◆−薔薇の妖精との再会−ザズルア (2001/9/13 18:32:52) No.7335 ┗薔薇の妖精との再会 2−ザズルア (2001/9/14 17:57:05) No.7337 ┗薔薇の妖精との再会 3−ザズルア (2001/10/4 16:55:32) No.7442 ┗薔薇の妖精との再会 4−ザズルア (2001/10/6 12:10:14) No.7447 ┗薔薇の妖精との再会 5−ザズルア (2001/10/7 13:37:58) No.7453 ┗薔薇の妖精との再会 6−ザズルア (2001/10/10 17:51:40) No.7472 ┗薔薇の妖精との再会 7−ザズルア (2001/10/11 16:50:17) No.7483 ┗薔薇の妖精との再会 8−ザズルア (2001/10/17 17:34:14) NEW No.7541
7335 | 薔薇の妖精との再会 | ザズルア | 2001/9/13 18:32:52 |
ダークスターとの戦いの後のこと、アメリアはセイルーンへ帰る途中だった。 (むむっ!あれは・・・!) 数人の男たちに囲まれている一人の少女がアメリアの視界に映った。 「よぉよぉ、譲ちゃん一人か?」 「なんなら俺らと遊ばねぇか?」 囲まれている少女は嫌そうな顔をしている。 (これは、正義の出番です!!) 思うなり、アメリアは木に登り始めた。 しかし、彼女の出番は必要なかった。 「お前ら、私のような娘をナンパするとはよほど女に恵まれていないようだな。」 少女はおさえた低い声で男たちに挑発した。 「な・・・、なんだと!!」 「もう一度言ってみろ!!」 「あぁ、言ってやるさ。お前たちは私のような子供に声を掛けるほど女に恵まれていないようだな。」 「こ・・・、この小娘が! そこまで言うのならとっちめてやる!!」 男たちが少女に跳びかかる。 しかし、少女は余裕の笑みすら浮かべていた。 「ぐはっ!」 少女は拳で足で男たちを蹴散らした。 「ふっ・・・、たあいもない。」 (な・・・、なんかわたしの出番がないし・・・。っていうかあの女の子のほうが悪人ぽい・・・。 ・・・あれ?あの人もしかして・・・。) アメリアはぴょいっと木から飛び降りる。そして、 ずべっ! お約束であるが、派手に着地に失敗する。 「誰です!?」 少女が振り向く。 「わたしです・・・、アメリアですよスプルさん。」 そう、先ほどの少女は幻≪ミラージュ≫の森で出会ったスプルであった。 「アメリアさん!お久しぶりです!! ・・・大丈夫ですの?」 「大丈夫です!いつものことですから。」 「いつもなんですか・・・。」 それから彼女たちはここであったのも何かの縁ととりあえずセイルーンの町の食堂で食事をとりながらこれまでのことを話した。 「えーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! アメリアさん、ゼルガディスさんについて行かなかったのですか!?」 スプルの大声に他の客の視線が声の主に集中する。 「な・・・、何も大声出さなくても・・・。」 「だって!好きならついて行くものではないのですか!?」 「それは・・・、わたしだってゼルガディスさんについて行きたかったです・・・。 でも・・・、わたしにはセイルーンがありますし、それに、ついていったって邪魔なだけですし・・・。」 「そんなことありません!!」 再び大声を上げるスプル。そして再び注目を浴びる。 「だから大声出さないで下さい〜!」 「あら・・・、失礼。 でも、アメリアさんは邪魔になることはないです。 だって、愛しているのでしょう?お互い。」 「えっ・・・!」 スプルのストレートな言葉に赤面しつつも首を縦に振るアメリア。 その様子を満足そうに見るスプル。 「まぁ、今ごろ言っても遅いのですが・・・。」 「ところでスプルさんはこれからどうするんですか?」 話題を変えようとするアメリア。スプルはそれについてしばし考える。 「そうですわね・・・。当てがあるわけでもありませんし・・・。 う〜ん・・・・・・・・・・・・・・・。 そうですわ!!」 それから半年後、アメリアはスプルと一緒に庭にだされたテーブルに腰掛けていた。 半年前―― 「アメリアさん、私を御付きの魔道士とかに雇ってくださいなv」 スプルはいきなり突拍子もないことを言った。 「えっ!?どうしてそうなるんですか!?」 「だって、そうしたらゼルガディスさんが戻ってくるまで私がアメリアさんを変な虫からガードできますものv それに、何でも話せる人がすぐそばにいるというのは気が楽ですわよ。 あっ、御付きの魔道師ではなくてもメイドとかでもよいですから、あなた様に付かせて下さい!!」 大声で、しかも土下座してスプルはアメリアに頼んだ。 めいっぱい人の注目をあびて困ったアメリアはそれを承諾した。 よってスプルはアメリアの御付きになったわけである。 「・・・と、言うことですが・・・、アメリア様?」 じ〜〜〜〜〜〜〜〜っと何も付けていない方の腕首を眺めているアメリアに声を掛けるスプル。 彼女は城に来てから「郷に入っては郷に従え」とアメリアのことを様付けにしている。 しかし、その他は別に変わりなくアメリアと接している。 「・・・・・・・・・・・・え?何ですか?」 かなりの間を置いてアメリアが返事する。 「何ですか?じゃありませんわアメリア様!! ですから、また来たのです!『夜鳥』からの予告状が!!」 『夜鳥』とは、このところ世界中の国の王族や貴族を騒がせている悪党で、いろんな国の姫をさらい続けている。 その姿は白い夜の鳥のようなので『夜鳥』と呼ばれている。 「次のねらいはレイナードのブロッサム姫です。 レイナードはセイルーンの親戚の国、憂さ晴らしもかねてあの『夜鳥』を捕らえましょう!!」 「・・・そうですね!! ここで見捨てたら正義ではありませんものね!!」 言ってアメリアは指をあさっての方向へ向ける。 「待ってなさい『夜鳥』!お前はわたしが捕らえる!!」 つづく |
7337 | 薔薇の妖精との再会 2 | ザズルア | 2001/9/14 17:57:05 |
記事番号7335へのコメント そして、アメリアとスプルはレイナードへと到着した。 「・・・スプルさん、何なんですかそのいかにも怪しい格好は?」 「えっ?」 今のスプルの姿を一言で言えばゼルガディス黒バージョン。 暑苦しい黒ローブに黒マントで身を覆い、フードと黒いマフラーで顔を覆っている。いくらなんでも怪しすぎる。 「まぁ、良いではありませんか。世の中には変わった人が多いですから。」 「そーゆー問題ですか・・・?」 「そーゆ−問題ですわv」 きっぱりはっきり言われ、なんか言い返せないアメリアはやや諦め気味でレイナード城へと向かった。 「・・・と、言うことでわたしは正義の名のもとにはるばるセイルーンから来たのです。」 「そうですか。」 ここはレイナード城の玉座の間。 アメリアは今回狙われているブロッサム王女に事情を説明していた。 「ところであなたの後ろにいる魔道士は?」 「彼女はわたしの付き人のスプル=フェアリーマです。」 「・・・お初にお目にかかります。ブロッサム姫。」 抑えられたような低い声でブロッサム姫に挨拶をするスプル。 「・・・。 私も紹介しましょう。」 言ってブロッサム姫は左の青い髪の青年を指す。 「彼はセイド=ドゥレスト。私の親衛隊長です。 若く、親衛隊に入りまだ二年ほどですが、腕がよくて信頼のできる者です。」 「セイド=ドゥレストです。」 若き親衛隊長が一礼する。 「アメリア、ちょっとあなたの付き人を借りて良いかしら? 少し話があるのです。」 「えっ?かまわないと思いますけど・・・。」 言ってスプルの方を振り向くアメリア。 「・・・・・・私などでよろしければ。」 「だ、そうです。」 「そう。 それじゃあ悪いですが皆、この部屋から出て行ってはくれませんか? 彼女と二人きりで話があるのです。」 「そんな!この得体の知れない魔道士と二人きりになるなんて!!危険すぎます!!」 「セイド!」 反対するセイド隊長に怒り声で静するブロッサム姫。 「大丈夫です。彼女は私の害を及ぼすことはありません。ですから部屋を出なさい。」 「しかし・・・。」 「部屋を出なさい!これは命令です!!」 「・・・かしこまりました。」 しぶしぶと部屋から出て行くセイド隊長。 そして、部屋にはスプルとブロッサム姫のみとなった。 「・・・何の御話でしょうか?」 「シラを切らないでスプリング。」 「・・・違います。私はスプル=フェアリーマです。」 「いいえ、あなたはスプリングでしょう?」 否定するスプルにさらに追究するブロッサム姫。 「いいえ、人違いです・・・。」 「嘘をつかないで。」 言ってブロッサム姫は玉座から腰を上げ、スプルに近づく。 「さぁ、フードとマフラーを取って。」 「いいえ。私の顔は醜いです。ですからそのような顔をあなたにお見せするわけにはいきません。」 「いいえ、あなたは醜くはないはずよ。私の知っている少女の顔のはずだわ。」 ブロッサム姫は言うなりおもむろにスプルのフードとマフラーを外す。 「!!」 「やはり・・・。スプリング、あなただったのね。」 「ブロッサム様・・・。」 「どうして、どうしていきなり城を出て行ったの!? あなたほど信頼できる者はいないのに・・・。」 「・・・私は許されない、いいえ許せない者になってしまったのです。」 「許せない?何もなかったのにどうして!?」 「・・・それは申すことができません。 言えばあなた様も傷つくこととなります。」 「言って!私が傷ついてもいいから!!」 「言えません!!」 突然スプルが出した大声に半歩下がるブロッサム姫。 「それは・・・、言えません。 ここに戻ってくる気もありませんでした。 でも、ブロッサム様が危ないと聞き、黙っていられずここに戻ってきました。 この事件さえ終わらせればもう二度とここには戻ってきません。」 「・・・わかったわスプリング。いいえスプル。 予告の日まではまだ少し余裕があるわ。その間だけでもここにいなさい。」 「かしこまりました。」 つづく |
7442 | 薔薇の妖精との再会 3 | ザズルア | 2001/10/4 16:55:32 |
記事番号7337へのコメント かなりお久しぶりです!! 文化祭と図書館のパソコン使用禁止などが原因でしばらく来れませんでした。 (書きたくて仕方なかったっす!) それではつづきです。 ========================================= セイドはなぜか眠れなかった。 (眠れねぇ・・・。) 思うなり、セイドは窓に近づく。 (星でも見てりゃあいつかは眠くなるだろ・・・。) そう思って窓の外を見る。 するとそこには一人のセイドと大して変わらない年ごろの少女の姿があった。 漆黒の髪、紅い双眸、透けるような白い肌の美しい少女だった。 人の目を気にしていないのか、薄いワンピースを一枚着ているだけである。 (何なんだ、あの子は・・・?) セイドは妙にその少女が気になった。 少女はどこかに行くようである。 セイドはその少女に導かれるように後を追った。 「みんなごめんね、しばらく世話できなくて。 婆様に世話を任せたけど、あなた達のことを詳しく知らないから・・・。」 (・・・・・・。) 着いた所は街から少し離れた森の中にある薔薇園。 そこには色とりどりの薔薇が咲き乱れていた。 少女がその薔薇たちに話し掛けている様子にセイドは絶句した。 呆れているのではない。見とれているのだ。 (なんなんだろう、あの子は・・・。 どうしたんだ、オレ?彼女が女神のように思える・・・。) ガサッ! 「誰ですの!?」 セイドが無意識にもっと彼女を近くに見ようと体が前に動いた物音に少女が気づいた。 「あっ・・・!」 「セイド殿?なぜここに?」 謝ろうとしたセイドに彼を知っている様子の少女。 「何でオレのことを・・・?」 問うセイドに少女はふふふとはにかんだ笑いを浮かべた。 「改めまして、私、セイルーンのアメリア=ウィル=テスラ=セイルーン様のお付きの魔道士のスプル=フェアリーマです。」 「セイルーンのアメリア様のお付きの・・・ってえぇ!?」 セイドは大絶叫した。 「やはり驚かれましたか?セイド殿。」 「あ・・・。はい・・・。」 「正直な方ですわね。 ――ここであったのも何かの縁ですし、もしよろしければ肥料を運ぶのを手伝ってはいただきませんこと?」 「い・・・、いいですよ!! あっ、それからオレのことはもっと気軽に呼んで下さい。 こんな格好では親衛隊長もお付きの魔道士もありませんから。」 言われてスプルは自分の服装に気がついた。 だが、恥ずかしがりもせずまた魅惑的な愛らしい笑顔で答えた。 「はい。わかりました、セイドさん。」 セイドはその笑顔を見ている自分の頬が熱くなるのを感じた。 「・・・見た目と違って結構力があるんですね・・・。」 「そうですか?」 セイドはかなり重い肥料の袋を男の自分と同じ量を持っているスプルを見て驚きの声を上げた。 「まぁ、鍛えていますからね。」 「・・・すみません。」 「え・・・? 何を謝っているのですか?別に悪いことを言ったわけではないですのに。」 「いえ・・・、違うんです。 昼間、あなたのことを得体の知れない魔道士だなんて言って・・・。」 謝りだすセイドにスプルは肥料を下におき、セイドに近づいて手で制する。 「そんなこと、言って当たり前です。 逆に今の言葉の方がいただけませんわね。 あなたは人を見た目で判断するような人なのですか?」 「あ・・・。すみません。」 「いいのですよ。わかっていただければ。 まぁ、あんなに怪しい魔道士の正体がこんな普通の小娘では誰だって驚きますが。」 「普通じゃありません!」 思わず声が大きくなってしまった。 「普通じゃ・・・ないです。 とても・・・、きれいです・・・。」 (何言ってるんだ?何言ってるんだオレ!?) 混乱するセイドを知ってか知らずかスプルはちょっと驚いた表情をすぐに笑顔にした。 「ありがとうございます、セイドさん。 お礼に、肥料を撒いたら少し素敵な場所にご案内いたします。」 「ここですわ、セイドさん。」 スプルが連れてきた所はちょっとした丘。 そこでは零れ落ちそうなほどに沢山の星が見られる絶好のスポットだった。 「うわ・・・、きれい・・・。」 「でしょう?この場所、教えたのはあなたが初めてなんですの。」 「オレが・・・。」 ふと、セイドは何かを期待している自分に気が付く。 (何期待しているんだオレ!?オレが特別なわけがないだろう!? というより何で期待しているんだ!?) 再び混乱するセイド。 「セイドさん、ちょっとこちらで腰をおろしてはいかがです?」 スプルはセイドを自分の隣へ誘う。 「そ・・・、それじゃあお言葉に甘えて・・・。」 セイドは言われるがままスプルの横に腰を下ろした。 「・・・・・・。」 「・・・星、きれいですね・・・。」 「えっ!?えぇ、そうですね・・・。」 セイドは慌てた感じの返事をした。実際彼は星を見てはいないのだ。隣にいる少女が気になって。 「セイドさん・・・。あなたには好きな人とかいます?」 「えぇっ!?すすすすすすすす好きな人ですか!?」 思いっきり動揺して答えるセイド。 「えっと・・・、いない・・・かな?」 「・・・もし、あなたが好きになった人に恋人とかいたらあなたならどうします?」 「えっ・・・?好きな人に恋人がいたら、か・・・。」 セイドはしばし本気で考える。実際にそんな体験をしたことがないからだ。 「多分・・・、諦めると思います。 相手がいるのだったら自分が入っていく隙がないと思いますんで・・・。 でも、どうしてそんなことを?まさかスプルさんの好きな人が・・・。」 セイドの言葉にスプルは首を横に振る。 「好きだった人が、です。 今はもう想ってません。」 「そう・・・、ですか・・・。」 さびしい口調で言うスプルに申し訳なさそうに答えるセイド。 「セイドさん・・・。」 「!?」 セイドは自分にもたれかかるスプルに驚く。 「すみません・・・、すこしだけ、こうさせてください・・・。」 そして、スプルは黙った。 それからどのくらいの時間がたっただろうか? セイドには永遠にすら感じられるような時間だった。 「あの・・・、えっと、スプルさん。そろそろ城に戻った方が・・・。」 真っ赤になっている顔を見られたくなくて別の方へ向けていた視線を自分にもたれているスプルのほうにやる。 そこにはすぅすぅと寝息を立てて眠っているスプルの姿があった。 「眠っている・・・。」 セイドはついその寝顔を凝視する。 起きている時にどこかある大人っぽさがなくなり、愛らしい、可愛らしい寝顔であった。 セイドは無言で眠っているスプルを抱き上げた。 起こした方が早いのだが、もう少し彼女の寝顔がみたいからである。 セイドは眠っているスプルを自分の部屋につれてきた。 別に変なことを企んでいる訳ではない。彼女の部屋を知らないのだ。 人に聞けばいいかもしれないが、こんな時間に人を起こすのは失礼である。 セイドは抱きかかえた少女を自分のベッドに寝かせ、自分は部屋の外で寝るつもりだった。 つもりだったのだ。 しかし、セイドは愛らしい寝顔で眠っているスプルを力いっぱい抱きしめたい衝動にかられた。 そしてセイドはその衝動に負けてしまった。 (抱きしめるだけ、抱きしめるだけだ!! それ以上のことはする気はない!変に手を出すわけじゃない!!) 自分に言い訳しまくってセイドはスプルの眠っているベッドの中に入る。 ――この姿を誰かに見られたら間違いなく白い目で見られるだろうが。 そして、力いっぱいスプルを抱きしめる。 彼女の黒い髪からは仄かに薔薇の香りがする。 セイドはその香りと彼女の暖かい感触にこの上なく幸せに感じた。 (あと少しだけ・・・、あとすこしだけ・・・。) 「ん・・・?」 スプルは目を覚ました。まだ夜明け少し前くらいだろうか。 だが、そんなことより彼女が気にしたのは自分を抱きしめて眠っている青年の方であろう。 ここまでいえばわかることだろうが、セイドはあのまま眠ってしまったのだ。 「き・・・、きゃあぁぁぁぁむぐっ!」 スプルが叫ぶより一瞬早く目を覚ましたセイドがスプルの口をふさぐ。 「むぐむぐぐっ!」 「叫ばないで下さい!お願いですから叫ばないで下さい!!」 言ってセイドが手を離す。すると当然スプルが叫ぼうとする。 「むががががっ!」 「次に叫ぼうとしたらキスして口をふさぎますよ!」 本当はそっちの方がいいのだが。 内心そんなことを思ってしまうセイドだった。 しかし、そんなセイドの思いとは裏腹に、さすがにそれだけは嫌だったか今度は叫ばないスプル。 「・・・なんでこんなことをしたんですの!?」 「えっ・・・と、それは・・・。」 言えない。いとおしくなって抱きしめただなんて。 真っ赤になって口をもごもごしているセイドを見て、スプルはやらしいことを考えていたと思い、 何気に呪文の詠唱をしはじめた。 「違います違います違います!手を出すつもりはなかったんです!!」 「と、いうことはやっぱり私に変なことをしたのですわね!!」 「あっ・・・!いえ、そういうつもりでいったわけじゃないんですけど・・・。」 「それでは、どういうつもりでしたの?」 いつもの笑顔で問うスプル。 しかし、その笑顔は魅力的というより恐怖を生むような笑顔だった。 「えっと・・・、その・・・。」 必死に言い訳を探すも、良い言い訳が思い浮かばずただうなるだけ。 その様子に呪文を詠唱しなおすスプル。 「違います違います!!呪文を唱えないでください!!」 「『呪文を唱えないでください』、ですか・・・。ふむ。」 つぶやいてスプルは大きく息を吸った。 そして、 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 スプルは城の隅から隅まで響き渡るような声で叫ぶ。 「どうしたんだ!?」 その声の驚いて集まってくる城の人たち。 その人たちにスプルは怯えたような瞳で 「私・・・、目がさめたらここに居て、この人に抱かれてて・・・。」 事情を知らない人が聞いたら間違いなく誤解を受けるような事を集まってきた人たちに言い出すスプル。 「何ぃぃぃぃ!!親衛隊長、おまえさんそんな人だったのか!!」 「いまどき珍しい良いヤツだと思ってたのに!!まさかこんなことをするやつだったなんて!!」 「とっちめちまえ!!」 「ち・・・、違います!!そ・・・、そうじゃなくて・・・。」 「いいえ!私が言ったことはすべて本当です!!」 何とか言い訳しようとしたセイドの言葉をスプルがさえぎる。 確かにスプルの言ったことはすべて本当のことである。ただし、誤解されるような言い方で。 「あ・・・、あの・・・えっと・・・。」 『この外道野郎!!』 そして、 第一回セイドをタコ殴ろう大会は朝日が昇るまで続いたとか続かなかったとか・・・。 アメリアは目を覚ました。 窓から入ってくる朝日の光がまぶしい。 彼女は枕もとに置いていた片割れのいない宝石の護符を手にする。 そして、彼女は思う。宝石の護符の片割れを持っている人物のことを。 「ゼルガディスさん・・・、会いたいです・・・。」 つづく |
7447 | 薔薇の妖精との再会 4 | ザズルア | 2001/10/6 12:10:14 |
記事番号7442へのコメント 「・・・で、今朝の騒ぎだったのね。」 「申し訳ございません、我ながら恥ずかしいです・・・。」 翌日、セイドは昨夜のことを主のブロッサム王女に話した。 「まぁ、私はあなたがそんなことをするような人ではないということくらいはわかっていますが・・・、 もう少しわきまえないとスプルに嫌われてしまうわよ。」 「はい・・・、わかりました・・・ってなんで俺の気持ちまでわかったのですかブロッサム様!?って言うか何気に親しげだし!!」 「昔の知り合い・・・みたいなものなのよ。スプルは。 それに、そこまで聞けば誰だってわかるわ・・・。」 そういってふっと微笑むブロッサム王女。彼女はふと自分の愛しい人を思い出したのだ。 そんな彼女の横顔は普段の雰囲気が消えていて、見る人が感嘆のため息をつくほど美しい。 かくいうセイドも見とれてしまった。 「――話は変わりますが、今日は予告された日ですわね。」 鋭い主の声に我に返るセイド。 そう、今日は『夜鳥』がブロッサム王女をさらうと予告した日。 「はい。しかし、ご安心を。このセイド、何があってもブロッサム様をお守りいたします。」 「自分のみは自分で守れます――といいたいですが、『夜鳥』はかなりの魔法と剣の使い手との噂。恐らく私の剣技でもかなわないでしょう。 ですから、アメリア達や護衛隊を呼び集め、作戦を練りましょう。」 「作戦ならば私にお任せください。」 「!?」 いきなり後ろから声をかけられて思わず振り向く二人。 「スプル(さん)!?」 そこには普段の格好のスプルが何気なさそうに佇んでいた。 「ブロッサム様、ご安心を。何があろうともこのスプル、ブロッサム様をお守りいたします。」 そしてスプルはさきほどセイドが言ったのと同じセリフをブロッサム王女に言った。 そして夜。 たくさんの護衛に囲まれている漆黒の髪の娘は玉座にやはり恐ろしいのか、うつむいて座っている。 彼女の格好は動きやすさを重視した男装であった。 これはもしも『夜鳥』との一騎打ちになってしまったときのためである。 静粛が続く中、 ガッシャーン! 天窓が割れる音とともに白い服を着た男が降って来た。 「『夜鳥』だ!であえ!!」 護衛隊の隊長らしき人物の声を合図に『夜鳥』に飛び掛る護衛たち。 しかし、 ズドォォォォォォン! 激しい爆風と共に飛び掛った護衛たちはすべて吹き飛ばされた。 残るは――玉座に座る女のみ。 彼女はゆっくり腰を上げ、腰にさした細剣を抜いた。 そして『夜鳥』は思い出した。今回の獲物は細剣を使わせたら並みの戦士くらい軽く倒せる技力の持ち主だということを。 しかし、その程度の相手では彼に勝つことは出来ない。 『夜鳥』もまた、自分の得物を抜く。 そして、 カキィィィィン! 金属のぶつかる音が玉座の間に響く。 数度、その音が鳴り響いた。 そして、 キィィィン! 「くっ!」 『夜鳥』は相手の得物を彼女の手から叩き落とした。 一歩づつ後ろへ後退していく獲物を見ながら『夜鳥』は覆面の下で笑む。 女の背中が壁にぶつかる。彼女は壁にかかった槍を破れかぶれのように手にして『夜鳥』を威嚇する。 そんな愚かな獲物を覆面の下で隠れて見えない口元を笑みの形にしたまま彼女に近づく。 獲物を捕らえるため、『夜鳥』はみぞおちを狙いつける。 しかし、 「残念でしたわね。」 「!?」 『夜鳥』の狙った獲物は槍を使って華麗な弧を描いてその身を翻す。 ・・ 彼女はその姿勢で笑みながらじっと『夜鳥』を見据える。燃えるような紅色の瞳で。 彼女は華麗に着地するとすばやく『夜鳥』を壁に押さえて身動きを取れなくさせる。 「私はブロッサム王女ではありませんわ。 私はセイルーンからきたアメリア様の従者、スプル=フェアリーマ。生憎ながらブロッサム様は自室よ。 さぁ!愚かなる賊め!その素顔を見せていただきましょうか!?」 言ってスプルは『夜鳥』の覆面を剥ぎ取る。 「!?」 しかし、『夜鳥』の素顔を見て驚愕の表情を浮かべるスプル。 「お前は・・・いえ、あなたは・・・。」 つづく |
7453 | 薔薇の妖精との再会 5 | ザズルア | 2001/10/7 13:37:58 |
記事番号7447へのコメント スプルが一瞬の隙を見せた瞬間、 「!!」 『夜鳥』がスプルの腕を振り解き、走り出す。 本物の獲物がいる――ブロッサム王女の自室へ。 「しまった!!」 慌ててスプルは全速力で『夜鳥』を追いかける。 「アメリア様!アメリア様、聞こえますか!?」 持っていたレグルス盤でそれの相棒を持つ人物――アメリアに話し掛ける。 『はい!どうしました!?』 「真にもって不覚ながら『夜鳥』を捕らえ損ねました!今、ヤツはそちらへ向かってます!!」 『わかりました!こちらも体勢を整えます!』 「それから・・・。 それから部屋にきたのが誰であっても気を許さないで下さい。」 「え・・・?それってどういう・・・。」 スプルは返事を言わぬまま通信を途絶えさせた。 アメリアは冷静になってブロッサム王女とセイドの方を向く。 「ブロッサム、セイドさん、スプルさんは『夜鳥』を捕らえられなかったようです。 そして『夜鳥』はこちらへ向かっているそうです。戦闘の準備を。」 「わかったわ。」 「わかりました。」 そして二人は自分の得物を手に取る。 ブロッサム王女は細剣を、セイドは逆に大振りの剣を。 しばし沈黙が流れる。 そして、 バンッ! 一人の男が乱暴に部屋の戸を開ける。 『部屋にきたのが誰であっても気を許さないで下さい。』 アメリアはスプルが何故そういったのかがやっと理解できた。 「ゼルガディスさん・・・?」 銀色にひらめく金属の髪、石人形との合成によって石が肌についている、しかし美しい顔立ちの青年。 間違うはずもない。彼はアメリアが愛している男、ゼルガディス=グレイワーズその人であった。 「・・・・・・。」 『夜鳥』――ゼルガディスはアメリアを見ても動揺の一つも見せないでブロッサム王女に迫る! ゼルガディスとブロッサム王女の間を誰かが塞ぐ。 「兄貴!!」 (えっ・・・?) ゼルガディスの前に出てきたのはセイドだった。 「兄貴・・・、ゼルの兄貴だろ!? 俺だ!兄貴に仕えていたセイドだ!!どうしたんだ兄貴!!」 ゼルガディスを説得しようとするセイド。 しかし、 「邪魔だ。」 ゼルガディスはセイドの胸倉をつかんで放り投げる。 「ぐわぁっ!」 「セイド!」 「セイドさん!」 二人の気が投げつけられたセイドに向いたその一瞬にできた隙をゼルガディスは見逃さなかった。 「くっ!」 「ブロッサム!!」 一瞬の隙を見せてしまったが為、首筋を叩かれ気を失ったブロッサムを腕の中に、ゼルガディスは窓の淵にたたずむ。 「ブロッサム王女は頂いた。」 「待ってゼルガディスさん!!」 「さらばだ。」 「お待ち!!」 やっと追いついてきたスプルが吼えるのと一瞬遅く、ゼルガディスは高速飛行の術で夜空へ逃げる。 「逃がしはしませんわ!!」 言ってその後を同じく高速飛行の術でスプルはゼルガディスを追う。 「ま・・・、待ってください!!」 慌ててアメリアも追おうと呪文詠唱する。その時、 「待ってください!俺も連れて行ってください!!」 アメリアに話し掛けたのはセイドだった。 アメリアはセイドを見て無言でうなずき、完成した術を解き放つ。 「――レイ・ウイング!」 つづく |
7472 | 薔薇の妖精との再会 6 | ザズルア | 2001/10/10 17:51:40 |
記事番号7453へのコメント 「セイドさん、ゼルガディスさんのことを知っているみたいでしたけど・・・。」 アメリアは同じ風の結界の中にいるセイドに問う。 「はい・・・、オレは昔とある裏組織にいたんです。 その時の仲間の頭が兄貴――ゼルガディスだったんです。」 (ゼルガディスさんの昔の仲間の人・・・。) セイドは続けた。 「オレ・・・、兄貴を尊敬してました。 兄貴は裏の者だったけど根はいい人で・・・、憧れてました。」 そうゼルガディスのことを語るセイドの目ははどこか誇らしげだった。 ゼルガディスは急に森の奥に入っていった。 三人はその後を追った。 そこにはブロッサム王女ををいまだ抱きかかえたままでいるゼルガディスが地面に降り立っている。 「こんなところに降りると言うことは、本拠地を知られたくないと言うことかしら?」 ゼルガディスを見て挑発気味でスプルは言った。 「そういうことだ。 それに、お前らは俺に下手に攻撃できないだろうしな。」 そう、下手にゼルガディスに攻撃しようとして彼の腕の中にいるブロッサム王女を盾にされたらどうにもならない。 しかし、どうすればいいのかわからない二人とは裏腹にスプルは笑みすら浮かべていた。 そして呪文詠唱をしながらゼルガディスに近づく ――汚れ無きものをいとおしむ 異なる世界を統べるもの 我 汝に盟約を近いし者 (この呪文・・・!) アメリアはその力ある言葉に聞き覚えがあった。 そう、下級とはいえ純魔族を一撃で葬り去ったあの呪文。 そんなものを使ってしまえばゼルガディスを殺してしまうだけではなく、ブロッサムさえもまきこんでしまう。 我の怒り 汝の力となりて 汝の怒り 我の力となりて 「やめて!スプルさん!!」 アメリアはスプルに叫ぶ。 しかし、スプルは詠唱を止めない。 我が心に生まれし闇よ 力となりて その源に裁きを与えよ 「異神魔破斬(ジャズル・フィラード)!!」 「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 つづく |
7483 | 薔薇の妖精との再会 7 | ザズルア | 2001/10/11 16:50:17 |
記事番号7472へのコメント スプルの魔力で生まれた光は彼女の手中で形取り、光は形になった。 ゴォォン! 鈍い音があたりに響く。 スプルが生み出したフライパンがゼルガディスの頭をたたく音が。 『・・・・・・。』 その光景にアメリアとセイドは驚きのあまり絶句した。 「・・・って何するんだいきなり!!リナよりひどいぞおい!!」 「そういうあなた様こそアメリア様に迷惑をおかけして!天罰ですわ!!」 「だからってフライパンかい!!」 「だってフライパンでないと効きそうにないんですもの!!」 「俺だって痛いものは痛いんだよ!!」 「そもそもあなたが他者に操られるほど愚かなのがいけないのでしょう!?」 「・・・って操られていた!?それって本当ですか!?」 アメリアの言葉に反応して振り返り、スプルはうなずいた。 「だってやっていることがすでに正気ではありませんでしたもの。 もし正気でしていたのならば抹殺決定でしたけどv」 ・・・意外とシビアな性格なスプルであった。 「でしょう?ゼルガディス様。」 「あぁ、そのようだ。・・・ってなんで様付けなんだ!?」 「それは主のアメリア様の恋人のお方ですもの。当然でしょう?」 「当然でしょう?じゃないだろ!!とにかく様付けはやめろ!!」 「そうですか・・・。わかりましたゼルガディス殿。」 「・・・・・・わかってない。」 ゼルガディスはこれ以上言うのをやめた。 彼はわかっているのだ。こういう人間はいくら言っても無駄だと。 「さて、問題は黒幕がどこにいるかなんですけど・・・。」 言って視線を上にあげたまま硬直するスプル。 「どうしましたか?」 「・・・どうやら黒幕は三流のようですわ。」 「え?」 スプルは右の人差し指を視線の先に指す。 そこにはいかにも怪しい塔が聳え立っていた。 「・・・まぬけ、としか言いようがないな。」 「全く・・・。」 ポツリとつぶやいたセイドの言葉に相槌を打つブロッサム王女。 セイドは――恐らくこれが普段の口調なのだろう――丁寧語ではない、普通なしゃべり方になっている。 「突入いたします?アメリア様。」 「当然です!!」 言って拳をぐぐっと握り、力強く言った。 彼女は怒っている。理由は言うまでもないだろう。 昔馴染みの友をさらおうとしたから、とか悪だから、などという事もあるがやはり一番の理由は (ゼルガディスさんを操って悪行を働くなんて!絶っ対に許せません!!) だろう。 「ほかの皆様は?」 「自分を操っていた奴を黙ってみているわけにはいかないだろう?」 「私も、自分をさらおうとした輩をほおっておくわけにはいかないわ。」 「オレも行きます!」 「それでは、決定ですわね。」 そして五人は歩みだした。 黒幕がいると思われる塔の方へと―― つづく |
7541 | 薔薇の妖精との再会 8 | ザズルア | 2001/10/17 17:34:14 |
記事番号7483へのコメント 「ブラムブレイザー!」 「エルメキアフレイム!」 アメリアとゼルガディスの放った閃光が、 「ダイナストブレス!」 ブロッサム王女の放った氷が辺りのレッサーデーモンを打ち倒す。 そして、 「アストラルヴァイン!」 スプルが魔力を込めたセイドの重そうな大剣が赤く輝く。 「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 気合とともに振り下ろした大剣でセイドはレッサーデーモンを切り倒す。 彼らは現在黒幕がいると思われる塔の中にいた。 そこには大量のレッサーデーモンが放されていて、今、それらを片付けながら奥に進んでいると言うわけである。 そして、 「みんな!あそこに扉が!!」 「よし、行くぞ!!」 ゼルガディスの声に皆がアメリアが見つけた扉に駆け込む。 そんな彼らに気付き、レッサーデーモンは扉を目指す人間を追う。 「ディムウィン!」 アメリアの“力ある言葉”に応えて現れた強風が行く手を阻むレッサーデーモンを吹き飛ばす。 「今です!!」 一気に駆け出す五人。しかし、レッサーデーモンの一匹が彼らに向かって炎の矢を放つ! 「きゃあっ!」 運悪く、そのうちの一本がスプルの足にかすった。 「っ!」 その一瞬の痛みに足のバランスを崩してしまい、ひざまついてしまったスプルにレッサーデーモンの鋭い爪が彼女に襲い掛かる!! ――もうだめっ! キィィン しかし、レッサーデーモンの爪はスプルの柔らかな皮膚を切り裂かなかった。 セイドが剣でスプルをかばったのだった。 「てぇぇぇぇい!!」 「グワッ!!」 セイドは剣でレッサーデーモンを振り払ってスプルを脇に抱えて扉に急ぐ。 当然、レッサーデーモンが追いかけてきたが、一瞬の差で戸を閉めてその追撃を防いだ。 「・・・助かった。」 ほっと一息つくセイドとスプル。 はっと我に返って抱えていたスプルをセイドは下ろす。 「ご・・・、ごめんなさい!つい、とっさに・・・。」 「いいえ、ありがとうございます。」 笑んで礼を言うスプル。その彼女の表情にセイドは頬を赤く染める。 そんな彼の顔を見て彼の気持ちがわからないのは想われている当の本人だけである。 「ようこそ。我がヒャルシャインの塔へ。」 部屋の奥から声がした。 一同がその方向へ振り向くと、そこには一人の女が近づいてくる。 年のころなら二十歳すぎ。白銀色の髪と透き通った水色の瞳が氷のように冷たい感じの美女だった。 つづく |