◆−最後の大賢者−R.オーナーシェフ (2002/1/18 20:29:10) No.7969 ┣最後の大賢者2−R.オーナーシェフ (2002/1/18 20:32:31) No.7970 ┣最後の大賢者3−R.オーナーシェフ (2002/1/18 20:36:11) No.7971 ┣最後の大賢者4−R.オーナーシェフ (2002/1/18 20:48:01) No.7972 ┣最後の大賢者5−R.オーナーシェフ (2002/1/27 17:59:27) No.7998 ┗最後の大賢者6−R.オーナーシェフ (2002/1/27 19:44:30) No.7999 ┗初めましてぇ♪−文月霊次(風見霊) (2002/1/29 01:51:09) No.8005 ┗Re:初めましてぇ♪−R.オーナーシェフ (2002/1/31 19:23:59) No.8028
7969 | 最後の大賢者 | R.オーナーシェフ E-mail | 2002/1/18 20:29:10 |
どうも。ひさしぶりに投稿します。 俺がいつも書くやつって、もうすでにガウリナの関係がうまくいっていて、結婚していたり、また ちょっとストーリーの味付けてい程度につかったり、というパターンが多かったんですね。 びみょーな、くっつきそうだけど、どうなるの? と、いうようなのは書いたことなかった。今回はそういうやつです。本編終わってゼフィーリアに帰ったところから。 ところで、ぶどうの収穫季節って、てっきとーに書いてしまったのだけど、合ってるのかなあ? ま。いーや。 ストーリ考え始めたのが↓に書いてあるころなんですね。いつもの通り、今の季節としっかりズレてます。 ************************************************** 夏が終わり、そろそろ秋である。昼はまだ暑いが、朝晩はすずしく、空は澄んで高い。 ゼフィーリアではぶどうの収穫の季節。 なのだが・・・・・・・・・・ 「あんた・・、ほんとにぶどう食べたかったんだ。」 「まあな。」 ゼフィーリアではボージョレヌーボーが有名だが、ワイン用のほかにも 種類はいくつか有名なものがある。その中でも粒のでかいものなどは普通皮をむくのに 手間がかかるし手もベタベタになるので敬遠する人もいるのだが、ガウリイはなれた手つきでつるりんと簡単に食べてしまう。 「ねえガウリイ、あたしの実家に来たかった理由ってぶどうだけ?」 「うーん、そうだなあ・・。聞きたいか?」 「うん。」 あたしは強めに言った。なぜか。 「おまえ、何か期待してるだろ。」 「それは・・・」 そこで、あたしは言葉に詰まった。 「リナ・・・? 熱ないか?顔赤いぞ。」 「ないわよ。うっさいわね。気温が高いからよ。」 いつも通り、ガウリイに怒りながらも、同時に心の何処かで一言一言、しぐさにガウリイらしさ を感じ、ここちいいような気もした。 あたしは目の前にあったワインを飲み干した。 ぬくもりが。つたわってくる・・。いつもそばにいる彼の、知っているあたたかさ。でもこんなに深くやすらいだ ことはなかった・・。 つんつん。ぺたぺた。べちべち。ばしぃぃぃぃぃん!! 「ったーっ。ったく何すんのよって・・・・ね、姉ちゃん?」 「よ。リナ。ずいぶんきもちよさそうに眠ってたわね。」 「あれ?ここは・・・」 あたしが眠っていたのはベッド。見渡せば部屋にはあたしと姉ちゃん。見覚えのある場所だ。 「レストランリアランサーの2階よ。あんたがよっぱらって『う〜ん』なんてSEXYな声出しながらガウリイに よりかかっちゃって、そのまま眠っちゃってさ。仕方ないからガウリイがあたしの案内で抱きかかえて 運んできたのよ。他の客にひやかされながらね。」 「うぞ?」 「ほんと。」 「・・・・・・・・・。そ、そうなんだ・・。ところで、ガウリイは!?」 「うんと・・、就職面接ってやつかな。」 「・・・は?」 「流れの傭兵やめて安定した職につきたいんだってさ。それであたしが紹介 してやったのよ。 さっき推薦の手紙も書いてわたしてやったわ。」 「で、その場所は?」 「それはねえ・・」 「なによ。王宮の中までつれてきちゃってさ。」 あたしは姉ちゃんに言った。姉ちゃんはなぜかここをフリーパスで通ってしまうのだ。 「ついたわよ。」 「ここって・・・」 かつて降魔戦争のとき、人間側の主力となりドラゴンやエルフと連合を組んで以来の伝統をもつ “精強無比”ゼフィーリア騎士団。その統合参謀本部のある部屋のでっけー両開きのドアの前 にあたしたち姉妹はいた。 突然、ぎぎぎーっとドアが開く。出てきたのはちょっと渋めのおやぢ。見た目四十くらいだが実際は 七十歳だという。統合参謀総長サー・ピーター・デ・ラ・ビリエール将軍。‘歴戦の勇者’らしい。 姉ちゃん以外にもゼフィーリアにいくつか転がってる化け物その一である。父ちゃんとは宿命のライバル。 すでに有名だった傭兵ビリエールに、名を売出し中の若い父ちゃんが仕事で敵として出会ってから 剣を、たまに釣り竿を何度か交え、まだ決着はついてないようだ。 にしても、釣り竿で挑むのは、娘のあたしはあんましかっこよくない気がするぞ。父ちゃん。 「お!ルナとリナじゃねーか。ちょうどよかった。手伝ってくれよルナ。」 そう言われ、姉ちゃんは両刃の長剣をわたされ、あたしたち姉妹はビリエール将軍の後をついていった。 やがてかなり広い部屋に出る。そこに彼はいた。姉ちゃんがわたされたのと同じ長剣を持った長い金髪の男。 「ガウリイ!」 「よう。リナも来てくれたのか。」 「ようって、何してんのよあんた。」 「俺の剣の腕がみたいんだってさ。女王様が。」 女王様って・・まさかガウリイってM・・そうならそう言ってくれればあたしが・・じゃなかった。失礼。 ガウリイの周りをとりかこむように半円の席につく、各将軍や大臣たち。その真中に一人と、さらにその隣に従うように もう一人女性がいた。 真中にいるのは、姉ちゃんとは同じ年。化け物その二。あたし達姉妹とはよく組んで暴れてた彼女が即位してそれ程たたない ‘永遠の女王(エターナルクイーン)’の称号を持つ存在。名はエリザベート。 ボーイッシュなショートカットのブロンド。ちょっと見ただけでは、そこらへんでチンピラどもに ナンパされそうな綺麗なお姉ちゃんという感じだ。 違う意味の‘女王様’やっても似合うかもしんない。 だが一度その視線が合った瞬間、相手を必ずひれ伏させる。カリスマ性は抜群である。 そして、隣で女王となにやら話しているのが・・ 「ひさしぶりね。リナ。旅に出て以来会ってなかったけど。まさかこんな殿方つれてくるなんてね。」 「ま、導師(マスター)。おひさしぶりです。」 化け物その三。あたしは、姉ちゃんとフィルさんとこの人は苦手だ。名をエイミー・ハノーヴァーという。 このあたしに‘桃色(ピンク)のリナ’の称号を与えた張本人。 「さ、ルナ。ガウリイの相手してちょうだい。」 女王が言った。 「ま、いいわ。あたしもガウリイの腕は興味あるし。」 昔パートナーだった相手に姉ちゃんは今も同じ言葉使いで敬語はつけない。 二人が剣をかまえる。 ビリエール将軍が真中に立った。 右手を静かに上げた。そして振り下ろす! 「はじめ!!」 刹那 二人が消える。ドンっという、空気の壁を破る衝撃波。瞬間的にいくつも火花がとびちり、 ギリギリと剣をかみ合わせ、動きを止めた二人が姿をあらわす。 「はあっ!!」 ガウリイが気をはいた。 次の瞬間、あの姉ちゃんが後ろに吹っ飛ばされる! だがすぐに体勢を直し、鋭い突き。ガウリイが受け、すくいあげる。 流れるようにガウリイが振りかぶる。姉ちゃんには一瞬スキが出来た。だが、 上に飛ばされ宙を舞った のはガウリイのほう。姉ちゃんの剣を受け流した後には蹴りが待っていたのだ。 着地して受身を取り立ち上がるガウリイ。一度剣を収め、居合抜きで姉ちゃんに斬りかかる。 「くっ。」 なんとかそれを受け止める姉ちゃん。その時、一瞬姉ちゃんの目が変わる。そんな気がした時、 光が走るようにガウリイの剣ごと一気に斬り、ガウリイをふっとばした。 「ガウリイ!!」 あたしは思わず叫んでしまった。 姉ちゃんがガウリイに近寄り剣先をのどにつきつける。 「勝負あった。」 ビリエール将軍が言った。 姉ちゃんがゆっくり、剣を鞘に収めた。 「負けたわ。」 姉ちゃんが言った。 『・・・・・・・・・・・・はい?』 BYガウリイ以外の一同。 「あたしの負けだって言ってんのよ。」 「な、なんでよルナ・・・・あ。そっか。」 女王が言った。 同時にあたしも気づいた。 「ガウリイの勢いが凄かったもんでさあ。力が入りすぎて、つい使っちゃったのよ。あたしの スイーフィード・ナイトの力を。条件が不公平でしょ。だからあたしの負け。」 「こんな勝ち方納得いきませんよ。姉さん。将軍、俺の剣あります?」 いつのまにか姉ちゃんのこと『姉さん』って言ってるし・・・。 「ああ、これか?」 片刃の長剣をわたす。ガウリイの斬妖剣だ。 「これなら姉さんのスイーフィード・ナイトの力も受けられますよ。」 お。ガウリイ。ちょっとかっこいいぞ。ムチャだけど。 でも、ムチャなのは、あたしたちにとってはいつものことだ。 「面白いわ。リナと組んで高位魔族と戦ってきた勇者の剣ね。あたしも本気出そうかしら。」 持っていた剣を放し、姉ちゃんは虚空に赤い光を出現させた。 竜王と同様、スイーフィードの分身の一つであるそれはスイーフィード・ナイトの意思により 異空間を通って出現した。『赤竜の剣』だ。 「いくわよガウリイ。」 「ちょ、ちょっとまって」 あたしがそう言いかけた時、 「おう!」 互いが一気に斬りかかる。 「だあああああもう。ルナったらやめえい!こら。ったく。」 女王が言った。と思ったその次の瞬間、 ギィィィィィィィィィィィィィィン 刹那の静寂。 姉ちゃんの赤竜の剣とガウリイの斬妖剣を、女王の魔力がかかったバスターソード二刀流が、間で同時に受けていた。 でかいバスターソード二刀をこの速さ。ひょっとしたら女王のパワーって、見た目華奢なのにフィルさん くらいあるかもしんない。 「あんたが本気になったらあたしの城が消し飛ぶっちゅーの!!」 女王が姉ちゃんに言った。 「人のこと言えるか?あんた。」 「ルナほどじゃないわ。」 ガウリイは文句なしでゼフィーリア騎士団に合格した。 やがて皆が城の中にあるこの広い部屋―闘技場を後にした。 ・・おや? 一人だけ、違うほうの入り口から出て行く人がいる。 「ガウリイ、あたし久しぶりだから話してくるわ。エイミー先生と。」 「ああ。」 マスター・エイミー・ハノーヴァー。 あたしが旅に出る前はゼフィール・シティ魔道士協会評議長だった。その後歳だからと一度引退したのだが、 あたしが旅に出ている間に女王にたのまれ宮廷魔道士を非常勤でひきうけたようだ。 かつて仲間だった相手とのつらい戦いがあり、その後ガウリイと二人で郷里に帰ることにした。その途中 近代の五大賢者の一人、ルオ・グラオンが亡くなったという知らせを立ち寄った魔道士協会で聞いた。 あたしは、『ルオ・グラオンの書』なんてのを頼まれて探したりして、本人に会ったこともあるのだが、 普通のじいさんである。でもそう聞かされるとやはりさみしいものである。 そうなると、今生きている五大賢者は、その中の唯一の女性だった大魔道士。 ゼフィーリアの“生きている伝説”エイミー・ハノーヴァーただ一人だ。 やや歳いってるがまだまだ綺麗な女性、と見た感じでは映る。だが実際は世間一般の平均寿命くらいには なってるはずだ。 神官、僧侶系の白い服をもう少し飾ったような姿。あたしにピンクのローブをさずけたように変な少女趣味 みたいなところがあるのだが、性格はクールである。 新月の夜空のように黒く綺麗な長髪。あの歳で若いままのボディーライン。ナーガが歳をとったら こんな姿になるかもしれない。ヤな例えだが。 ガタっと先生が出ていった扉をくぐる。 「エイミー先生・・・って。歩くのこんなに速かったっけ?」 追いついたと思ったのだがかなり先まで行っている。あたしは少し速めに歩き、やがて灯りのとどかない 薄暗い廊下の奥の、地下へ続く階段へ行きついた。王宮は何度か来ているが、ここはあたしは知らない。 ・・・いや。かすかに。記憶があるかもしれない・・。 魔道を習い始めたばかりの小さいころ、ひょっとしたら来たことがあるのか・・・? あたしは階段を降りていった。 西の地平線がオレンジ色にそまり、やがて蒼く薄暗い色に変わる。空には細い月。 東から魑魅魍魎が跋扈する闇がやってくる・・・・ ここは・・、来たことあるかもしれない。確か、まだあたしが魔道を習い始めたばかりのころ、一回だけ先生と。 地下に降りたように感じられるが中庭である。王宮の中で床の高さが地面より下がり、城の地下の 部分から出入りできる手入れのよく届いた庭。天井がぽっかり空いている広い地下室という感じだ。 そこに、エイミー先生は立っていた。 「あら、リナ。」 「先生、ここは確か・・・」 あたしたちの目の前には長方形の石のケースが置いてある。その形から、これが何なのかはだいたいわかるが・・。 「ここはね、ゼフィーリア王室の霊廟なのよ。」 「誰が眠ってるんですか?」 ふと、エイミー先生は上向きかげんに軽く目を閉じ、息をはいた。 「フェリペ王子。向こうには先々代の王が眠ってるわ。二人ともあたしにとっては大事な人だから。 たまにここへは来てるの。」 フェリペ王子というと・・、現‘エターナルクイーン’エリザベートの叔父、先代国王の兄だ。后の子じゃないから 即位できずに、失意のまま亡くなった悲劇の王子。王位継承するわけではないから、あまり束縛されずフリーに 行動できたようで、彼にまつわる、アメリアが聞いたら泣いて喜びそうな伝説もいくつか残っている。 ゼフィーリアってそういうの多いけどさ。 母親は誰なのか、公表はされてない。国王の愛人としか。 だが、その正体は・・・今、分かった。 「そっか。先生、先々代の、昔の王様と『禁断の愛』ってやつをしちゃったんだ。」 「ま。そういうことよ。確か、今のあなたくらいの歳にね。」 今のあたしくらい・・か。 そりゃあ、あたしゃ女だし。恋もしたいし、お嫁さんだってあこがれてるし・・。 ほんとだってば。 確かにそういう年だな。 ふと、思い浮かぶ。ともに旅した彼の顔・・・・・・・・・ って、なんでアイツ思い出すのよ。 「リナ、顔赤いけど、どうかした?」 「ど、どうもしてませんよ。」 アイツがあたしの実家に行きたいと言ってからだ。調子が狂っちゃう。 そのときは正直うれしかった。なぜか。‘ぶどう’でなんだかごまかされたけど。 ムカツク。自分がわからない。 「ガウリイって言ったかしら。長い金髪の彼ね。ほんと、強くてやさしくて。ステキな人よね。」 「せ、先生!か、勘違いしないでよね。別にガウリイはなんていうか、自称保護者っていうか くされ縁っていうか・・、」 「やっぱり顔赤いわよ。ま、いいじゃない。自分の心の支えになる信頼できる人がいるっていうのは とてもありがたいことよ。」 「でも、ガウリ・・・・・・・・あ。そうか・・。先生って今は・・・・・・」 一瞬気まずくなった。セリフがつまる。 息子も夫とも死別。生きてるときもその立場上自由には共に暮らせなかった。今、エイミー先生は一人。 「いいえ。」 ぜんぜん気分を悪くすることもなく、まっすぐあたしを見た。 「あたしには、リナ。弟子のあなたがいてくれたからね。でも、そろそろかしら?娘を嫁に送り出す親の気分 を味わうのは。」 「もう。先生ったら。」 「これは本心よ。あたしは、あなたのウエディングドレス姿が生きてる間に見たいと思ってるわ。」 「そ、そんな。ウエディング・・・・・・・・・・・生きてる、間?」 「こう見えても、ずいぶん長く生きてるからね。大きな魔法もかなり使ったし、大分消耗してるしね。 ねえリナ。頼み聞いてくれる?」 「え?あ、はい。」 唐突なのできょとんとしてしまうあたし。 「あたしの一生が終わる時、あなたがみとってくれないかしら。 できることなら、あたしがあたしでいられる間に・・・・・・・・・」 |
7970 | 最後の大賢者2 | R.オーナーシェフ E-mail | 2002/1/18 20:32:31 |
記事番号7969へのコメント 政治は時に悪と手を結び毒をも飲むことを必要とする。古今東西、各国王室にお家騒動がつきもの なのは必然だ。聖王国をなのるセイルーンもそうだった。 だが、そんな争いは利益を求める外部に付け入るスキを与える。特に負の感情を食う魔族にとっては 最高のターゲットだ。 過去、魔族との戦いに人間の先頭にたってきたゼフィーリアも例外ではない。 フェリペ王子が騒動に巻き込まれた時も、やはり彼に魔族が近づいた。しかも高位の海将軍である。 当時は対魔族の切り札である先代赤の竜神の騎士(スイーフィード・ナイト)が亡くなった後だった。 当然ルナ・インバースとして転生する以前である。 苦戦したが、謀略を見破り、自分を王にし操ろうとした海将軍を王子は撃ち滅ぼした。大魔道士エイミーの助けを借りて。 その時エイミーが実の母だと言うことは国王とエイミー以外誰も知らなかった。王子自身も。 やがて王子は魔族との戦いと冒険のストーリーを残し、戦いでの消耗が原因で永眠した。 これが世間で伝わる王子の伝説である。 しばらく先生と話しして、あたしは先に王宮を後にした。 ・・・・ん? おや? 太陽が沈み、まだ薄暗い明かりが残る中、人影が歩いていく。あたしの向かう方向とは反対側に。 あっちにあるのは・・・ ゼフィール魔道士協会と、さらにしばらく行って、郊外の森の中にゼフィーリアの名門ハノーヴァー家がある。 かすかにしか見えないが、あの人影は知っている姿だ。さっき話してたばかりの。 「え、エイミー先生・・・」 呼んでみようと思ったがやめた。 でも、 なんでもうあっちのほう歩いてるんだろう?あたしが先に出てきたのに。ずいぶん早いな。 霊廟にはあたしが通ってきた入り口一つだけで他にはなかった。 あいている空からレビテーションで飛んできたか。 ・・いや。それはない。 ゼフィーリアの王宮の中で魔法使えばアストラル監視用の水晶に反応してしまう。 許可を得た場合か緊急時を除いて王宮内部では魔法発動は禁止されているのだ。もし使えば、 「殿中でござるぅ〜」などと言われて押さえられ、厳しい罰が待っている。例えロードクラスの人間でも。 そこらへんの魔道士、アンデッド、中下級の魔族に対する防御は鉄壁である。まあ、 ゼロスくらいのやつならば破ることもできるかもしれないが。 「うーん・・・・・。まあ、いっか。」 「できることなら、あたしがあたしでいられる間に・・・・・・・・・」 その先生のセリフがあたしの頭の中で響いていた。 東の空から闇が広がってくる・・・・・ 急いで帰ろ。 からんからん 「よう。リナ。ここ座れよ。」 レストラン・リアランサーの入り口を開けると、カウンターに座っていたガウリイが言った。多分、 スコッチあたりだろう。そのロックをかたむけ、氷をゆっくり溶かしながら。 あたしはそのとなりに座る。 実はここの店、夜になるとパブもやるのだ。 バーテンは・・・ 「リナ、あんたも何か飲む?」 他の客の注文したカクテルをしゃかしょこしゃかしょこ振りながら姉ちゃんが言った。昼のウエイトレス姿とは変わり、 蝶ネクタイに短めのジャケットを着ている。巨乳がウエイトレス姿よりももっとめだってるような・・。 化粧も少し濃くなっているかもしれない。赤い口紅がよく似合う。 奥の厨房で忙しいオーナーシェフに代わり、表は姉ちゃんが仕切っているのだ。 なんか、かっこいいし。女として少しくやしい。 ・・・・でも。それでいいのかスイーフィード・ナイト。 あたしは今年からゼフィーリアの法令でお酒が飲めるようになった。もちろんこれは国によって違うわけで セイルーンであたしが飲んだらアメリアが「未成年の飲酒すなわち悪」と言ってキレるだろう。 よい子のみんなもお酒は飲んではいけないよ。大人になってからね。 でも、やっぱ経験は浅いわけで好みがあるわけでもなく・・ 「なんかおすすめ作ってよ。姉ちゃん。」 「オッケー。」 ブランデーか?それと、レモンジュース、砂糖にソーダを入れて姉ちゃんはシェイクし始めた。 「はい。ルナ姉ちゃん特製『毒の見分け方練習用カクテル弐号』ね。」 「でえええええええええええええええええっ。ちょっとまってよ姉ちゃん。」 「弐号ってことは、壱号もあったんですか?」 ガウリイが姉ちゃんに聞いた。 「うん。昔、ノンアルコールでリナに飲ませたわ。毒には毒性弱めのブルーリーの実を使ってね。 今度はマンドラゴラあたりを・・」 「姉ちゃん、まぢ!?」 「使いたい誘惑があったんだけどやめたわ。ビックリした?本当はアプリコット・フィズっていうの。 飲んでみなよ。甘口でおいしいから。」 「へー。そんな名前なんだ。ありがとう。」 「ふふん。リナも大人になったわよねえ。ほんと、あたしが『世界を見て来い』って言ったときよりも 成長したわ。なによりも、こ〜んなステキな彼氏連れてきちゃうんだもんね。」 ぶぴゃあーっ 「っ、えほっ、げほっ。」 酒が気管に入るとぐるぢい・・ 「ち、違うわよ姉ちゃん。ガウリイはそんなんじゃないってば。」 「なーによ。照れるなって。」 「だからー。もう。ガウリイもなんか言ってよ。」 「ん?お、おう。えーと・・」 「ふーん・・・じゃあ、そうすると困ったわねえ。」 「どうしたの?姉ちゃん」 「これから田舎へ帰るとしてもまだ一日か二日くらいかかるし、どうせゼフィール・シティで泊まっていくんでしょ。 部屋はここの上の階にとっておいたんだけど・・・・・・ 一部屋しかとってないわよ。」 「ええええええええええええええええええええ?マジ?姉ちゃん。」 「うん。てっきり二人で泊まるもんだとばっかり思ってさ。もう他は予約でいっぱいだし。 あきらめて二人で泊まれ。リナ。いっそのこと彼氏彼女になっちゃえ。」 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ姉ちゃん。そんな・・・」 「ま。他に部屋ないんじゃ仕方ないな。リナ。」 普段同様に平然と。ガウリイはそう言った。あたしに向かって。 あたしは・・・・・・・・、その、ガウリイの視線に・・・・・、何も言えなかった・・・・・・。 あったかい・・。おいしそうな小鳥さんの鳴き声で目はもうさめたけど。気持ちいいからもう少し お布団さんのなかでヌクヌクしてたいにゃん・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・なんか作品違う・・!? 「リナ、おきてるのか?」 「うーん・・。」 布団の中でその声の方に寝返りをうつ。すぐ目の前にはガウリイの顔。 「おはよー。ガウリイ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん? ってガウリイ!! なにあんたあたしと同じベッドで寝てるのよ!!」 「仕方ねえじゃんか。ここベッド一つなんだから。いいって言っただろ?だいたいリナ、酒飲んでさっさと寝るなよ。」 そう、ガウリイはいった。ものすんっごく不満そうな顔で。 目を見ると、あんまし寝てないような目つきをしている。 「うーんと、昨日の夜のことはよく覚えてないけど。」 普段のガウリイみたいなセリフだな。酒はほどほどにしよう。 「せっかくの長い夜が・・・・・」 「は?夜?」 あたしはガウリイに聞いた。 「いや。なんでもない。」 ううっ。階段降りると、ちょっと頭にひびくな。ひょっとして初体験二日酔いってやつか? 一階では、ウエイター、ウエイトレスたちが店の準備でせっせと仕事している中、一人、姉ちゃんがすみっこの ほうのテーブルで剣の手入れをしていた。いつものウエイトレス姿とは違う、動きやすい戦士風の格好で。 「あ。おはよ。リナ。あたしちょっとお城まで出かけてくるわよ。」 「どうしたの?姉ちゃん。」 「さっき、エリザベートの使いが来てね。事件がおこったらしいのよ。」 「事件?」 「そう。昨日の夜、霊廟から死体が起き出して暴れたんだってさ。はなれた外からネクロマンシーで操られた らしいんだけど。死体はすぐ、女王を警護する魔道騎士によって倒されたわ。なかなか高度な術のようでてまどった ようだけどね。でもその死体が厄介でね。あの王子なのよ。」 「王子って、フェリペ王子!?」 「そう。昔、お家騒動があったのは知ってるでしょ。王宮内でもその時の争いをひきずってる派閥があってね。 争いに火がつきかねないわ。だからあたしがその前に、エリザベートのそばについて押さえに行くの。 ゼフィーリアにとって、あの事件にふれるのはやばいのよ。昔の、その事件とかかわってるのか、 誰が何の目的でやったのかは、まださっぱりわかんないけどね。」 「ねえ、その王子は当然、もう・・・」 「きれいに、虚空に塵と消えて滅ぼされたらしいわ。そうねえ・・、やっぱりエイミーさんはつらいでしょうね。」 そういって、姉ちゃんは不気味な朝靄の中、王宮へ向かっていった。ちょうど、ヒロイックサーガにあるような、 魔が支配する冥界へ降り、冒険に行く勇者のように。 ・・・・な〜んて言ったら大げさかな。なんといってもあの姉ちゃんだし。最後はエリザベート女王と組んで 力で強引に制圧するだろう。 でも・・、確かに・・ 「あまりいい天気じゃないわね。起きた時は日の光もさしてたのに・・。」 店の窓から空を見上げあたしは言った。 「朝メシ食って俺たちも行こうぜ。リナ。」 後ろからガウリイが言ってきた。 「姉ちゃんの話、聞いてたの?ガウリイ。」 「ああ。聞いてはいた。全部覚えちゃいないけど。」 ・・・やっぱし。 でも、まあガウリイだし・・。 「おまえさんの魔法の先生がつらいってとこだけ覚えてる。姉さんはお城に行ったんだから、俺たちのほうは その先生のとこ行ったほうがいいんじゃないか。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ うそ・・。うそよ。が、ガウリイが自分でこの後の行動考えてるなんて・・。 いやぁぁぁぁぁぁっ。そんなのガウリイじゃないぃぃぃぃぃぃぃっ。」 「あ、あのなあ・・・・・」 「冗談よ。」 「・・・・・・・・・。」 確かに。エイミー先生のところへ行って、一通り話を聞く必要はあるだろう。昔の事件にかかわった 人物の一人なのだから。 王宮の捜査チームは当然容疑者の一人と見るだろう。まさか息子を、と思うかもしれないが。 もちろんあたしは無実だと思う。どういう人かはよく知っている。あたしのローブをピンクにしたり おかしなところはあるけれど。 もしも苦しんでいるのなら、だれかが助ける必要があるのなら・・ 「あたしの仕事ね。これは。」 ゼフィーリア郊外に広がる深い森。その中を通る一本道の奥にハノーヴァー家はある。 昼なのに薄暗く、そうとう深い。たまに、魔道用語で言う『地磁気』が狂っているポイントがあり、 マジックアイテムが使えなくなったり、道に迷ったりもする。そのせいかアストラルサイドも変化がある ようで低級霊やレッサーデーモン、ブラスデーモンもたまに自然発生するところもある。自殺の名所でもある。 だが、そんなマイナス面ばかりでもなく、妖しいところには変な伝承もできるようで、ここの木に カップルが名前を彫っておけば必ず結ばれるとかなんとか・・・・・・・・・・ ・・・彫ってみようかな・・・・ いや。なんでもない。気にしないで。 また、動物さんたちにとってはパラダイスなのだ。野生のかわいい小動物を観察する趣味のある商人や貴族、 動植物を研究する魔道士といった連中がたまに別荘をたてたりもする。 ハノーヴァー家はそれよりもっと奥にある。理由は簡単だ。魔道研究を盗まれないように、 またよい研究環境を求めてこの地にエイミー先生の先祖は家を建てた。魔道士には共通する、宿命のようなものだ。 それでも、地下の暗いところでねちねちと研究するよりはずっと健全かもしれない。 それからずっと代々ハノーヴァー家は皆魔道士だった。 「なあリナ。」 「どしたの?ガウリイ。」 「このへんおかしくないか?なんか静か過ぎる気がするんだがな。」 「・・・・ほんとだ。」 確かに動物の気配が全然ない。この辺を歩くとウサギやシカなんかが道を横切って走って いったりするのにぜんぜん静かだ。 「かと言って、何かデーモンが潜んでいるような瘴気もぜんぜんないわね。」 やがてハノーヴァー家についた。深い森が開け、かなり大きな邸宅が姿をあらわす。 敷地を囲ってるわけではなく、まるで庭が森まで続いてるよう。普通、研究用の薬草を栽培してたり するものだが、この辺は自然に取れるから必要ないのだ。壁つくらなくても防御には、 この家は魔法だけで自信を持っている。 邸宅のつくりは少し古い。まあ実際古いからあたりまえだが。つたの葉っぱに覆われたりしてて 雰囲気がでている。 だが、いかにも怪しげな雰囲気が出ているのはもう一つ理由があるのだが・・・ 両開きの大きな玄関のドアをたたく。だが何の返事もなし。 「なんだかあやしそうな家だな。」 ガウリイが言った。 ぎい・・・・ あたしはドアをあけた。 「エイミー先生、リナでーす。入りますよー。」 あたしとガウリイは中へ入った。 ぎい・・・・ばたん!! 突然入ってきた入り口がひとりでに閉じる。入り口から漏れていた外の光がなくなり、一瞬暗くなったように 感じられた。 同時にガウリイが警戒して剣に手をかける。 「何だ!?」 「ああ。大丈夫よ。ここ、先生の魔法がかってて自動になってるの。」 「・・・・・な。なんじゃそりゃ。」 ガウリイの緊張が崩れ、一瞬気まずい空気が流れた・・・・・・・。 「先生の趣味なの。」 確かに、初めて来る者にとっては、大変まぎらわしい魔法である。たまーに本当に低級霊や レッサーデーモンに出会っちゃう場所だけにもてなしは抜群(?)。 そして、あたしたちは先生の部屋に向かった。 こんこん 先生の書斎のドアをあける。 何か。 空気が、違う。 「せ、先生・・?」 そこに座っていた大魔道士エイミーは、 まるで人形のように美しく。そして冷たく、固まっていた・・・・ う、うそ・・・・・・ |
7971 | 最後の大賢者3 | R.オーナーシェフ E-mail | 2002/1/18 20:36:11 |
記事番号7969へのコメント ゆっくりと、先生が座るイスに近づく。 「先生・・・」 冷たい目は虚空をみつめたまま。 「エイミー先生!!」 その瞬間、目の焦点が定まったような気がした。はっ、と思い至り、振り向く。 「あら。リナ。それに・・ガウリイだったわね。どうしたの?」 「それはこちらのセリフですよ。どうしちゃったんですか?先生。」 「ああ・・。ちょっとした、真相意識を使った魔法をね。」 「・・そう。ならよかった。研究熱心ですね。先生。ところで、王宮で発生した事件は聞きましたか?」 「ええ。あたしにも知らせがあったわ。」 「その・・・、なんて言ったらいいか・・。」 ガウリイが言った。 「大丈夫よ。あたしの息子は、もう、ずっと昔に亡くなってるんだから。」 自分に言い聞かせるように・・強く・・。 ・・それとも、冷たい人形がひとりでにしゃべるような、女優の演技にも見えるか・・・・。 ちょっと表情が読み取れない。 でも、先生がそう言うのなら。 「強いわね。先生。ほっとしたわ。」 「あたりまえよ。ずっとあたしの元で勉強したリナならわかるでしょ。」 「そうですね。」 緊迫していた空気が緩む。落ち着いて、何年かぶりにこの先生の部屋を見るけど・・・。 なんだかなあ・・。 「ぴ、ピンク・・・なんだな。この部屋・・。」 ガウリイも気が緩んだか、いまさらのように言う。 そうなのだ。この部屋はピンク色を基調とした、3才児のオママゴト部屋。いや、違うけど。まるで そういう感じ。女の子向けのストーリーのヒロインの部屋はだいたいこんな感じか。その中に、 難解で厚い魔道書をずらりとおさめた本棚やそれなりに落ち着いた造りの机が自然に溶け込んでしまう のだから不思議だ。さすがは近代の五大賢者。いや、関係ないけどさ。 でも、やっぱあたしはなじめない。数年間通ったところだけど。リビングメイルが並び、薄暗いライティング の照らす重厚な造りの廊下から扉開けたら、いきなりこうだもんなあ。 先生に聞くと、いい年した熟女が「だってあたし女の子だもん」などとぬかす。 あまり表情は多くない、静かな方だが、あたしにフリルのついた、どピンクのローブを与えるような人だし。 でも、二階のここの窓から広がる森を眺めると、地下の暗いところで研究するよりもいいアイデアが 浮かぶかもしれない。 「さて、本題に移りますけど、先生。フェリペ王子の永の眠りの邪魔をした不届き者に心当たりは?」 「そうね・・・・、あたしも容疑者の一人になっちゃうわけね。」 平然と。先生は言いきった。 「心当たりと言うと・・犯人は、昔の事件の関係者か、昔の事件とゼフィーリアの内情をよく知り、 ゼフィーリアを混乱させることによって何かの得をする者。 そして高度なネクロマンシーの腕前を持つ者。あたしが聞いた知らせでは、操られたあの子の体は ゾンビではなく生前そのままで滑らかに動き、当時を知るビリエール将軍に言わせれば剣の腕もそのままだったらしいわ。」 かなり高度なネクロマンシーを使うあたしの知り合いに、しゃべるゾンビやディープキスかまし、アドリブ もできるゾンビをつくるねーちゃんがいるのだが。 常識で考えて相当高度だ。だが今回はもっとレベルが高い。そもそもネクロマンシーだったのか。 魔族がからんでいる可能性も当然否定できない。 「ネクロマンシーなら、あたしもできるのよね。白、黒、精霊、攻撃系でも呪術系でも一通り研究してるからね。 動機もあるわ。今の女王は個人的に評価してるけど、王室、ゼフィーリア自身は、はっきり言って恨んでるし。 国のためにあの子が死んだことに変わりはないからね。」 「あのー、先生・・・」 「あたしはずっとここにいたけど、一人だったし。アリバイ証明できないわね。実際離れたここからでも いくらだって魔法でできるし。王宮の保安体制の魔道にかかわる部分はあたしも担当してるから ごまかせるもんね。」 「先生・・・。自分で追い込んじゃってるじゃないですか。」 「そーねー。」 一時の静寂。 『・・・いやー、はっはっはっは。』 BYそこにいた三人。 「って、笑ってごまかすなぁぁぁぁぁぁっ。せぇぇぇぇぇっかくあたしが弁護して真相解明するつもりで来たのに。」 「へえー。リナが?報酬無しで?」 先生は何か面白いものを見るような目で言った。 「ええ。それだけの価値があります。あたしには。」 まっすぐに。視線を外さずに言い返す。 「そう。うれしいこと言ってくれるわね・・・。」 先生は言った。少し、うつむきかげんで。視線を机に落としながら、でもその目は、昔の通りの 意思の強く、けど、やさしい目。あたしの知っているエイミー・ハノーヴァー。 やっと表情が読み取れ、あたしは、ほっとした。 「一言だけ。あたしは、やってないわ。」 「信じますよ。俺たちは。」 あたしの頭をわしゃわしゃなでながら、まるであたしの心を読んだかのようにガウリイが言った。 それに合わせ、あたしは無言でうなずく。 やがて、あたしたちはハノーヴァー家をあとにした。 ゾクッ 『!?』 同時にあたしたちは振り返った。今の、何? なんとも言えない悪寒。前にも何度か感じたことあるような・・・ その時に起きたことは・・・シャブラニグドゥ復活。 でも少し違う。そんな気がする。 「リナ。周りに注意しろ。」 ガウリイが言った。 刹那 木の影から、ささっと飛び出してくるもの。 「り、リス・・ね。」 木の実をかじり、口とほおと手を早く動かしながら、道の真中でちょこんとこちらを不思議そうに見つめる。 プチ グチグチグチ 『なっ?』 突然木の実かじっていた口の動きがとまり・・、背中からなにかがふくれあがる。 レッサーデーモン化!? 「くっ。かわいそうだが仕方ないか。」 ガウリイが剣に手をかけた。 ハノーヴァー家に一度戻って先生の様子を確かめたほうがいいんじゃないか。 デーモンをあっさり倒した後、ガウリイはそう言ったが、あたしは事件の捜査を急ぐことにした。 そうしたほうがいいような気がしたからだ。 デーモンが現れるとき、術者か魔族が普通はどこかにいる。でも元々あそこの森は自然に発生する場合 もある地点だし、何か、別の変化が起きた可能性だってある。 ゼフィール・シティーの中央通りから王宮の門を抜け、すぐに右折すると宮内大臣のオフィスがある。 そこの受け付けカウンターにあたしたちはいた。王宮関係者と、なぜか姉ちゃん以外の外部の者 が王宮に用がある時は、特別に招待された場合を除き、ここを通らなければならない。 もっとも、あたしの場合、今の女王と知り合いなのでチェックはすんなり通ってしまうが。 「女王警護の魔道騎士、‘イエロー’のジュリアに会いたいんだけど。」 「ジュリア隊長は今多忙で面会は難しいかと・・」 若い、メガネかけた真面目そうなあんちゃんが言う。 「今は姉ちゃんもエリザベートの側にいるんでしょ?一人抜けたってどうってことないじゃん。 『リナ・インバース』が会いに来てるってジュリアに一言伝えてくれりゃあいいのよ。そうすれば あの女はすっ飛んでくるから。」 ジュリアというのは、あたしが魔道士協会で勉強してたときの同期である。導師(マスター)一人に 見習い魔道士がそれぞれ一人づつ付くのだが、誰が評議長で『近代の五大賢者』のエイミーにつくのか ちょっと競争になっていた。 一番執念を燃やしていたのがジュリア。だが結局あたしに決まり、それ以来、ずっと向こうは、 まるで露出度高い某女魔道士のようにライバル心を燃やしている。まあまあ頭もいいし、一流と言ってもいい。 ナーガと違い、少しは役に立つ。あくまで、少しは、だが。とりあえず当時の魔道の試合では あたしの5勝0敗である。所詮はNo.2の秀才でしかない。だから、例えば、細かいテクニックは 高度なものを持っていても、実戦の極限的な状況で・・・・・・・・ 刹那、あたしは考えるより早く、かすかに足をずらす。次の瞬間、微妙に移動した頭のわきを、多少魔力を かけてあるレイピアが後ろから、あたしの髪を2、3本切りながら突き出た。 ちっ、という舌打ちが聞こえる。 「ふっ。さすがね。‘ピンク’のリナ。」 極限的な状況で・・・・・・・・殺気が出てしまうのである。生死をかけた戦いでは致命となりかねない部分だが、 隊長やってるところみると、リーダーシップはそれなりに持っていたようだ。 「ローリング・エルボー。」 「ぐはっ。」 回転し、後ろにいた彼女の首に肘撃ちをたたきこむ。ふらっと倒れかける彼女の胴を流れるように 抱えあげ、 「エメラルド・フロウジョン!」 まっさかさまに後頭部を地面に撃ちつけた。 カウント・スリー。ゴングの音と歓声が頭の中で響く。 No.2の秀才は、所詮、天才たるこのあたしの敵ではないということだ。 まあ、いまのはあまり魔道と関係ないけど。 「な、な、何するのよ。リナ!」 しばらくすぎて、頭を押さえながら言った。 「だって、王宮の中って魔法禁止じゃん。剣か肉弾戦しかないでしょうが。」 「そういう意味じゃなくてさあ・・・、ピンクって言ったの、根に持ってるわね・・。」 「いいえ。『おひさしぶり』の挨拶の代わりよ。ジュリア。あたしが来たとたん、ほんとにすっ飛んできたわね。 ねえジュリア、あたし頼みがあって来たんだけど・・。」 頭を押さえ、なんとかふらふらっと立ち上がりつつ、 「事件の捜査はトップ・シークレット。部外者はだめよ。」 「まだなんも言ってねーっつーの。ねえ、公文書館に案内してほしいんだけど。」 王宮内にある、でっけー図書館。その奥に普段は閉じられ、魔法の封印がかかっている扉がある。 ゼフィーリアの歴史の表と裏すべてが保存されている場所だ。変な呪術系の魔法がけられ、 読んだだけで生死にかかわるという古代神話の記された本とか、クレアバイブルの写本の内容の 口伝の、さらにその調査資料(くどいけど。写本が簡単にあるわけないでしょ。)、 スイーフィード・ナイト転生の追跡記録などが管理されている。 「だめに決まってるでしょ。」 「昔、エイミー先生通して魔道研究のために一緒に入ったところでしょ。お互い、いろいろいたずらした仲 じゃない。落書きしたり紙飛行機にしたり、ジュリアなんかやりすぎて魔道書に封印されてた魔物 復活させちゃったじゃない。」 そのとき、ジュリアの後から人影が接近し、首根っこをひょいっとつかみあげた。 「へえ。あたしが即位する前のあの騒ぎの犯人ってあんただったんだ。」 「じょ、女王陛下!!」 「あたしのガードの仕事ほったらかして何やってるかな。あんたは。」 やや離れた奥のドアで、他の魔道騎士はあきれ、一緒にいた姉ちゃんは、やれやれと腕を組んでいた。 カウンターのメガネ君は展開についていけず目は点、口をぱくぱく。 今近づいたエリザベートは気配まったくなし。あたしの隣でみていたガウリイ少し額に汗を浮かべ 不意を疲れた視線を送る。 女王サマ、あんたってガードの必要あるんかいな・・・・・・・ 「ま、いいわ。リナ、ついてらっしゃい。あたしがみずからあそこの扉開けてあげるから。」 「いいんですか!?陛下!」 ジュリアが驚く。 「あたしも用があるしね。昔の、例の事件調べるんでしょ?リナ。」 少し、カビの匂いのする書棚の列をぬける。やがて現れる、かなり大きい扉。フィルさんも通過して まだ余裕がある。オリハルコン製の、‘装甲’といってもいいくらい厚く重い扉の取っ手を女王は握った。 一瞬それが光る。ぶつぶつと呪文を唱え、やがてひとりでにぎぎぎーっと開いていった。 鍵じゃなくてこういう仕掛けにしないと、鍵あけの呪文でやられる場合もあるからね。あれは使える人 そんなにいないけど。ここは、場所が場所だし。 見た目は図書館とそれほど違わない。違うのは・・・・お化けがウヨウヨいること。 「うっとーしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」 姉ちゃんが気合一発。ただ、それだけで、いっぱい浮かんでいた半透明のものが消滅した。 「なんせここの資料は古いからね。たまにこうなっちゃうのよねえ。さてと・・」 そう、女王は言ってあたしたちを先導した。それほど歩かず、すぐついた比較的最近の新しい公文書 のコーナー。 「この辺はまだ表に出したらヤバイ、非公開のものばっかしだからね。中身ベラベラしゃべったら そっこーブタ箱行きだから。オッケー?」 あたしとガウリイはうなずいた。 フェリペ王子に関するものや例の事件がおきた年の資料を取りだし、そなえてあったデスクで調べ出した。 実は王宮の捜査チームの指揮を任されていたジュリアも。あたしにここを見せたがらなかったのは、 手柄横取りされたくなかったからか? ガウリイは・・・・・・・・・・・・・・・もっちろん。見てるだけ♪ やっぱガウリイはこうでないと。 人間と高位魔族。そのキャパシティの差はどうしようもない。だが、それでも対峙しなければならない時 がある。あたしもそうだった。敵対する魔族や、ドラゴン・エルフ族にも、その行動は無謀に映るようだ。 それでも、人間は知恵を絞りなんとかしようとする。 フェリペ王子は海将軍と対決しようとした。弟の国王のため。ゼフィーリアのため。天下国家のため。 人間のため。 だが、王子は、実は最初から死を覚悟していた。いや、計算していたと言ったほうがいいかもしれない。 直接対決で高位魔族に勝利するのは無理。そう判断した王子は自分が戦い死ぬことによって、人間社会 のなかに溶け込んでいた海将軍の存在を公(おおやけ)にしようとした。そうなれば、 降魔戦争で竜族・エルフと共に冥神官・将軍を滅ぼした精強ゼフィーリア騎士団が最前線に出てくる。 魔族は負けはしないまでも楽な戦いはできない。またゼフィーリアと直接対決すれば、 ゼフィーリアだけが持っている竜族とのつきあい関係により竜王までからんでくる。 神と魔の力の均衡が崩れかねないのだ。 結果、海将軍はカタートに退くだろう。 だが、王子の母親エイミー・ハノーヴァーはその自己犠牲を許さなかった。息子には生きて欲しい。 当然間に割って入った。 そして普通に戦っては勝てない相手にエイミーは、伝説の大魔道士たる彼女にしかできない 究極ともいえる魔法を放った。 その魔法は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ その封印されていた資料には驚愕の真実が記されていた。 |
7972 | 最後の大賢者4 | R.オーナーシェフ E-mail | 2002/1/18 20:48:01 |
記事番号7969へのコメント スッと、ガウリイがあたしの髪をなでた。 「大丈夫か?リナ。」 「・・う、うん・・。」 外に出て、王宮の中の庭園で、あたしたちは木のかげでよりかかり、空中をみつめながらあたしは答えた。 ショックが大きかったようだ。しばらく、思考が働かなかった。 魔道士や戦士にとって、衝撃的な状況に遭遇した時ショックを受けて行動がにぶるのはあまり 誉められたものではない。感情を心の奥にしまいこみ理性で行動するのだ。 でも、それ以上にショックが大きかった。おそらく、当時だけでなく、今回の事件も一通り読めてしまった からだ。エイミー先生が今どういう状態なのかも。まだ想像でしかないが。 多分、それほど推理の必要はなかった。単純な筋書きだ。しかし、単純だが、やっかいだ。 空中を見つめていた視界の中に だんだん周囲のものが入っきて、ゆっくり脳が働き出す。 「俺も説明聞いて驚いた。でもエイミーさんがそういう行動とった気持ちはわかるな。」 そう語るガウリイに視線を向けた。目と目が合う。 ・・・・ああ。そうか・・・・・・・。こういう、気持ちだったんだ。きっと・・・・・ あたしは少し安心した。エイミー先生や王子達の心がわかった気がしたから。 「しばらく休めよ。リナ。」 「うん。」 あたしの肩をガウリイはよせて、身を任せ、よりかかった。 目を閉じる。 ショックが冷めて、見えてきた周囲のものが、再び見えなくなる・・。 先生のセリフを思い出す。自分の心の支えになる信頼できる人。 今隣にガウリイがいる。ふれている肩、うで、ほおからガウリイのぬくもりが伝わってくる。 今は、ただ、それだけ・・・。 「ね、ガウリイ。しばらく、このまま・・・・・・・・・」 「仲がよろしいですね。」 突然二人で寄りかかっていた木の反対側がしゃべった。くっついていたあたしたちはあわてて離れ、 自分で分かるくらい顔を真っ赤にしながらその正体を確かめた。 『ぜ、ぜ、ゼロス!!』 「いやあ。また会いましたね。リナさん。ガウリイさん。」 「こんなところに何しに来たのよ。」 「それはひ・・」 「秘密なんだな。」 そうガウリイに言われて、指を立てたままゼロスは硬直した。 静寂が流れ、魔族のはずの彼が冷や汗を流す。 うーみゅ。いつみてもなかなかの演技。どっかの劇団に売り飛ばせたら金になるだろうに・・。 やがて、なんとか声をしぼりだす。 「ま、まあ・・、あななたちやゼフィーリアをどうにかしようというためではありませんから ちょっと、このへんにいるって聞いてきた方に伝言をあずかってましてね。」 「赤の竜神の騎士ルナ・インバース?」 「い、いえいえ。あの方には頭を三回、右肩八回、胴を二回斬り飛ばされてますからね。 このへんで滅びては仕事に支障がでるので。」 『・・・・・・そ、そうなんだ・・・・・・・・・』 驚いた・・。 「あんたが用があるんだから魔族がらみよね。昔ゼフィーリアを襲った海将軍の関係者?」 「・・・・・そ、それじゃ僕はこの辺で。」 そういって、いつものようにアストラルに消えていった。 「うーん・・。ま。ちょっとヒントにはなったかしらね」 「そうなのか?今ので?」 「ゼロスはこのへんいいるっていうやつに用があったんでしょ。正門抜けてすぐ広場のここはね。 王宮のアストラル監視網の境界線あたりのはずなのよ。多分、このへんのどこかで人間の姿している 魔族がタイミングを計って何かしかけるつもりなんじゃないかしら。」 ゼロスは、かかわってるわけじゃないらしい。魔族は、また何かこんらんしているのか。 やがて。ただ、まっすぐに正門から彼女は来た。 大賢者エイミー・ハノーヴァー。 あたしたちは木陰から立ち上がった。 「エイミー先生。どちらまで?」 一瞬、心が動揺する。だがあたしは必死でおさえこんだ。 ふふっと、エイミーが冷たく笑う。 「さあてね。」 目の前で。 スッと、彼女は消えた。 魔族と同じ。アストラルサイドへの移動。 「やっぱり・・。」 かすかに、右目から暖かいものが一滴こぼれた。 「リナ。」 ガウリイがあたしの肩をポンとたたく。 「あたしの一生が終わる時、あなたがみとってくれないかしら。 できることなら、あたしがあたしでいられる間に・・・・・・・・・」 先生のセリフが頭に浮かぶ。 分かったわ。先生。 お願い。まだ‘エイミー先生’の意識が残っていて! 「行くわよガウリイ。」 「どこへ?」 それは一ヶ所しかない。昔、海将軍は最終的に何を目的としたか。 ガウリイの手を取り、あたしは走り出そうとした。が・・、 「あれ?ビリエール将軍!」 「よう。リナ、ガウリイ。」 「どうしたの?」 「陛下がな。俺も出るはずだった会議を突然キャンセルしたから戻ってきたんだが・・・・・ あの事件で動きがあったのか?」 「そうよ。将軍も来て!」 廊下を走り抜け、一番奥の女王陛下の謁見の間。その両開きのでかい扉の前にぶちあたる。 将軍は、細身の割に意外と太い腕に力をこめ一気に扉を開いた。 「ご無事ですか!?陛下!!」 「落ち着きなさい。何あわててんのよ。」 25歳の華奢なお嬢さんがとても大きく見える。動かず、ただ玉座に腰掛け、まっすぐ前を見ていた。 側に立ってるのは姉ちゃんとジュリア。 「他の魔道騎士たちは?」 あたしはエリザベート女王に聞いた。 「あたしが指定したポイントで待機。異変が発生し次第、臨機応変に対処せよ。こう命令しておいたわ。 普通、騎士団は指揮官に従い集団で動くものだけど、あいつらは別だから。自分の判断で、孤立しても 戦い抜ける奴ばかりだからね。 ここ以外も心配だしね。中枢に置くのは、ごく少数の精鋭だけでいい。」 日がやや、傾く ステンドグラスから、オレンジががった日の光がさしこんできた。 かすかに。 日の光がゆれたような気がした。 数秒が永遠とも思える一瞬が過ぎる。 「ぐっ。ぐはあっ。あ。ううううっ。」 『なっ!?』 いきなりの出来事に全員が玉座を振り向いた。突然エリザベートが苦しみ出したのだ。 何が起きたのか。皆声を出せなかった。 両腕が。首筋が。胸が。下腹部が。蠢き、変化しようとしている。 ジャッ 右腕の皮膚が盛り上がり、それは飛び出た。 「へ、へ、蛇!?肉の蛇!?」 ジュリアが叫ぶ。 まさか・・。屍肉呪法(ラウグヌト・ルシャブナ)!? 「ふふっ。こういう手で来るとはね。思いつかなかったわ。」 必死でこらえながらも、そのエリザベートの目は不敵な視線をまっすぐ前に送っていた。 少しは慌てろよ。あんた。 飛び出た蛇が、出てきた元の体の首筋めがけて食らいつこうとする。その瞬間。 「はあああああああああああっ。」 いつのまに、赤竜剣を発動させた姉ちゃんが玉座の前の虚空を斬り裂いた。その閃光から 激しい‘波’が周囲の空間を恐怖で震え上がらせるかのようにつたわり、玉座の間の視界がゆらぐ。 アストラルサイドそのものを叩き斬ったらしい。同時に。首筋へ食らいつこうとしていた肉の蛇が 霧のように蒸発していった。 「屍肉呪法が無力化されたのは始めての経験だわ。」 それは扉の向こうから聞こえてきた。染み透るように、扉をあけることなく、こちらに姿を現す。 黒く、流れるように長い長髪。スカートが床スレスレまで長いドレス。あたしの知ってる顔だ。 「あら。また会ったわね。お二人さん。ごきげんよう。リナ・インバース、ガウリイ・ガブリエフ。」 「ええっと、誰だっけ?」 「っもう!あんたは!!ったく、パターン通りなんだから。サイラーグで。ルークと戦った時に。 会ったでしょ!?もう一人金髪のやつがいたけど。あいつはねえ、ディー・・」 「海王(ディープ・シー)ダルフィン。」 あたし達を遮るように姉ちゃんが前に出た。 ・・え?知ってるのか?姉ちゃん。 「千年ぶり、ってとこかしら。前世を覚えてるわけじゃないけど、なんとなく分かるわ。 あたしにボコボコにされて逃げていった海豚野郎。」 千年ぶり・・?そういうことか。 「あたしはよーく記憶に残っているわよ。水竜王を助けられなかった負け犬スイーフィード・ナイト。」 「屍肉呪法っていうの?あれ。あいかわらず魔族っていうのは趣味悪いわね。」 「ああ。あれね。ちょっと試したのよ。ここの王宮ご自慢のアストラル監視網を、作った本人が うまく止めてくれたかな、ってね。どうやらやってくれたらしいわ。」 「それってまさか、エイミー先生!?」 「そう。確か、あの人間の女ってそういう名前だったわね。」 そう言って、ダルフィンはゆっくり前に進み始めた。進みながら、姿を変えていく。 黒い長髪が、ボーイッシュなショートカットのブロンドへ・・。 ‘永遠の女王(エターナルクイーン)’の姿へと。 「これで、あたしが何やりたいか。だいたい分かったでしょ。結構単純な理由なのよね。」 ‘本物の’エターナルクイーン、エリザベートが玉座からゆっくり立ち上がった。 「勅令百二十四号を限定解除する。魔法使ってよし。」 『イエス・サー』 あたしたちは同時に答えた。 「あたしはいつも使わないんだけどね。」 姉ちゃんが笑う。本気を出せる相手が出てきたからか。 一瞬、ダルフィンが目を瞬く。何か、空気が変わった。 「いない!!陛下がいない!!」 ジュリアが叫んだ。 「魔族の結界で陛下をのぞき俺達を閉じ込めたか。」 ビリエール将軍が言った。やはり、この百戦錬磨のじっちゃんは魔族との戦いも経験あるらしい。 「これで、あなたたちの女王様には手が届かなくなったわね。後はあたしの部下がやってくれるわ。」 ダルフィンはそう言うと指をパチンと鳴らす。それに呼び出され、虚空から人・・・の、形をした 魔族が四体姿を現した。それぞれビリエール将軍とジュリア、あたしとガウリイをマークする。 自分は、姉ちゃんとの戦いに専念するつもりのようだ。 「うまい作戦を考えたつもりか?魔族よ。」 「いきがるな。人間風情。」 ビリエール将軍にダルフィンが答えた。 「違うわよ。将軍が言うとしたのは。」 やや、うつむきかげん、だったか。あたしは心の中で自分を強く支えながら、言葉を搾り出した。 「エリザベートは、即位前は、明るくて情け深いやつだったけど、今、世間であの若さで名君と呼ばれている 彼女は王宮の奥を知る将軍や大臣、ロード達からはどういうイメージ持たれてると思う?それはね、 『冷酷非情』よ。女王になってからエリザベートはそういう仮面をつけているのよ。 なぜエイミー先生を側近として置いていたか。先生の中に何がいるか、気がついていたからよ。 あえて、そばに置き監視してた。それはエイミー先生自身も分かっていた。 ダルフィン。あんたは、冷酷非情な、ゼフィーリアで最も恐ろしい女を結界の外に解き放ったのよ。 彼女は、騎士団に号令をかけて迎撃し、滅ぼすわ。 『海将軍エイミー・ハノーヴァー』を! そして、あんたの誤算はもう一つ。」 「何だと?」 「あたしが今まで魔族とどう戦ってきたか知ってるでしょうに。誤算とは、あたしは魔族の結界を 破れるってことよ!!」 それが戦闘の合図だった。 ビリエール将軍が唱えておいたラ・ティルトを片手で直接、張り手を叩き込むように放つ。 ジュリアがダイナスト・ブレスで氷付けにしたところへアストラル・バインで斬りこむ。 姉ちゃんが眼力で海王を釘付けにする。 ガウリイが斬妖剣を抜き、あたしをカバーする。中級魔族がふたりがかりで迫ってくるところを ガウリイは居合抜きでまとめて胴を一閃。もちろんこれで滅びるわけないが、威嚇にはなった。 ルークとの戦いでつかってしまった魔血玉。一応残ってる欠片は持ってるのだが・・・ お願い。発動して。 あたしは呪文を唱え始めた。 四界の闇をすべる王 汝の欠片の縁に従い 汝の力すべてもて 我にさらなる力を与えよ 悪夢の王の一欠けよ 世界のいましめ解き放たれし 凍れる黒きうつろの刃よ 我が身 我が力となりて 共に滅びの道を歩まん 神々の魂すらも打ち砕き 「いって来い!リナ!」 姉ちゃんが叫ぶ。 ガウリイと視線が重なる。 いっしょに来て。 ああ。 声に出さないのに。通じた気がした。 「神滅斬!!」 すぐそばの壁へ向かって。闇の刃をまっすぐ振り下ろし、時空ごと叩き斬る。 なんの手応えもなくあっさりひらいた大穴に、あたしはガウリイの手を取りとびこんだ。 エイミー先生のもとへ。 ************************************************** 女王のセリフの、「限定解除」 ヘ○シングの影響があるかもしんない。 続きは、もうちょっと待って。 |
7998 | 最後の大賢者5 | R.オーナーシェフ E-mail | 2002/1/27 17:59:27 |
記事番号7969へのコメント 空間が変なふうに曲がったか。飛び込んだのとは逆の方向に。つまり、元の玉座の間に、 壁の位置に神滅斬で空間を斬り裂いた穴からあたしたちは飛び出た。誰もいない。シーンとしてる。 魔族の結界からうまく脱出できたようだ。この玉座の間と紙一重ずれた空間で姉ちゃんたちは 魔族と戦ってるはずである。 誰もいない玉座の間で変わってるところが一つ。玉座の後ろの、ゼフィーリア王家の紋章が 描かれた壁に入り口が開いていることだ。王家やロードの城でおなじみの緊急時の抜け穴らしい。 「いくぞ。リナ。」 「待って。ガウリイ。」 あたしの手を取り抜け穴に飛び込もうとしたガウリイを止めた。 「ここの抜け穴はエイミー先生も知ってるわ。このゼフィーリアで王室とつながりがあり、 長く生きてる人だからね。だから、エリザベートは何か裏をかくはずよ。」 刹那 ズドォォォォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・・・・・・ 「何!?」 あたしは玉座の間のステンドグラスにかけより、叩き割った。 広い王宮敷地の、柵で囲まれながら郊外の森まで続く裏庭園。その地面から凄まじい炎がふきだしていた。 「あれは・・、バースト・フレアの炎!」 火炎系でブラスト・ボムにつぐ威力を持つ精霊呪文。それも普通よりかなり大きい。 そうとうな魔力キャパシティだ。放ったのはエリザベート?それともエイミー先生? 「いくわよガウリイ!」 あたしはガウリイの手を取り割った窓から飛び出した。 「レイウィング!」 燃え上がる木々。噴出すバーストフレアの周囲の地面が溶岩と化す。そのあたり一帯には騎士団が 終結していた。風の結界を解き、降り立ったそばにいた顔見知りの隊長に声をかける。 「状況は!?」 「わからん。陛下から、レグルス盤で非常召集をかけられたのだが・・。」 その瞬間、炎の中に飛び出してくる人影! バーストフレアの炎を振り切り、風の結界をまとって高く舞い上がる戦いの女神。 そう見間違えるように、エターナルクイーン・エリザベートは現れた。 風の結界の中で、彼女は手信号で命令を伝える。 「『ここの地下に通じてる抜け穴の中に、高位魔族がいる。殲滅せよ。』だと!?ロイヤル・オーダー承った。 ゼフィーリア騎士団前へ!!」 隊長が号令をかけ、一瞬で陣形を整える。目標は、炎の噴出す地下! 「放てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 その瞬間、黒魔法、精神系精霊魔法の攻撃呪文の豪雨のような光が一気に集中し輝きを放った。 炎は勢いで吹き消され、刹那の時が過ぎた後、奥が闇で見えない大きな穴が出現した。 隊長が手の合図で『退け』の命令を出す。 同時。その穴を四方から取り囲むように、大木や塔、城の屋根に人影が立つ。騎士団の制服 の上から魔道士のマントや護符などをつけたエリザベート直轄の魔道騎士。少し前、あたしたちが 覇王軍やルークと戦った時に異常に発生したレッサー、ブラスデーモンの群れの討伐に出撃したのは 姉ちゃんと彼等らしい。その四人は印を結び口からカオスワーズをつむぎ始めた。 「・・・!?」 その時、あたしは背筋にゾクゾクっと寒いものを感じた。 いる。この下に。平然と。“エイミー”が。 魔道騎士たちの呪文が完成した。四人が一斉に放つ。 『ラ・ティルト!!』 今まで見たこと無いくらいの大きな光柱が出現する。 だが・・、 その中心にじっとしている人影。 「え、エイミー先生・・」 かすかに、笑みをうかべたような気がした。 ・・・・・・・・・はっ! 「全員伏せて!!」 あわてて、そう叫んだあたしと魔道騎士と、着地したエリザベートは防御呪文を唱え始めた。 そこに高位魔族の放つ衝撃波が襲う!! 「いないぞ。誰も。」 ガウリイが穴の中をのぞいた。 さそっているのか・・ 「隊長。ここは一度退いて。警戒しつつ他の魔族を捜索し遊撃的に攻撃。常に複数で。 かつ、一箇所に固まらないように。」 エリザベートはそう言って、四人の魔道騎士のみを残した。高位魔族が相手なら、 一歩間違うと 全滅しかねない。上手いやり方だ。あたしが彼女の立場でも同じ命令を出すだろう。 「行くわよ。」 女王にかまわず指示するあたし。ガウリイ、エリザベート、魔道騎士の六人は無言でうなずく。 ゼフィーリア騎士団で、狭い場所に突入し接近戦を挑む時のオーソドックスなやり方がある。 それがこれ。あたしとエリザベートは同じ呪文を唱えた。 『ライティング!!』 持続時間ゼロ。発光量最大のライティングを二発叩き込んだ。相手が視界を失った瞬間に 一気になだれ込む。特に魔族相手の時は心を無心にしなければならない。 地下に一斉に飛び降り、周囲を見回した。けど・・・・・ 「やっぱし、こういうとこって、迷路になってるのね。」 「そう。そして道順を知っているのは女王のあたしだけってわけよ。ついてきて!」 たまにねずみらしきものが走り、水がぽたりと落ちる闇の中。しばらく走り右折したところに “エイミー”はいた。 「待ってたわよ。あたしのかわいい弟子。リナ・インバース。」 「違うわよ。」 「まあ。師匠に向かってなんていう口きくの?」 魔道騎士の一人が光量をおさえたライティングをうかべた。そのかすかな光に照らされて、 “エイミー”の姿が浮かび上がる。 妖艶な笑みをうかべる“エイミー”。 「そういうとぼけ方ってきらいよ。先生はそういうの言わなかったわよ。主役はあたし。 こっからが『名探偵 皆をあつめて さてと言い』っていうタイムなんだから。」 「その、名探偵さまがどんな謎解きをするのかしら。」 「別にたいした謎じゃないわ。ただ、フェリペ王子の遺体を操ったのはあなたでしょ、と言いたかった だけ。昔、エイミー先生が魔法で自分自身の中に封印した魔族、海将軍。多分、先生の高齢の体が 衰えてきてごくたまに、あんたの意識が封印の外へ出ることがあったのね。そのチャンスを使って 先生の知識にあるネクロマンシーの技術と己のキャパシティを使い、遺体を操った。あんたは先生が よく霊廟に通っていたのを‘内側’から見ていて息子に対する、他の魔族には分からない気持ちを知っていた。 だから、王子をどうにかすれば先生自身の負の感情を一気に高め、それを利用し封印を解く ことができるだろうと考えた。結果、成功し上司のダルフィンと仲間を呼んだ。」 「良くできたわ。さすがはあたしのかわいい弟子。」 「そして・・、確かめたいことが一つ。」 「何かしら?」 「今、あたしのエイミー先生はどうなってる?」 「自然状態で、あたしが封印を破った瞬間に寿命が尽きたらしいんだけどね。あたしの力で 支配しながら生かしてあるわ。」 「趣味悪いぜ。相変わらず、魔族ってやつは。」 ガウリイが鋭い視線を送る。 「負の感情や、この女の知識は便利だし、この状態だと人間の魔法も使えるのよね。 あたしのキャパシティとあわせればいろいろできるし。 例えば・・・・・、こういうのはどうかしら?」 そう言って、手をパチンと鳴らした。 同時。後ろに気配!あたしたちは慌てて振り向く。 あたしたちを海将軍とはさむように彼らは虚空から出現した。この六人、一体・・ 「あ、あなたたち・・・・」 こういう時、いつも落ち着いているエリザベートがめずらしく一滴の汗を流した。 「知ってるの?エリザベート。」 「このあたしが、前に命令で非公開の特別法廷で裁かせ、処刑されたやつらよ。謀反騒ぎを起こし、 ゼフィーリアを裏切った貴族たち。昔、魔族と組んだフェリペ王子派の流れを受け継ぐ集団。」 あ。知ってる。確か・・・ 「生きていたころの能力は一通り使えるわ。同時に、このあたしが生み出した中級魔族でもある。 どう?あなたの相手にはちょうどいいんじゃないかしら?エターナルクイーン様?」 「このあたしが動揺するとでも思った?何度でも処刑してやるわよ。」 冷酷非情の仮面をつけたこの国の女王が、魔道騎士のうち二人に持たせていた魔力バスターソード二刀を抜いた。 「リナ。ガウリイを貸してくれる?ガウリイ。騎士団に入るんでしょ?あたしの最初の仕事、受けてくれる?」 ガウリイはうなずき、魔道騎士たちに加わった。 あたしは海将軍と向かい合う。 「ついて来なさい。リナ。」 一瞬、振り返った。ガウリイが片目でウインクする。 オッケー。行ってくるわ。 王宮から続く地下の抜け穴を出た。 日が西の地平線へ傾く。 晴れたり曇ったり、不安定な天気が続く。今は上空のほとんどを、どんよりと厚く暗い雲が覆うが、 西だけ空が顔を出していた。そこからさしこむ日の光が空と雲を血のように赤く染める。 その血の色を背景に、闇に支配される黒い森。その影にエイミーの姿をした海将軍がたたずむ。 「あたしも一つ質問したいわ。 『あたしの一生が終わる時、あなたがみとってくれないかしら。 できることなら、あたしがあたしでいられる間に』 ・・・・・・か。このエイミーが言った言葉だったわね。言おうとしている内容はだいたい分かるけど、 いまいち、もっと深いところがありそうでひっかかるのよね。あなたは人間だから理解できるんでしょうね。 リナ。」 ―ああ。このリナという人間は深く分かっている。言葉通りではないか。分からぬようだな。 人間の感情を、それがなんなのか理解せず、いつも食らっているわけだ。魔族は。 ここの女王に己が処刑した者をぶつけ、それを楽しんでも、その者がどういう気持ちでどう動くのか お前は分からなかった。 もっとも、それは当然だ。あたしががそのように創造したのだからな。 「なっ!?」 海将軍が驚愕し、自ら負の感情を放った。 “あたし”が創造した傑作の一つ、太陽がすぅっと西の地平線に沈んでいく。闇が深まるにつれ、 できるかぎり静かに押さえていた金色のオーラが少しずつ目立ち、周囲を照らしはじめた。 周囲の土、水、空気、時間、空間も遅れて“あたし”の存在に気づき、恐れ、空気が震え上がり風となる。 その夕闇の風に、ふぁさぁっと黄金にそまった“あたし”の髪がなびいた。 ―己の母親だろうが。世界よ。母に触手を伸ばされ出現されるのが恐ろしいか?慌てるな。 海将軍がまだ生かしているエイミーという人間も驚いたようだ。 ―驚いたか。エイミー・ハノーヴァーよ。リナは師匠の前で、自分の最高の魔法を見せて海将軍を倒し、 純粋なお前の最後をみとりたいのだそうだ。 あたしは、純粋なるものを好む。このリナ・インバースは心の中にそれを持っているのだ。 たいしたものだよ。エイミー。お前の弟子は。 海将軍。お前はエイミー・ハノーヴァーによって自らの中に封印された時点で魔族失格だ。 人間の心にさらされてきた今のお前は魔族として純粋ではない。だから分かりもしない人間の心に 興味を持ち、そのエイミーの、輪廻の輪に戻った息子の抜け殻を操るなどという手を考え、 また今のような質問をするのだ。少し前の魔竜王ガーヴと同様だ。そのような者をあたしは好まぬのだ。 我が混沌の内へ帰ってくるがいい・・・・・・・・・・・・・・・ 「先生!エイミー先生!!」 あたし、リナ・インバースは急いで横たわるエイミー先生の元へ駆け寄った。 「・・・・・・あ、ああ。リナ。本当に、成長してゼフィーリアに帰ってきたわね。」 「はい。」 涙が一滴。先生のほおへ落ちた。 「知ってることはすべて教えた。何もいうことは無いわ・・・・・・いえ。一言だけ。 リナと過ごした時間、悪くなかったわよ。息子が亡くなった後、あなたがいたからあたしは生きてこられた。 今のリナにはガウリイがいるのね。彼と、幸せにね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 |
7999 | 最後の大賢者6 | R.オーナーシェフ E-mail | 2002/1/27 19:44:30 |
記事番号7969へのコメント 騒がしかった店の中が静かになっていった。いつももより早めに閉店し、掃除をするウエイター、 ウエイトレスたち。オーナーシェフは奥で明日の仕込みをする。やがてそれらも終わり、 いるのは、カウンターに立つ姉ちゃんと、その前に座るあたし。 こくっ。 カクテルを一口。味を覚え、また姉ちゃんに頼んだアプリコット・フィズ。そのグラスを眺めながら 彼―ガウリイの帰りを待っていた。 魔族の襲撃を撃退してから、しばらく過ぎて近代の五大賢者の最後の生き残り、エイミー・ハノーヴァー の“病死”が発表され、ゼフィーリアの国葬として儀式が行われた。埋葬されたのは、 荒らされたのを元通りに直したフェリペ王子廟の隣。本当は王族のみのはずのところに入れた のはエリザベートの判断だ。 戦いも終わり、一通りの儀式その他も終わり、騎士団のメンバーとしてかりだされていた ガウリイも帰ってくるはずなのだが、何やら、寄ってくる所があるから少し遅くなるとのこと。 あー、つまんねー。何やってんだよ、あいつは。 「ねえ。姉ちゃんたちのほうは結局どうなったの?海王ダルフィンは?」 「うーん・・。いいところまでダルフィンを追い詰めたんだけどねえ・・。邪魔が入っちゃったのよね。」 「邪魔?」 「うん。獣神官ゼロスってやつがね。」 「ええ?あいつ?」 「そ。リナとも知り合いらしいわね。あのすっとこ神官ね、昔ゼフィーリアに来た海将軍が戻らないから 調べていたらしいのよ。それで一通りの事情はつかんでいたのね。フェリペ王子やエイミーが どう動いたか。そしてこのゼフィーリアへ魔族が攻撃すれば神と魔の力のバランスが 崩れる可能性も知った。それは獣王を通して、カタートで氷付けのあのやろうにも伝わったらしい んだけど、魔族社会ってのは、縦割りらしいのね。海王には伝わってなかった。だから慌ててゼロスが それを伝え、海王を退かせたのよ。思い出すわね。あのダルフィンの悔しそうな表情。」 「なんか楽しそうね。姉ちゃん。負の感情で喜ぶ魔族みたい・・。」 「あたしは神の欠片なんてのを持っているけど人間よ。良いことも悪いこともするわ。」 からんからん 閉店したはずのリアランサーに表から二人の客が入ってくる。いつもより閉店が早いのは、 彼らが忍びで来ることになっていたからだ。 エリザベートとビリエール。 女王とはぜんっぜん分からない不良少女のようなしぐさで、無造作にカウンターのイスに座るエリザベート。 「ねえ、ルナ。あれ。いつものやつ、出してよ。」 「あいよ。」 飲み屋のおばちゃんのような返事をした姉ちゃんは棚からキープボトルとグラスを出した。 エリザベートはなみなみとグラスに注ぎ、一気にあおる。 「ねえ、エリザベート。それって・・、今飲んだ奴・・」 「ああ。これ?ウォッカよ。90度の。」 「90度って・・。ほとんどアルコールじゃん。ストレート?」 やっぱり、おまい、人間じゃねーだろ。 「そうよ。今夜はそういう気分なのよ。」 そういう、気分か・・・。 謀反騒ぎを起こしたロードや大臣六名が捕らえられ、処刑された事件はあたしも覚えてる。 あたしが旅に出る少し前。まだ彼女が即位して間もないころだ。明るくやさしい、姉ちゃんのパートナー。 あたしの良く知っていた王女エリザベート。だが、即位してからは女王という立場が心の奥とは 正反対のことを己の口からしゃべらせる。冷酷非情の仮面が本当の素顔をどんどん傷つけていく。 そんな素顔をあたしは知っている。 でも・・・。 その冷酷非情の仮面を彼女がたまに外す時があった。それはこういう時。 「エリザベート。あんた飲みすぎよ。この店で働くあたしとしては、もっとゆっくり味わって欲しいわね。」 「・・うん。」 姉ちゃんがエリザベートをたしなめた。素直に応じる彼女。 自分の心の支えになる信頼できる人。エイミー先生にとって、それはフェリペ王子と、このあたしだったようだ。 エリザベートにとっては姉ちゃんか。ビリエール将軍には父ちゃんというライバルがいた。 あたしには・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ どこでなにやってんだよ!?あのクラゲ!!脳みそヨーグルト!!体力オ―ガ並のくせに知力 スライム並!!剣術超一流のくせにあたしがいなきゃ何もできない!! ああああああっ。なんだかむかつく。このばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 「リナ。」 「うどわあああああっ。ね、姉ちゃん!いきなり某黄金竜のじいさんみたいに顔どアップにしないでよ。」 「あんた。ガウリイのこと考えてるわね。しっかり顔に書いてあるわ。 ・・・ん?噂をすればなんとやら、かな?」 からんからん 入り口からひょっこり顔出すガウリイ。 「ええっと・・。お。いた。リナ。ちょっとちょっと。」 「ん?」 後ろのひやかしを無視し、あたしはその手招きに答えて表に出た。 「綺麗な星空だな。リナ。」 「曇ってるわよ。」 「ええっと・・。ごほん。」 「・・・と。そうだ。ガウリイ。あんた、騎士団で働いてきた分給料もらったはずよね。それ今あるの? かなりでかい事件だったし、普通より高額のはずだと思うんだけど。」 「そ、それがだな・・・・。全部、使っちまった・・・」 「な、なんですってえええええええええええええええええ!?なんつーもったいないことするのよ。あんたは。」 「値段高かったからな。これ、買ってきたんだ。もらってくれないか?リナ。」 ガウリイがふところから出した、小さなそれが夜の暗闇を明るく照らした。 「だ、ダイヤの指輪・・・・・!?」 あまりの出来事にあたしは言葉を失った。 「この、斬妖剣が見つかってから、だったかな。俺たちが一緒にいるのに理由なんていらねえだろ、 なんてセリフを言ったこともあったっけ。一緒にいるのがいつのまにか当たり前になっちゃったんだな。 おまえにそばにいるとな。なんか、こう、何かすごい事ができそうな気がするんだ。初めて会ったときから、 直感的に、お前といればこの剣が人のために役に立つと感じてたんだ。この剣でずっとリナを守りつづけたい。 リナとずっと一緒にいたいんだ。」 「・・・・・・・一緒に・・・・・・・な、なんでよ・・・?」 心と言葉と、混乱している。自分で分かるくらいに。素直になりたいのになれない。なぜ? 「それは・・・、リナが好きだからさ。」 パッと、強い光で刺激されるような感覚。突然に彼の姿のみが,見えている視界に大きな存在ととして 映る。苦しみが、すぅっと晴れていく。 自然に、力が抜け、彼に身をあずけて抱きついた。 「・・・・それをね。その言葉をね。聞きたかったの・・・・・・・・・」 「結婚してくれるか?リナ。」 「うん。ガウリイ。」 ゼフィーリア首都ゼフィールシティへ、他国からの街道が一度終わる広場。そこから今度は 東の街道へ進路をとる。ゼフィーリアはけっこう北にある。だが、北にほうの海には暖流が流れていて、 ゼフィールシティからこちらの田舎のほうへ行くと、だんだん気候がかわり、深い森を抜け、 なだらかな草原と少ない木々になる。そしてあたしにはなつかしいブドウ畑の風景と、よく釣りをした 川が見えてくる。 ・・ありゃ? あそこで釣りしているのは・・、 長い髪の男。火のついてないらしいタバコ・・・・・・ 「ああああああああああっ!とうちゃん!とうちゃぁぁぁぁぁぁん!!ただいま。天才娘のリナが 帰ったわよぉぉぉぉぉぉぉぉ。」 気がつき、立ち上がるとうちゃん。 「リナ。あたしは用があるから先行ってるわよ。」 そういって何やら大きなバッグかかえた姉ちゃんと分かれ、あたしとガウリイは駆け出した。 「よう。リナ。よく帰ってきたな・・・・・・って・・・・お、お前!!」 「ん!?」 ぽかん、と口をあけて驚くガウリイ。あたしはとうちゃんとガウリイを交互に見た。知り合い!? 「久しぶりだな。ガウリイ。」 「リナのとうちゃんだったんだな。あんた。」 「まあ、そういうこった。おめー、まさか家の娘に・・・・」 「まあ・・・・、抱きしめてギューはしたかな。」 「なに!?」 今度はとうちゃんがあたしとガウリイを交互に見た。 「お、おめーら・・・・・・・そうなのか?」 こくっと、あたしはうなずいた。 「おめーにゃやらんぞ。ガウリイ。家の娘は。」 「そ、そんな!?とうちゃん!!」 「どうする?リナ。」 とうちゃんは、まっすぐあたしを見た。 「出て行くわ。家を。」 「冗談だ。」 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい!?』 あたしとガウリイがハモる。 「こういう時、娘を持つ父親は一度断らなきゃいかんっていう法律があっただろ?」 「ないわよ!!んなもん!!」 「ちょっと言ってみたくなってな。気持ちを確かめたいっていうのもあったからな。 本当はルナから、もうとっくに連絡がきてたんだ。 ガウリイ。今日からおめーは俺の息子だ。」 「ああ。親父・・って言わせてもらっていいのかな。」 「あったりめーよ。」 「ええっと・・・、ところでとうちゃん。釣り竿がもう一本あるんだけど、これは?」 「ああ。あいつまたどっか行きやがったか。ほれ、リナ。これで呼び戻せ。」 渡されたのは・・・・・ 「こ、これは犬笛!?」 ガウリイが言った。 「えっらーい。ガウリイ。覚えてたんだ。」 「まあな。あの時だろ?ほら、『リナ・インバース神教』の騒ぎのとき。」 「なんじゃあそりゃあ。おめー、変なカルト宗教でも始めたか?」 「あたしじゃないって。」 ラジオドラマ『破壊神はつらいよ』参照のこと。 「んじゃ、せーの、」 スゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・ 「きゃいーん わんわんわん あおーん って、あああああ!!お前ら!!逃げろ!!」 ガウリイが今度は呼びかけた。 「スポット。お手。」 「あおーん さささささっ。」 「お回り。」 「くるくるくるって、また同じパターンかよ!?」 ・・・・・・・・・・・・・・進歩のねえやつ・・・・・・・・・・ 「あ。かあちゃん。たっだいまーっ。」 「あら。お帰りなさい。リナ。ルナが部屋で準備してるから。さ、早く。」 「は?姉ちゃんが準備?」 あたしは階段をあがり自分の部屋へ行こうとしたが、つれられたの別だった。 ドアを開け、そこに姉ちゃんがニヤニヤしながら立っていた。 「あ。ガウリイは入ってきちゃダメよ。リナだけ。」 姉ちゃんがドアを閉めた。 「何、姉ちゃん。な、何よその笑みは・・・」 「んふっふっふっふ。リナ。服脱げ。」 「え?」 「いいから脱ぎなさい!!」 「え?え?ちょっと、姉ちゃん。あ、いや。お代官様お許しを。あ、あああれえええええええええええ・・・・」 「おーい。ガウリイ。もう入ってきてもいいわよ。」 不思議な顔しながら、姉ちゃんに手を引っ張られ、ガウリイは部屋に入ってきた。 「な、何だ?・・・・って、リナ!!その格好!!」 「いや。見ないで。恥ずかしい。」 あたしの今の格好。 それは・・・・、 どピンクのウエディングドレス。エイミー先生から、姉ちゃんが預かっていたようだ。 ほんとにあの先生はあたしにピンクを着せたがる。あたしゃ着せ替え人形かっつーの。 しかも、あたしの胸にあわせて、しっかりと、よせて上げるようになっているのが嬉しいような悲しいような・・。 「綺麗じゃないか。似合ってるよ。リナ。」 「ほんと?ガウリイ。」 そんなあたしたちを見て、あたしはお邪魔かな、などと姉ちゃんが部屋を静かに後にした。 「リナ。」 抱き寄せ、あたしの唇をうばう。 ガウリイ。幸せにして・・・・・・・・・・・・・・・・ 最後の大賢者 おしまい |
8005 | 初めましてぇ♪ | 文月霊次(風見霊) | 2002/1/29 01:51:09 |
記事番号7999へのコメント 初めまして、こちらで詩を書かせて頂いている文月霊次と申します。 終了した様なので書かせていただきます。 すっごく面白いです。見ていて嬉しくなっちゃいました。 貴方様の作品をはじめて拝見させていただいたのですが、いきなりお気に入りの作品になってしまってちょっと大変でした。 親父さんのキャラが素敵です。 >「こういう時、娘を持つ父親は一度断らなきゃいかんっていう法律があっただろ?」 この台詞素敵過ぎます。渋めのオジ様がこの台詞を…なんて考えてしまったおかげでもうその後が大変でした。 (まぁ、『渋め』の表現は何処にもありませんが『火のついていない煙草』から渋さを感じました^^;) 何時か、貴方様の作品が見れる事を期待します。 その時は、私が見逃さない事を切実に祈りながら… 縁があったらまた会いましょう、それまで…さようなら (初めましての相手に送る文じゃないのは分かってます。気にしないで下され^^;) |
8028 | Re:初めましてぇ♪ | R.オーナーシェフ | 2002/1/31 19:23:59 |
記事番号8005へのコメント >初めまして、こちらで詩を書かせて頂いている文月霊次と申します。 >終了した様なので書かせていただきます。 ども。 >すっごく面白いです。見ていて嬉しくなっちゃいました。 >貴方様の作品をはじめて拝見させていただいたのですが、いきなりお気に入りの作品になってしまってちょっと大変でした。 ありがとうございます。 >親父さんのキャラが素敵です。 >>「こういう時、娘を持つ父親は一度断らなきゃいかんっていう法律があっただろ?」 >この台詞素敵過ぎます。渋めのオジ様がこの台詞を…なんて考えてしまったおかげでもうその後が大変でした。 >(まぁ、『渋め』の表現は何処にもありませんが『火のついていない煙草』から渋さを感じました^^;) なんせリナの父親ですからねえ。この父なら言うだろう。いや、言わせてみたいと前から思ってたんですよ。 ドラマガ増刊のガウリイand郷里の父ちゃん外伝「刃の先に見えるもの」の中でも、クールで渋いなかに、 ちょっとヒネてて、セリフの印象がやっぱリナの父ちゃんだなと感じましたからね。 文月さん、あれは読みました?文庫SPでもそのうち出るでしょうね。 おそらく、リナは父ちゃんに似て、ルナ姉ちゃんは母ちゃんに似てるんじゃないかなと思うんですよね。 火のついてない煙草をくわえたオヤジという神坂先生のキャラの作り方にはほんとにかないません。 >何時か、貴方様の作品が見れる事を期待します。 >その時は、私が見逃さない事を切実に祈りながら… >縁があったらまた会いましょう、それまで…さようなら 一応、いくつか構想は頭の中にあるのだが、書けるのは数ヶ月か半年、一年後になっちゃうか、 そもそも書けるのか分からないけど、今後も書きたいなという意欲はあります。もしその時、 目に止まって気に入っていただけたらうれしいです。 >(初めましての相手に送る文じゃないのは分かってます。気にしないで下され^^;) ファン同士で集まるところですからね。こういうスタイルいいんじゃないですか? もし次も会えたら気軽に話しましょう。 |