◆−赤い糸 14 full moon−早坂未森 (2001/12/7 18:57:51) No.7850
7850 | 赤い糸 14 full moon | 早坂未森 E-mail URL | 2001/12/7 18:57:51 |
ギャア、ギャア、ギャア…… 夜の森に響くのは、屋敷の方角から聞こえる爆発音、そして驚いた鳥達の鳴き声。 闘いの幕は、切って落とされた。 「― また会ったな。リナ=インバース」 出で立つ、黒い影、ひとりの男。 注がれる凍りつきそうなほどの殺気。 「――…そうね…少なくともあたしは、二度と会いたくなかったけど」 赤い糸 14 full moon ―― カタン。 夜のウィルランド邸。 今日――いや、もう昨日の事だ―――やってきた客人にあてがわれた部屋のうちひとつ。 「旦那――気づいてるか?」 傍に置いてあった斬妖剣を手にとり、こたえる。 それにならって、ゼルガディスも剣をとった。 「ああ。かなり数が多い……それと、リナが部屋にいない」 ― それと、もうひとり―――― 「――くるぞ!」 っどごぉぉぉおおん! 「…きた」 響いた爆発音を耳にし、彼女は顔を上げ、呟いた。 手元には、紅く光る紅玉の指輪。 奪われ、そして還ってきたもの。 どぉぉん… 再び爆発音が響き、屋敷が揺れる。 どこかで慌てたようにドアが開く音がし、どこかで剣のぶつかり合う音が聞こえる。 だが、彼女は何もしない。寝巻きのまま、ベッドの縁に座っている。 誰もこの部屋には来ていないし、出て行ったところで自分は何も出来ない。 何もしなくても向こうは来てくれる。 「今夜は満月…」 窓の外に輝く満月。 その月を見つめて――否、虚空を見つめて。 抑揚のない声で、言葉を紡ぐ。 「――昏き死神、月満ちるとき現れる――」 細い指にはめられた指輪が、暗闇の中で紅く光る。 「決断のとき、運命の分かれ道」 行方を知るのは、すべての闇の母のみ。 「紅き女神、蒼き守護者――運命の導人」 どぉおぉおぉおん…! 部屋の近くで、爆発音が響く。 「…わたしは……なにもできない」 前に進むことも。 戦うことも。 満月を見上げて、呟かれた言葉は―――次の爆発音によって、掻き消された。 どぉおんっ! そんな中ガディルも、ひとりで敵と応戦していた。 っぎぃん! ざんっ! また一人、ガディルの剣によって薙ぎ倒される。 間をおかず、別の者が襲い掛かってくる。 ぎんっ! 次々と刃は襲い掛かってくる。 使い手はどれも彼にとってはとるに足らない者ばかりだが、こう数が多くてはどうにもならない。 「くそ…っ、どこにいるんだ、シヴィンっ!」 いるはずのひと。 いるはずなのにいない。 気配さえもない。 ならば何処にいる? ざんっ! また一人。 その場に崩れ落ちる。 「振動弾【ダム・ブラス】!」 どごあぁんっ! アメリアの叫びとともに、部屋の壁が突き破られる。 魔法で突き破った壁の向こう側にいた敵が、不意の攻撃にふっとばされる。 不意とはいえ、これくらいの攻撃をかわせなかったところを見ると、どうやらたいしたことはないらしい。 アメリアはその姿を確認すると、びしぃ!と指差し何時ものキメポーズで、 「夜中に人の寝こみを襲うなどと、愚かな手を使うその根性、このアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが鍛え直してあげますっ!」 「な、なにを…っ!」 彼女の言葉に気が触ったのか、吹っ飛ばされたお間抜け暗殺者が立ち上がる。 しかしアメリアはそんな暗殺者の様子などお構いなく、次の呪文を発動させた! 「問答無用っ、火炎球【ファイアー・ボール】!」 っどぉん! 放った光の球が、障害に当たり爆発した。 屋敷の中で戦うと部屋を荒らすことになる。なら外で戦えばいいのだろうが、それも今は出来ないし、ここは二階だ。 それに、部屋の被害が出ているのは何もここだけではない―――既にこの部屋も被害は出ている。 というわけで、アメリアは手加減なしに―――というか、思う存分戦ってもいいという事にして、自己完結させた。 「烈閃槍【エルメキア・ランス】!」 煙がおさまると、今度は向こうから攻撃を仕掛けられる。 それをアメリアは、難なくかわし。 …どす…っ アメリアの拳が鳩尾にはいり、仰け反った。 いつの間にか、森には火が入っていた。 小さな火種はやがて燃え広がり、樹木を焼く。 屋敷で火の呪文が使われたのか、それとも故意につけられたのか―――それは、リナたちにはわからない。 ただ、この状況はあまりよろしくない。 そのことはわかる。 リナ一人なら、倒すことも、逃げることも可能だろう。 だが、そばにはシルヴィンがいる。リナは、シルヴィンの力量を知らない。 だから、わからない。 「屋敷には別の者が行っている。アレを取り戻すのも時間の問題だ。―――お前達には、死んでもらう」 冗談じゃない―――リナは、そう思った。 --------------------------------------------------------------------+ 何も言わないでください。 逃走っ! |