◆−連作〜序章〜(リナ+ゼロス+ガウリィ(?)−T−HOPE (2001/8/16 00:57:46) No.7150
 ┗連作〜水〜(リナ+ゼロス+ゼル(?)−T−HOPE (2001/8/16 00:59:34) No.7151
  ┗連作〜偶然〜(アメリア+フィルさん)−T−HOPE (2001/8/16 01:01:14) No.7152
   ┗連作〜生命〜(リナ+シルフィール+ゼロス)−T−HOPE (2001/8/16 01:03:01) No.7153
    ┗連作〜世界〜(リナ+ゼロス)−T−HOPE (2001/8/16 01:10:53) No.7154
     ┣読ませていただきました。−かお (2001/8/16 21:27:47) No.7160
     ┃┗有り難うございました〜m(_)m−T−HOPE (2001/8/23 22:51:15) No.7201
     ┗Re:初めまして★−宝珠 (2001/8/19 10:37:09) No.7181
      ┗有り難うございました〜m(_)m−T−HOPE (2001/8/23 22:58:24) No.7202


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7150連作〜序章〜(リナ+ゼロス+ガウリィ(?)T−HOPE E-mail URL2001/8/16 00:57:46


スレイキャラ……を使ってはいるものの、結構卑怯かもしれないと思うのですが……えぇ。
でも、書きたかったので。
もしこんなのでも読んでいただければ、幸いです。

**************



  連作〜序章〜


 影が立った。
 その、何もない荒野。瓦礫すら溶け消えただただ広がるその空間。草木すらないその場所に、ただ一つ転がるモノの元へと。
 見下ろす視線は、乾いていた。
 まるで、動かぬ流木を意味なく眺めるように、何気なく。
 ……けれど。
 流木ならぬソレは、暫しの間をおいた後、僅かに、呻いた。
 ひどく緩慢な、鈍い遅々とした様子で、左腕が、僅かに、上がる。
 ぐじゅ、と、肉の捩れる音がした。
 激痛も、過ぎれば無感覚となるのか否か。動きが止まる様子はない。
 “痛み”というものの神経の伝達方法については知っていても、実際に感じたことなどない影は、何も問わずにそれをただ見ている。
 やがて、ソレは、ゆらりと幽鬼のように立ち上がった。
 艶やかさを誇った栗色の髪も、もはや、焦げ縮れ、頭蓋の周囲にまとわりつくだけのものと化した。
 鮮やかな暁を表す瞳は、赤黒く爛れ腫れ上がり血膿にまみれた顔の中、埋もれている。
ぼろ布というのも憚られる様子になった服から伸びる足は、踏み出すごとに無惨な、皮膚の残骸や肉の擦れる音を立て。
 かつて強大な呪の紋を描いた腕からは、剥がれた皮膚が爪先で留まり、ずるりと伸びていた。──左腕、は。
 右腕はもはや、いつの間に千切れ消えたのか。ただ、肩から二の腕あたりまでの皮膚がずるずると垂れ下がる様のみで、その先を明らかにしない。
 けれど、ソレは、立ち上がった。
 影は、最初に出逢った時より全く変わりない笑顔で、にっこりと、話しかけてみた。
「よく、生きてらっしゃいましたね……しぶといというか何というか?」
「………………」
 ゆるり、と、首を巡らせたソレの視線が、影に止まる。けれど、開きかけた唇の中は乾ききり、血泥がへばりつき、音をこぼさなかった。
 それでも平然と、その中身だけを聞き取って、影は、くすりと笑んだ。
「いいえ……いいえ違いますよ。この惨状をもたらしたのは、僕ではありません」
 ──影は、嘘をつかない。
 嘘に限りなく近い言葉遊びを行うことはあっても、決して。それは、おそらくは、人ごときに偽りを伸べるに値しないという、高位に立つ魔族故の習性か……あるいは、戯れなる遊戯に定めた法則故か。
 いずれにせよ、それを知っている相手に対し、影は更に言葉を紡いだ。
「そう、僕ではありません。……同様に、魔族なり神族のどなたかでも、ね。
 これは……この、惨状と人の呼ぶ全ては、人によって作られたモノ」
「……」
「魔族が種をまいた、と、おっしゃいますか?
 それは愚かな言い訳に過ぎないと、貴女なら判っている筈。
 きっかけなど、何であったとしても構わないのですよ。現実に、これだけのことを行う術を、人は生み出そうとし、実際に生み出し……実行に移した。
 この何処に、人自身の責任を逃れる道がありますか?」
 ソレは、ゆっくりと頭を振った。
 腫れ上がった顔が表情を生み出さないのか、それとも選ぶ表情がないのか。……ただ、無表情に。
 そして、静かに周囲を見回した。
 影が、それに倣う。
「ゼフィーリア周辺は、壊滅状況ですね。この辺りは特に、爆心地に近かったですから……」
 淡々と、それでも僅かに楽しむ響きを言葉に混ぜて、見渡せば何もかもがなぎ倒され燃え尽き溶け消えたその悲惨なる風景を、影は指し示した。
 本当に、何もない。
 遠く見晴るかせば僅かに奇形な姿をさらす強固な建築物も見えないではないが、この周辺。穏やかな……確かにほんの少し変わったところもあったかもしれないが、極穏やかな生活が営まれていた町や村は、もはや、ない。
 そこに歩く老若男女、甲高い声を響かせて走り去っていった子ども達も皆。
「…………」
 ソレは、以前にもこんな風景を見た覚えがあった。
 強大なる魔族を宿した魔導士のコピー、あるいは死者達をも操り統べる、魔王の第一の側近の手によって生み出された街のその風景を。
 ……それにも勝る、この、様相は。
「サイラーグよりなお、ゼフィーリアの復興は難を極めることでしょうね」
 まるで、心を読んだかのように、影はさらりとそう告げた。
 そして、問うように向けられたソレの視線に、にこりと笑む。
「この地にもたらされたのは破壊のみに非ず。
 ……貴女には判らないのでしょうね、あの一瞬の閃光に秘められた力。未来永劫この地に焼き付き、呪われた毒をまき散らすアレを。今もなお、目に見えぬ微粒子となって、人の骨にまで染みこんでいき、次代へまで受け継がれる負の遺産……」
 何処か、嬉々とした様子でもある言葉に、ソレは、僅かに身を震わせた。
 魔族……滅びを望むモノ。
 その中の最たる存在魔王。それに仕えし側近達、その次と言われる程に強大なる高位の魔族がかくも歓喜を覚える術を生み出した、人間。……それによってもたらされた、惨状。
 一体何が起こったのか。ソレにはまるで判らなかった。
 世界を回るその途中に、珍しく帰郷の念を覚えて立ち寄った矢先の出来事。
 もうすぐに、葡萄の収穫の季節だから、と。旅先で出逢った幾人かの仲間達にも声をかけ、おそらくは明日にも宴会が出来るだろうと、期待をしていた筈なのに。
 突然に生み出された閃光と爆音と……必死で己の身を、己の内なる魔力で守り続け、気がつけば、そう、ここに在る。
 ……この、もはや故郷とは似ても似つかぬ空間に、ただ一人。
「ゼフィーリアは、邪魔だったらしいですよ、どうやら」
 影は、立ちつくすソレに聞こえているかどうかも気にしない調子で、そう、続けた。
「強き力有しながらも何故魔族に抗しないのか、あるいは、何故ここばかりが魔族の襲撃より逃れ得るのか。そういった諸々の想いでしょうね、おそらく根底にあったのは。
 ……実際には、他国を侵略せんとした国の後押しをしたから、ということらしいですが……まぁその辺は、ゼフィーリア上層部の政治及び軍事的判断ミスということではないか、と、思いますけどね」
「……」
「で、まぁ。こういう攻撃の術を生み出した国としては、やはり、実験はしたいと思うじゃないですか。でも、やたら自国でやるわけにもいきませんでしょう?
 丁度折良く、ゼフィーリアという標的が前に出てきてくれて……更に言うならば、ゼフィーリアの人間はやや常人と異なるという風評もたっていましたしね。
 自分達と違う存在には何をしてもいい、が、人間の考え方の基本でしょう?」
「…………」
 表情は変わらないまま、それでも真っ直ぐ影を見るソレの視線に、影は、僅かに苦笑した。
「えぇ……確かに貴女や貴女の周囲の方達は、違ったでしょうけど、ね」
「……」
 ソレは、答えない。
 答えられないのではなく、影に興味を失ったように。己の知識の外で行われ、惨状をもたらした状況をつかんだ以上、実際に、興味は最早ないのかもしれなかった。
 ただ、周囲を見回している。
 まるで、動く者……見知った誰かを、探す、ように。
 けれど。
「皆、死にました」
 穏やかに、むしろ明るく言い放たれた言葉に、ソレは、動きを止めた。
「貴女以外の皆」
 剥き出しの、赤黒い肩が、震えた。
「貴女の家族も」
 縋るように何かを見出さんとしても、広がるのはただ、瓦礫の荒野。
「貴女の傍らに常にあったあの人も」
 ただ、ソレの近くに一つだけ、割合に大きな一枚の石が、転がっているばかり。
「全て閃光と共に」
「……っ」
「死に様を知りたいですか? 閃光に焼き尽くされぐずぐずに溶けるその様を? 眼球は飛び出し肉は剥げ落ち髪など一気に燃え尽きて。只の消し炭を更に粉々に砕く爆風の最中、人の意識がどう消えていくのか? それでもなお手を伸ばした貴女のあの人のその最期の言葉を?」
「…………っっっ」
 立ち尽くすソレの皮膚の垂れ下がり腫れ上がった左の手を、影はそっと取った。
 そして、まるで導くかのように、転がる一枚の石の側へとそっと歩ませる。
 ──そこに。
「……………………ぁぁぁっっっっ!」
 ひび割れた唇から、音にもならない絶叫が零れた。
 影は、やんわり微笑んだ。
「これが、あの人です」
 ソレは、答えない。
 そこにあったのは、黒い染み。
 一瞬の閃光と共に、石にぶつかり溶け落ちて、そのままタンパク質と共に石と一体化した、存在の、証。
 背の高い、誰かの。
 ──ガウリィの。
 その傷故に膝もつけず、ただ見下ろして身を震わせるその視線が、必死に、その染みの輪郭をなぞる。
 高い背、鍛えられた体躯、長い輝く金の髪、穏やかな春の空を思わせる瞳、優しくおおらかな笑顔……何も、見出せずに。
 ただ。
「あぁ、ここにありましたね」
 染みが抱えるような何かが同じく石と一体化していて。
 ……それは……。
「リナさんの、右腕──」

 瓦礫の荒野を、明るい闇に満たされた毒の大地を、一瞬、風が渡った。
 血膿にまみれ、痛みに呻吟し、這いずるのみの人の残骸を越え。
 転がる黒こげの、流木のように転がる死体を越え。
 骨すらも残すことなく消えた黒い染みの元、一瞬零れた悲哀の音にならない絶叫を拾って。
 ……風が、渡った。

 もう、決して戻らない、戻せない、返せと叫べども届かない憤りを込めて。

*************

ちちをかえせ ははをかえせ
としよりをかえせ
こどもをかえせ

わたしをかえせ わたしにつながる
にんげんをかえせ

にんげんの にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえせ
       原爆詩集 序  峠 三吉

***************

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7151連作〜水〜(リナ+ゼロス+ゼル(?)T−HOPE E-mail URL2001/8/16 00:59:34
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     連作〜水〜


 その鋭い視線を覚えていた。
 白いフードの陰、ひっそりと、己を恥じるかのように面を伏せていても見せる、時に温かい笑みを。
 岩に似たそれでも優しく自分の手を握った感触を。
 ……それも、もう、ない。
 いっそ、只人であったならばと、おそらくは思っているかもしれない、反応の鈍い目の前の男を見ながら、少女は瞳を伏せた。
 呪われし頑強な肉体は、周囲の殆どの者が死に絶えてなお、まだ此岸へと、男の命を留めていた。それが、縁をギリギリで歩むだけのものであっても、だ。
 俊敏に研ぎ澄まされた肉体は、焼けただれ膨れあがっている。
 一滴も雨の降らぬ大地はからからにひび割れている中、血膿は爛れ、蛆が沸き、じくじくといつまでも傷は癒えない。
 元の容貌の想像さえつかなく歪んだ顔。崩れた鼻の下、ぽっかり開いた口からは、時折黒い舌がのぞく。
 ヒューヒューと、途切れ、掠れがちな呼吸音だけが、まるでまだ生きている証のようで。
 否。
 もう一つ、僅かに舌が蠢くたびに、ひび割れ腫れ上がった唇が動くたびに、微かに、小さく小さく紡がれる言葉があるようで。
 少女は僅かに身をかがめた。
 その少女の方も、身につける布はぼろぼろで、酷い火傷を負った肩や足がのぞいている。顔もまた、おそらくは何年の後までも残るだろう傷が刻まれて。
 何より、不自由そうに捩ってついた左腕に添えられたのは、右の二の腕。その先は、千切れとれていた。
 けれど、その身体の痛みよりなお透明に、表情を消したまま、そっと、鼻を突く匂いのする口元へと耳を寄せた。
「…………を…………」
 請うように、ただ繰り返される、一つの言葉。
 少女の赤黒い顔の中ぽっかりと空いた瞳に、陰りが差した。
「……ごめん、ね……」
「み…………を……」
「…………駄目なの」
「…………み……ず…………」
 おそらくは、もう聞こえていないのだろう。縋るように細い声で、繰り返し頭を振る少女の声にも答えずに、ただ、すり切れたレコードのように、消えそうな声が繰り返す。
 ──水を。
 からからに乾いたこの場所で、傷を拭うことさえ出来ないこの状況で、じりじりと生命を縮めていく憎むべき太陽の下、少女は困惑のまま頭を振った。
 せめて、涙でも出ればいい。
 そう思っても、水を飲んでいないのは少女も同じ事で。焼け爛れた頬を伝わる激痛を思っても、なお、流れればいいと幾ら祈っても、それは叶わない。
「……み…………を……」
「ごめん…………ごめん…………ね……」
 日差しを遮る物もない露天、ただ転がされている。この傷、この火傷の苦痛はいかばかりと、思っても、只でさえ常人より重いその肉体は、それでも少女一人に運べはしない。
 まして、少女自身も重い傷を負ったままの状態であればなおのこと。
 いっそ、身につけた魔術で傷を癒そうにも、自身の傷すら癒しきれない今の状況では意味がない。……少女の知る癒しの術は、自身の命を削らねば得られないのだから。
 ──せめて、雨が降ればいい。
 この火照り燃えたぎる熱を持つ身体を覆い尽くす雨が。
 焼け爛れた身体を癒すように…………?
 そう思った時のこと。
「…………水の……っ?」
 確かに、水の香りがした。焦がれるほどに舌が求める、清涼なその冷気。
 はっとして、少女は顔を上げ…………表情を、止めた。
 そこに、影が立っていた。
 何もかも傷つけられ、無惨に引き裂かれたその場にそぐわぬ、穏やかな笑み。日常に紛らわすありふれた黒の法衣すら、今この場にあっては鮮やかな異端の印。
 滅びを寿ぐように……。
「……何……を…………」
 コレが何者かを知っている少女にとっては、まさに、絶望の先駆けか、と。思えば向ける視線が幾らきつくなろうと、まだ甘いというものだった。
 けれど。
「水が、欲しいのでしょう?」
 柔らかな声で、差し伸べるその右の手には、硝子のコップ。
 その中に、多分と揺れている、ソレは…………。
「……な……んで……」
 砂漠で見る幻影よりもなお明らかに、目の前で光を弾く、その輝き。嗅覚に滑り込み、舌を蠢かせずにはおかない涼やかな香り。
 見て、嗅いで……自分が渇いていると、否応なく思い知らされる。
 けれど。
「何の、つもり?」
 少女は瞳をひたと影に据えて、問うた。
 この存在に、親切などという言葉は存在しない。
 滅びを目指し、負の感情を糧とするモノ──魔族。
 この死に絶えかかった地に現れるそれには疑問を抱かずとも、差し出される好意には眉を寄せずにいられない。そういう存在だと、誰よりもよく知っていたからこそ。
 問答無用で奪い取って喉を潤したいと願うその気持ちを無理にも押さえつけて、少女は、渇いた喉から声を絞り出した。
「……何の……」
「水が、欲しいのでしょう?」
 繰り返される、言葉。
「………………」
 少女は、惑うように沈黙を落とし、なお、水をと望み続ける男の顔を一瞬見やって、小さく、こくんと頷いた。
 そして、誘われるように、差し出されたコップを手に取る。
 露が浮くほどにひんやりと……狂おしいほど望ましい、水。その、器。
「……な…………ぜ」
 肉体の求めに抗するのは如何に己を鍛え、知識を多く持ったとしても、苦しいことに変わりはない。掠れた声で、なおも問う少女に、影は、小さく肩をすくめた。
「言うならば、慈悲とでも?」
「何をっ」
「……望んだのは貴女ではないのでしょう?」
 視線で指し示される先。
 最早、荒い呼吸すらもほぼ絶えかかる、男の身体が横たわっている。それでもなお、小さく唇が水を訴えて。
「………………」
 少女は、それでも躊躇いながら…………その唇へと、コップを、静かにあてた。
「ほら…………水、よ」
 己の手でコップを持つことも出来ぬと見て、そっと、少しずつ、その奥へと流し込んでやる。その冷たさに、自らの喉もこくんと鳴ったことを、あえて、気にとめないようにしながらも。
 男は、口を、喉を潤すそれを受け入れた。
 苦痛が刻まれたままずっと動かない表情が、動かないなりにそれでも喜色を宿し……。
 ……そして。
「………………ゼ…………ル……?」
 少女は、びくんと肩を震わせた。
 かたかたと、コップを持つ手が揺れる。血や垂れ下がる皮膚が固まりさして動かない表情の中、それでも精一杯に瞳が見開かれた。
「………………何故……」
「言ったでしょう?」
 静かな声が、そう、答えた。
「あんたが…………あんた、がっ!?」
 見上げる影は、けれど、穏やかな笑顔を微塵も崩していなかった。
 ただ、その瞳の奥の闇を除いては。
「僕は、何もしていませんよ?」
「でも……っ!」
「僕はただ、慈悲をもたらしただけですよ」
 ふんわりと、なお柔らかに笑んだまま。
「悪魔の慈悲を、ね?」
「……っ!?」
 かたんと、空になったコップが落ちて、僅かに欠けた欠片を散らした。
 ころころと転がるコップが、光を弾いて、もう動かない男の顔の側で、ことんと止まる。それを、無意識に目で追って、少女は強張った身体の力を、そっと抜いた。
「……どうして……」
 影は、今度はくすくすと、声を立てて笑んだ。
「貴女らしくもなく、随分と動揺してらっしゃるのですか? それとも、何も考えたくないとでも?」
「何を…………っ」
「……死んで当然の火傷でした。そうでしょう?」
 揶揄するような台詞に反論する間も与えず、影は、言葉を続け、少女は沈黙を落とした。
「これ程の火傷を負った人間に水を飲ませたら、あっさり逝くでしょうね。ですが……どうせこのまま放っておいても死んだでしょう?」
「だから、って!」
「最期に水を得て死んだのです。僕にしては随分親切だなぁと我ながら感心するところなんですけど……リナさんにとっては、そうではありませんでしたか?」
「………………」
 言葉を失った少女はそのまま立ちすくむ。その表情を追うこともせず、影は、ふと、視線を天へと上げた。
「……あぁ……。……雨です」
 ぼとり、ぼとりと。見る間に翳った空から落ちてくる、水滴。
 先程まで、せめて降ればと願っていた筈の……。
 ……──汚らしい、黒の、雨。
 伸ばした手を黒く染め、転がる男の死体へと降り注ぐ。まるで……。
 まるで……?
「毒の雨ですよ」
 さらりと、何でもないように吐かれた言葉に、びくりと少女は手を止めた。
 けれど、そんな様子を気にもとめぬように、白い面をその黒に染めることもなく、影は、空を仰いでいた。黒い雨に包まれて。
「……毒…………」
 少女はぽつりと呟いた。
 雨の中、柔らかく微笑む影の表情を見つめながら。
「どうせ全ては滅びの中に消えるのですよ」
「…………」
「人は滅びを撒く……魔族よりもなお効率的に」
 穏やかに……静かに柔らかく。
「リナさん」
 黒い雨よりもなお深く。
「どうせなら。……貴女が、全てを終わりにしませんか?」
「…………」
 沈黙とともに見返す少女の赤黒い手を、そっと、取って。
「いずれ滅ぶ世界なら」
 ──毒は、染みていく。
「…………貴女が…………」

***************

           " 水ヲ下サイ "    原 民喜(被爆詩人)

            水ヲ下サイ
            アア  水ヲ下サイ
            ノマシテ下サイ
            死ンダホウガマシデ
            死ンダホウガ
            アア
            タスケテ タスケテ
                 水ヲ
                 水ヲ
            ドウカ
            ドナタカ
                 オーオーオーオーー
                 オーオーオーオー
            天ガ裂ケ
            街ガ無クナリ
            川ガ
            ナガレテイル
                 オーオーオーオー
                 オーオーオーオー

            夜ガクル
                 夜ガクル
            ヒカラビタ眼ニ
                 タダレタ唇ニ
            ヒリヒリ灼けて
                 フラフラノ
            コノ メチャクチャノ 
            顔ノ
            人間ノウメキ
                 ニンゲンノ
***************

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7152連作〜偶然〜(アメリア+フィルさん)T−HOPE E-mail URL2001/8/16 01:01:14
記事番号7151へのコメント


    連作〜偶然〜


「待って下さい!」
 高い声が、響いた。
 贅を尽くした風情はないものの、さりげなく整えられた、白を基調にした宮殿。
 その高い天井に届く程の声で叫びながら、小柄な少女は、長い裳裾をわし掴んで廊下を駆け抜けた。
「待って………………まっ……父さん!」
 何度めかの呼びかけに、前を行く、見上げても余るほどの背中がようやく振り返った。
 感情を押し殺したような表情が、沈鬱さを僅かに宿して、少女を見下ろす。
「アメリアか。どうしたのだ」
「どうした……じゃ、ないです、父さん! どうして……どうして、ゼフィーリアの奇禍を黙認するなんて、そんなことを!?」
「…………」
 少女は、大きな瞳を更に大きくみはるようにして、父親の表情をのぞき込んだ。
「もう決まったことだ」
「決まってないです! そりゃ……何があったのか正確なところは、ここまで噂が届かないから判りませんけど、でも! でも、酷いことがあったってコトくらい、あたしにだって聞こえてくるんですっ。それなのに、何で……それを……」
 握り拳で叫ぶ少女の真っ直ぐな瞳から、父親は、そっと目をそらした。
「…………」
「父さん! そんなの正義じゃないですよっ!」
「………………正義、か」
 重苦しい声、だった。
「ゼフィーリアを滅ぼした国は、自らが正義と主張しておる」
「何でですか!?」
「ゼフィーリアは、魔族に与し、魔の力で侵略を行う国を支援している、と。昨今の魔の跳梁は、その遠因はすべからくゼフィーリアにあり、と」
「嘘です!」
 少女は、大きく頭を振った。
「何も……何も知らないのにそんなことを言う輩に、それこそ与するというんですか、父さん!?」
 確かに、少女は知っていた。
 彼女は、昨今の魔の跳梁。その一部なりと、見届けることが叶った身だ。
 正確には、彼女の旅の連れこそが、その跳梁の中心へと招き入れられ、罠をはね返し、平穏を再びもたらしたのだから。
 ……その友人達が、ゼフィーリアにいる。
 少女はもう一度頭を振って、不吉な想像を振り払い、きっと激しい瞳で、父親へと目を据えた。
「父さん。あたし……あたしがゼフィーリアへ行きたいと、リナさん達に会いに行きたいと言った時、止めましたよね。もしかして……」
 父親は、喉の奥で僅かに呻いたようだった。
「………………まだ、間に合うかと願っていた」
「何故っ!?」
 甲高い声が、少女の唇から迸った。
「それこそ間に合ったかもしれないのに警告することが出来たかもしれないのにっ! あたし……あたしがっ! あの人達に…………なのに…………。……何故っ!」
「アメリア!」
「何故です父さん!」
 少女の父は──白魔法都市とも呼ばれるセイルーンの、現在の王権を担う一翼である者は、少女を宥めるようにその肩を抱きつつ、そっと、頭を振った。
「すまん……」
「父さん!」
「だが…………だが、魔の跳梁は別としても、ゼフィーリアが侵略を行わんとしていたことは事実。故に、それを先に制するとする国の理には……」
「違います違います違いますっっっ!」
 少女は、激しく頭を振った。まるで、理性をもって押さえつけようとする父親の言葉、全てを拒むようにして。
 そして、なお「違います……」と唇で呟いてから、涙を拭い、きっと頭を上げた。
「なら何故、侵略を行おうとしていたその上層部を直接に狙わなかったんですか? 賠償金が取れない、領土や商業、その他の利益が望めないからでしょう!? 何故、力ない弱い者達を狙ったんですか? その国を通らざるを得なかった人を……確かに、上層部の定めた侵略の、その利益を享受していた人達かもしれませんけどっ、でも……っ……あたしには! ただ自分の力を誇示して他へと見せつけたかった、そのイケニエにしか見えませんっ!」
 そして、本当に責を負うべき上層部の人間は、どうせ、己の身に引き比べてなど考えないのだ。イケニエは、イケニエ。死ぬべき人間達が、予定外に多く死に、不利になっただけ、そんな風に。
 死を遠ざけて、自分の意志で、自分の足で、そうやって生きていたあの人達が犠牲になっても。
「どっちも……どっちもどうせ、同じなんです」
「……アメリア」
「本当の意味で魔に与しているのはっ! ……何も……誰も……同じ穴の狢なのにっ」
 けれど、正義としてゼフィーリアを滅ぼそうとした人間は、気づかない。滅ぼされようとしたゼフィーリアの上層部も、気づこうともしないだろう。
 何故なら、死を賛美し、国のために死んだ人間を称えなければ、誰も自分達のために死んではくれないから。
 誰かがそうやって自分達のために死んでくれないと、自分達の利益が、欲望が満たせないから……!
 ……だから、共に、正義を説く。
「そんなのっ。そんなのを正義と言わないで下さい、父さん! 黙認だなんて…………そんな……っ!」
「……アメリア……」
 ばんっと一つ少女の肩を叩いて、父親は背を向けた。
 その肩が、がっくりと落とされているのを見て、少女は目を見張った。
「父さん…………?」
「………………」
「父さん!」
「……セイルーンを守らねばならん」
「どういうことです!?」
 ぱたぱたと駆け寄って、引き留めるようにその腕を掴みながら、少女は問いかけた。
「…………次なる獲物になるのは、どうしても、避けねばならん」
「だからって!」
「ここで黙認を貫かねば、次は我が国が魔に与するものとして弾劾されかねない。どうしても……どうしても、それだけは避けねばならん」
 重苦しい声で、自分に言い聞かせる父親に、少女はまた、激しく頭を振った。
「それで済むわけないじゃないですか!」
「だが……」
「黙認して、心を殺して! 逃げて……それでも、次がセイルーンじゃないだなんて保証、何処にもないのに!」
 ──誰も、明日を約束してくれない。
 会う筈、だったのだ。
 久しぶりに顔が見たいね、と。葡萄の季節だから遊びにおいで、と。
 滅多に会えない人間にも無理矢理招集かけたから、懐かしい顔が見られるよ、と。相変わらず単刀直入に、それでも優しい手紙が届いたばかりなのに。
 その招待に応じるつもりだったのに……。
「……アメリア………………」
 低い声で、もう一度少女の肩を叩くと、父親は、今度こそ振り返らずに、声を立てず涙を流す少女をおいて、扉の向こうへと消えていった。
 判っている。それが政治的判断だと……?
 ……けれど。
「誰も、教えてなんてくれない…………」
 ……──明日、この世界があるのかどうかすら……。
「……なのに」
 どうして、呪われた矢は、飛ぶのだろう……?
 小さな巫女は、何処か遠くから告げられる言葉を語るように呟くと、そっと自分の身を抱きしめて、震えていた……。

***************

    ほかのくにに住んでいた私は
    一滴も血が流れなかった
    ヒロシマの血が
    わたしをそうしなかった
    だけどどうしてヒロシマに
    のろいの矢がささったのか
    なんてことを問うやつは
    偶然のおそろしいことをしらなかったのだ
    おまえにその偶然がやってきていてみろ
    おまえの口に偶然のことばがのぼるか
    ところがこの場合にかぎって
    偶然は必然の偶然だ
    原爆は人の知識のかたまりだからだ
    ひとは理性をなくすことは
    きわめて多い必然だ
    アメリカの手にある原爆も
    ソ仏英中にある原爆も
    その必然に
    のろいの矢がねらっている

    ノーモア ヒロシマ
    ああ甘美なることばよ
    酔いしれるよいかおり
    必然の尻を
    ひとがちょっと押すと
    ノーモア地球になる
    ノーモアひとにもなる
    やはりもどしてやるか
    カオス、エーテルの宇宙へ
    そうしてみるのも
    また一興かと存じますが
    いかがです
    あなたの胸
    しかり あなたの胸は

          1969.8 (長友隆彦 「ヒロシマの偶然」)

***************

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7153連作〜生命〜(リナ+シルフィール+ゼロス)T−HOPE E-mail URL2001/8/16 01:03:01
記事番号7152へのコメント


    連作〜生命〜


 ──いずれ滅ぶ世界なら。
 そう言ったのは、魔の先駆け?
 その言葉への答えを、彼女はまだ返していなかった。
 ……滅びてしまえ……。
 そう思う心を、今は。決して否定できなかったから。

「……しっかりして!」
 言うだけなら簡単だ……と、思う。
 けれど、ここで。この暗い暗い地下室で、治療道具も何もなく、ただ転がるしかできない人達を前に、何が出来る? 何を言える?
 自分一人の身体すら、いつ朽ち果てるか判らない、負った傷がじくじく痛み爛れるというのに。
 血は鉄の臭いというけれど、腐り始めたこれは、鼻につき、嗅覚を麻痺させる。そんなことすら気にかけられない程の苦痛が、僅かに身を動かすたびに神経を劈き、呻き声となってこぼれ落ちた。
 こもる空気、汗の臭い。
 排泄物の臭いも混ざり合う、何もない、いつ崩れるか判らない地下室。
 それでも、いつ、何が降ってくるか判らない外よりは、と、誰もがここへ殺到した。そして、そこで横たわる。
 一度動きを止めてしまうと、もう、動き出せなくなってしまうのに。
 ……助けは、来ない。誰も、来る筈がない、見捨てられた人間達。
 それでも。
「死にたくない…………」
 細い細い微かな声が、彼女の握りしめていた手の先から、届いた。
 柔らかな暖かさを持っていた、綺麗な手。羨ましいと思えた碧の黒髪、女性らしさを全身に満たした綺麗な人。
 ……黒髪がざんばらに散っていても、傷つききった手が血みどろに腐っていても、その優しい美貌が無惨な火傷で腫れ上がっていても……細い声は、けれど澄んでいて。
 ……儚げで。
「死なない……わよ……っ」
 強い……自分では強いつもりの声が、何処か空虚に響く。
 自分の明日の命すら、保証できないこの空間で、励ますことしかできないのに、その言葉すら嘘だから、だろうか。
 言葉こそ、支障なく操れるけれど、全身に火傷を負い、拭えない血で固まった傷にあちこち引きつれているのは彼女も同じだ。
 そんな彼女を見て、その人は、弱々しげにけれど微笑んで、頷いて見せた。
 宥めるように……約束するように。
 と、その視線が泳ぐように動いた。
 それを追うように、彼女も目を上げ……首をかしげた。
「何…………」
 ──今。何が聞こえたのだろう?
「……子……供……?」
 その人は、意識をはっきりさせようとでもいうのか、痛みに顔を歪めながらも、頭を持ち上げた。
「子供…………?」
 彼女が、ゆっくりと膝立ちする。狭い地下室だ、立ち上がれば頭を打つ。
 そんな中、聞こえる声に、今まで痛みに呻いていた人間達が、僅かに自分の声を抑え、一カ所に意識を向けているのが見えた。
 ──子供が
「……生まれる…………?」
 こんな、場所で?
 明かり一つない地下室。医療の道具どころか、毛布──否、下に敷く筵すらないこの場所で。
 ……と。
 音の響くその狭い場所に満ちていた、人の声の種類が、変わった。
 隣に転がるのが誰かも気にせず、自らの傷の痛みを、負わされた苦しみを、失った悲しみを訴えていた憤りの呻きではなく。
 ──子供が、と。
 ──大丈夫か、と。
 ──どうすればいいだろう、と。
 ……次代の命を、それを生み出す母親の陣痛の痛みに耐える声を、気遣う声。それが、小さく、小さく底辺に流れた。
 空気が一瞬、負から生へと、転換した。
 その、瞬間。
「わたしが……」
 その人が、重い重い身を無理矢理に床から引き剥がすようにして、ゆらりと起きあがった。
「何を……っ」
 彼女は、驚いたように、その肩に手をかけた。
「……そんな大怪我で、何言ってるのっ?」
 けれどそっと、その手に、傷を負ったままの手が、重ね合わされた。
「やらせて……やらせて下さい」
「…………何故……」
 見下ろす顔には、まだ苦痛が残っている。けれど、それ以上に……柔らかな、その人のいつもの笑みが戻っているようで、彼女は言葉を失った。
 そっと、頭が振られ、手が、外される。
「ずっと、思ってたんです。…………サイラーグが失われたあの日、何故一人生き残ったんだろう、って」
「それは……」
「みんな、死にたくないって思っていた筈なのに。なのに……命を奪われた。その生の、途中で……みんな」
 歌うような響きに、彼女は口を閉ざした。
 そのまま下を向いてしまった彼女に、その人は、困ったように首をかしげてみせた。
「責めてるわけじゃありません。貴女に責任はないですもの……ただ、わたしは。上手く……言えないですけど、このまま終わりにしたくないんです。終わりに……でも……」
「…………シルフィール……」
 ふんわりと、暗闇の中きっと、その人は、微笑んだ。
「死の街を見たからこそ……ここで、諦めたくないです」
「シルフィール………………」
 手伝って下さい、と。言い切られ、留めることも出来ずに、彼女は頷いた。
 ……何が、言えるだろう。
 これほどの鮮やかな決意を前にして、何が?
「私に心得があります」
 静かな声は、それでも、きっぱりとした響きでその場を占めた。
 身動きできない様相で転がっていた重傷者達は、その声に、それでも僅かずつ身をよじり、彼女達の前に道を作った。
 ……そして。

 がたんと音を立て、地下室の扉を押し上げた。
 ……暁の光が、彼女を照らし出した。まっすぐに……くっきりと。
「死にましたね」
 不意に落ちる声に振り返れば、まるで彼女自身の影のように、そこに一つ。朝の光ですら消せない深淵の闇が、降りていた。
 白い面が、やんわりと微笑んでいる。
「………………何をしに来たの……」
 闇は、大仰な仕草で肩をすくめてみせた。
「いいえ。ただ……お返事が、まだでしたでしょう?」
「ふぅん」
 彼女はそう呟くと、また、くるりと前に向き直った。残された左の手で、庇を作るようにして、真っ直ぐに。
「……あんたも……大概、変なヤツよね」
 いうと、影が背後でくすくす微笑う気配がした。
「──何故?」
「無駄に時間かけるから」
 朱がかった太陽が、天空に徐々に昇り、白い光を世界に降らせる。瓦礫の大地に……それでも、平等に。
 ざりと地面が鳴り、影が並んだことが判った。けれど、彼女は視線を動かさなかった。
「時間……? そんなものに、どれ程の意味があります? どうせ……全ては滅びるというのに……」
「……ふぅ……ん」
 彼女は、その言葉に無表情にそれだけ答えると、ざり、ざりと瓦礫を踏みながら、ゆっくりと歩き出した。
「──リナさん?」
 追わない影の声が、後ろから聞こえる。
「……………………。……生まれたわ」
 開いたままの地下室の扉の向こうから、弱々しい、けれど生きている赤ん坊の泣き声が、一つ、響いていた。

***************

   こわれたビルディングの地下室の夜だった  
   原子爆弾の負傷者たちは
   ローソク一本ない暗い地下室を
   うずめていっぱいだった
   生まぐさい血の臭い 死臭

   汗くさい人いきれ うめきごえ
   その中から不思議な声がきこえてきた
  「赤ん坊が生まれる」と言うのだ
   この地獄の底のような地下室で
   今、若い女が産気づいているのだ。
   マッチ一本ないくらがりで

   どうしたらいいのだろう
   人々は自分の痛みを忘れて気づかった。
   と「私が産婆です、私が生ませましょう」  
   と言ったのは
   さきまでうめいていた重傷者だ。
   かくてくらがりの地獄の底で
   新しい生命は生まれた
   かくてあかつきを待たず産婆は
   血まみれのまま死んだ。
   生ましめんかな
   生ましめんかな
   己が命捨つとも

       1946.3 (栗原貞子  「生ましめんかな」)

***************

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7154連作〜世界〜(リナ+ゼロス)T−HOPE E-mail URL2001/8/16 01:10:53
記事番号7153へのコメント


   連作〜世界〜

「お久しぶりです」
「う〜わ、嫌な顔」
 不意に降った声に、振り向きもせず、女はただそれだけ答えた。
 実際、その言葉に違わず顔は、思い切りしかめられている。影は、それに苦笑すると、
「顔をいうならば、貴女の顔の方が、人間の基準的には嫌がられませんか?」
「言うかあんた、そこまできっぱり!?」
 今度こそ完全に嫌な顔になって、女は振り返った。
 影がそれに、にっこりと微笑む。
「あぁ、振り返って下さいましたね」
「…………あんた……相変わらず性格極悪……」
「お褒めいただき光栄の至り」
「あのね。…………ま、魔族じゃそんなもん?」
 殆ど言葉遊びのように次々紡がれるやり取りに、いい加減呆れたように溜息だけついて、女は言い返すのをやめたようだった。
 それでもこれだけは言っておこうかというように、軽く指を振り、
「でもね。いっくら何でも女の子相手に顔けなすのは反則じゃない?」
 実際、女の顔は、全面に刻まれた古い火傷の痕にひきつれが残り、元の造りが端麗だろうと想像できるだけ、無惨とも言える様相だった。
 けれど、言葉は非常に軽く、表情自体も、さほど深刻ではない。
 女の中では、この顔も、傷も、既に受け入れてしまったことなのだと、知らしめるように。
 影は、ちょこんと首をかしげると、笑みを全く消さないまま、
「女の子……という年齢ですか、リナさん?」
「……悪かったわね」
 容貌に言及された時より遙かに嫌そうに、女は言うと、ぷいと随分子供っぽい仕草でそっぽを向いた。
 影が、くつくつと微笑う。
「…………変わりませんね」
「そりゃどーも」
「いいことなんですか、それは?」
「う〜〜〜ん………………多分ね」
 女は、くいと首を捻り、暫し唸った後、それでもこくんと頷いた。
 その表情に……いつか浮かんでいた陰りは、もう、ない。
 影は、興味深げに──あるいはそう装いながら──それを見ていた。見られている女は、気づいているのかいないのか、僅かに細めた目を、遠くへと投げている。
「……結局、答えては下さらないのですか?」
「…………」
 女は、ふんわりと微笑った。
「……答えてなかったっけ?」
 いつか、影は女に言った。
 ──全てを終わりにしませんか?
 と。
 そして女は……?
「ないですよ?」
 影の言葉に、女は、くすっともう一度笑った。
「………………生きてるの」
 影は、首をかしげた。
「今は、でしょう?」
 女は、肩をすくめた。そのまま、一歩、足を進める。
 いつか、影をその背後に置いて、瓦礫の、廃墟の、死の街の中へ踏み出したように。
 影は追わなかった。その時も……今も。
 ただ。
「……あの時の赤ん坊………………死にましたよ?」
 女は「そう」とだけ答えた。
 仲間とも言える女性が、己の命と引き換えてこの世に生み出した、その赤子。それが、死んだと聞いて、そう、とだけ、答えた。
「貴女も死にます」
「そうね。いつかね」
「この地の毒は消えない。いつまでも……残るかもしれない。貴女の命はいつ絶えるか判らない。それでも?」
 女は、くるりと振り返った。
 その頬に、明るい笑みを刻んだまま。
「でも今生きてるの」
「貴女が面倒を見ている子供達……その子達の中にも、毒はあるでしょう。いつ現れるか判らないけれど、確かに。それでも?」
「それでも生きてるの」
 女は、笑みを浮かべたまま、そっと目を閉じた。
 身を包む、風の音。やっと萌え始めた木々の音。鳴き交わす鳥の声。水の音。
 名を呼ぶ幼い声。声。声。
 ……確かにそこにある、その、音。
 女は、傷にも幾つも見た死にも破壊にも、色を変えない、その鮮やかな暁の瞳を開いた。
 一瞬、微笑みが、消えた。
「あたしの意志で。あたしのために、あたしだけのために……生き続けるの。国もその思惑も、関係ない。ただ、この地にあるあたしの、あたし達のためだけにね。それを邪魔するなら、戦うだけ」
 影は、その瞳を、すぅっと細めた。
「…………今の貴女が、戦うの、ですか?」
 ひんやりと、冬の夜の闇の冷気をそのまま流し込んだように冷たい、声。
 心臓を握りこまれる程に深い力の発露に……けれど、女は。
「物騒だわね……ゼロス」
 二の腕から先を失った右腕を見せつけるように上げて……また、微笑っていた。
 そして、もう一度踵を返した。
「…………戦いの手段は、一つじゃないわよ……?」
「……リナさん………………?」
 影の声に、背を向けたまま、ひらりと左手が振られた。
「今生きてるの…………あたしも。みんなも」
 ──だから、終わらせたりは、しない。

***************

億年啼きつづけて
鳥はまだその歌を完成しない
億年育ちつづけて
木はまだきわみの空を知らぬ
地球よ 地球よ
どうして炉の火を落せよう
元気よく手をあげるちびっ子たちの声が響いて
小学校は授業中だ
       (新川和江「地球よ」)

***************

さて……もしここまで読んで下さった方が入らしたら、深くお礼申し上げます。
ひっっっじょぉぉぉに卑怯なのは、自覚してましたからね(^^;)
この場合、何処までがスレイパロなのか……というのが……まぁ。
でも、書いてみたかったので。自己満足でしかないですが、それでも、やるだけやってみたのでした。
本当は6日か9日か、せ〜め〜て、15日中にどーにかしたかったのですけどねぇ。イベントを優先した私(汗)
……ちなみに……私、別にガウリンゼル君が嫌いなわけじゃないですっっっと、とりあえず言い訳(笑)
女性陣がいいとこ取りしてるのは、まぁ、贔屓の産物ですけどね。ゼロスが出張りっぱなしなのは、コレが「生と死」に絡むからだと思っていただければ幸い。
なので、話的には全くかけ算じゃないです。それっぽく見えたとしても……えぇ。
とりあえず、もしお気が向かれて、もしコレを読んでいただき……すこ〜しでも、心の何処かに引っかかってくだされば、嬉しいのですけど、私の駄文ではそうもいかないかも、ですねぇ(;;)
ただ。
判ってやった、幾つもの詩のうちどれかが。
いつか、心に落ちていけばいいなぁと、そう思うのでした。
ではでは、とぉぉぉぉぉっても寛容で暇で時間をもてあまし中な方、いらっしゃったら、感想でも頂ければ啼いて踊って喜ぶのでよろしくなのですと、宣伝しておくのです(って、図々しい(^^;)

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7160読ませていただきました。かお 2001/8/16 21:27:47
記事番号7154へのコメント

・・・・・ダークというか・・何と言うか・・・。
あの世界にも、核兵器というものが、あったら、こんななのかなー。
と、ちょっと考えてしまいました。
人間って、ある意味残酷ですよね。
それは、私も思っています。
でも、リナがリナらしくて、なんだかいいと思います。
ふと、おもったんですが、ルナ姉ちゃん防げなかったんでしょーか?
ま、無理だったんでしょーねー。
?でも、どこの国が一体・・・?
何か、感想にもなんにもなってないですね。すいません・・・。
ではでは。失礼します♪

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7201有り難うございました〜m(_)mT−HOPE E-mail URL2001/8/23 22:51:15
記事番号7160へのコメント

こんばんは、T−HOPEです。
感想どうも有り難うございました(^^)

>・・・・・ダークというか・・何と言うか・・・。
>あの世界にも、核兵器というものが、あったら、こんななのかなー。
>と、ちょっと考えてしまいました。
>人間って、ある意味残酷ですよね。
>それは、私も思っています。

まぁ……ダーク、かもですわねぇ。
ただ、私ごときがいくら無駄に言葉を連ねても、やっぱり、本当にその場にいて、見て、生き残った方達の一言には到底叶わないのですけどね。
なので、どうにも不満が残る出来なのでした(;;)
ちなみに、この場合残酷なのは……そうですわね、結局は、人間、でしょうか。
“権力者”と捕らえて書いちゃいましたけど。

>でも、リナがリナらしくて、なんだかいいと思います。

有り難うございます。
この話、リナの毅さを思わなければ、書けなかったかもしれないので。
受け止めて、言葉を発してくれるのは、やっぱりリナかなぁ、と……。

>ふと、おもったんですが、ルナ姉ちゃん防げなかったんでしょーか?
>ま、無理だったんでしょーねー。
>?でも、どこの国が一体・・・?

その辺は……どうなんでしょうねぇ(^^;)
でも、赤の竜神の騎士ではあっても、ルナさん、あくまで一般人の筈、ですので(笑)
対魔族でない限りは、動けなかったかもしれないなぁという前提だったりするのです。
……何処の国かは……さぁ???(汗)

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7181Re:初めまして★宝珠 2001/8/19 10:37:09
記事番号7154へのコメント

初めまして、宝珠といいます。
読ませていただきました、今回はダーク系なのですね。(^^)
あと、T―HOPE様のHPのスレイ小説よく楽しく読ませていただいてます。(^▽^)
ゼロス君、・・・やっぱ君魔族だわ。(笑)
私の書いている小説の中のゼロス君ははっきしいって、魔族やめてます。(笑)
リナちゃんは、相変わらず自分の道筋を辿ってますね。(^^)
それでこそ、リナちゃんらしいと思いました。

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7202有り難うございました〜m(_)mT−HOPE E-mail URL2001/8/23 22:58:24
記事番号7181へのコメント

こんばんは、T−HOPEです。
感想どうも有り難うございました(^^)

>読ませていただきました、今回はダーク系なのですね。(^^)

えぇ、ダーク系……ですわねぇ。
まぁ、普通の代物と、ちょぉっと違うのですけど(^^;)
ちょっと卑怯なやり方かもしれないなぁと思いつつ、私の駄文はともかく詩の方ちらっとでも読んでいただけたらなぁ、ということで。えぇ。

>あと、T―HOPE様のHPのスレイ小説よく楽しく読ませていただいてます。(^▽^)

はぅ? あうぅぅ……有り難うございます(汗)
あのでも、あまり読まれると、駄文菌うつるかもしれませんわよ?(^^;)

>ゼロス君、・・・やっぱ君魔族だわ。(笑)
>私の書いている小説の中のゼロス君ははっきしいって、魔族やめてます。(笑)
>リナちゃんは、相変わらず自分の道筋を辿ってますね。(^^)
>それでこそ、リナちゃんらしいと思いました。

えぇ、ゼロス君今回特に訳の判らない魔族と化してるかもです。
優しいどころか、の、状態ですものねぇ。
……ちなみに……えぇ……私が書く代物でも、かなりしょっちゅう、魔族やめてますので。貴方何者状態とか(((^^;)
ただ、リナがリナらしいと言っていただけて、ほっとしました。
既にスレイパロやめてるよーなものでしたので(汗)