはまた質問をした。 「エトル、お裁縫得意でしたよね?」 「姫様よりは得意ですが、何か?」 「・・・・・・うう、一言余計です」 アメリアがうなると、エトルが笑った。 「それは失礼致しました。で、何がご所望ですか?」 「あのですね・・・」 引き出しの奥底に入れた古い写真を引っぱり出し、両手で持つ。 写真嫌いの彼を無理やりおさめた特別な1枚。 「お人形、欲しいんですよ」 渇望している私は 貴方に手を伸ばして 手が届くことを望んで ふれる事が叶った今 少し、欲が出ただけのこと それはきっと貴方も同じで 渇望したならきっと 渇きを満たしにくるのでしょう? 癒しはここにあるから 今度は貴方が手を伸ばして そうしたらきっと 伸ばした手がつながる筈 ただ、それだけのこと =================================== 「アゲハ蝶」 ポルノグラフィティ あがき:歌詞を引用する時はいつも全体を入れるようにしていたんですが、これはちょっと切り抜きをせざるを得ませんでした(>_<) |