◆−もう一度 (最遊記)−かずみ (2002/3/7 03:09:40) No.8188


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8188もう一度 (最遊記)かずみ E-mail URL2002/3/7 03:09:40





もう一度





  後悔しないと、おまえの太陽は言った。
  だから、500年経ったら迎えをよこしてやるよ。



 悟空は地下牢のかたすみにうずくまったままピクリとも動かず、観音の言葉を聴くともなく聴いた。
 視界がモノクロだ。

「500年後、もう一度あいつはおまえの前に立つ。
 だが、転生すれば別人だ。おまえの"太陽"に値しない奴だったら追い返せ」

 観音は地下をめぐる回廊に立ち、悟空をわずかに痛ましげにながめて言葉を切った。
「天蓬と捲簾にも会えるだろうよ」
 やはり別人だが。


 地下牢の床は硬くて冷たくて、じめじめと湿っている。手錠も足枷も、ひんやりといつまでも体温に馴染まない。
 じゃらりと床を鎖で撫でて、立ちあがった。
「……観音のお姉ちゃん」
「なんだ」
「ナタクは? どうしてんの」
「…………眠っている」
 そうか、とわずかに安堵した。では生きてはいるのだ。

「わすれたくないよ。なにも」
 握った鉄格子が手にざらざらした。


 記憶を封じても、悟空は悟空でありつづける。孤独が、この子どもへの最大の懲罰となるだろう。寄り添う記憶さえなくして、500年の闇のなかに放りこまれる。
 観音は、繰り返した。
「500年だ。奴を迎えにやる。楽しみに待っていろ」
 最後まで伝法な口調をくずさず、そこまで言って踵をかえした。

 カツコツと、ヒールの音が遠ざかっていく。

 もう一度、会える。
 悟空は信じた。





fin




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 最遊記(by 峰倉かずや) 本編の500年前です。

 おひさしぶりです。かずみともうします。
 目をとおしていただいて、ありがとうございました。