◆−〜Blasphemy〜   5.悪夢、始動−+綺咲+ (2002/4/4 09:58:31) No.8256
 ┣はうあっ!?−鎖夢 (2002/4/13 06:54:32) No.8294
 ┃┗あうにゃっ!?−+綺咲+ (2002/4/16 19:28:53) No.8323
 ┗〜Blasphemy〜   6.悪夢、続行。−+綺咲+ (2002/4/16 19:12:16) No.8322
  ┗〜Blasphemy〜   7.悪夢、再現?−+綺咲+ (2002/4/19 01:00:53) No.8333
   ┗〜Blasphemy〜   8.悪夢、覚醒――−+綺咲+ (2002/4/27 13:37:21) NEW No.8396


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8256〜Blasphemy〜   5.悪夢、始動+綺咲+ E-mail 2002/4/4 09:58:31


 綺咲です。
 ツリー落ちました。なんか、ちょっと淋しかったです。
 でも新しい気持ちでやってけて、いいのかもしれません。
 だって、とうとう4月になりましたし。
 あぁ・・・あとちょっとで、もう本当に高校生です・・・。
 う〜ん。忙しそうですけど、ちゃんと投稿できるように頑張ります!!

 鎖夢さん、レスありがとうございましたっ!
 なんか、ちゃんとレス返そうとは思ってたんですけど、思ってる間に落ちてしましました。
 すいません・・・これからもよろしくです!!

 それでは、本文に御進みください♪
      ↓

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 正しいなんて、信じない。
 平等だなんて、思わない。
 そんな風に、自分を正当化するなんて、耐えられない。
 あんな奴らみたいに、なりたくなんかないんだ。

 それでも自分は、ゆっくりと確実に、こんな風に変わっていく。
 それは止められない、酷い、苦しい、けれども事実。

 あんな奴らみたいに、なりたくなんかないんだ・・・・・・



  〜Blasphemy〜
   5.悪夢、始動

 醒めない悪夢を、ずっとみていた・・・・・・――

 そこは、暗くて冷たい、地下室の中。
 石造りのそれは、手を当てれば硬く冷たく、ところどころにコケがはえ、がさがさとした感触を肌のうえに残していく。
 地上では雨でも降っているのか、一定の間隔をおいて、耳に残る音をたてて水滴が床に落ち、あちこちに水溜りをつくっている。
 目の前にも、水溜りがひとつ。
 けれどもそれは水ではなく、触ればぬるりという気味の悪い感触がある。
 薄暗くて、色はよく分からない。
 だからそれは、決して凄惨ではないけれど。
「・・・・・・・・・・・・」
 ズッという音をたて、彼は体をソレに近づけた。
 かすかにソレは、まだ息をしていた。
 むっという生臭い臭いが鼻をつく。
 頬にそっと手を触れると、ソレはゆっくり目を開ける。
「・・・・・・・・・・・・」
 二人は黙って見つめ合った。
 ぼろり、と彼の頬を水滴がつたう。
 口に入ればそれは塩辛く、まるで水滴じゃないようで。
「・・・・・・ごめんな」
 彼が言う。
「・・・・・・ごめんな」
 それ以上の言葉は、喉まで出かかって止まってしまう。
 助けてやれなかった
 何もしてやれなかった。
 傍に居てやることができなかった。
 本当に、ごめん。
 ・・・・・・そんなこと、いまさら言っても遅いのに。
 あとからあとから、水滴は頬を伝い、落ちていく。
 なぜだか胸が、えぐられたように痛かった。
 ソレは、ただちょっと笑っただけだった。
 そして腕をそっと伸ばし、彼の頬に触れ、そこを伝う水滴を指先でぬぐってやる。
「無理するな・・・・・・」
 彼が言っても、ソレはただ静かに微笑むだけだった。
 そしてそれは、唇を震えさせ、言葉を唇にのせる。

「――――――」

 ――・・・・・・そして、アシスは唐突に、どろりとした眠りから覚醒した。
 ぼんやりとした頭で、自分がうとうとしてしまったことを認識した。
 ああまただ、と思う。
 また自分は、あの時の言葉を、思い出すことができなかった。

 煙草に火をつけてひといきして、ふと思う。
 なぜ今更自分は、あんなことを夢に見たんだろう。
 少し考えてから思い至った。
 この間のガキだ。

 あの日、アシスがそのガキに目を留めたのは、ざわざわとした騒ぎ声のせいだった。
「だから謝ったろう?」
「謝ってすむ問題か、あ゛ぁ!?」
「弁償するとも言った」
「弁償だって、はは。あんた、これがいくらするのか知ってんのかよ?」
 街中でも有名な、手におえないゴロツキが集まる店。
 言い争っているのは、そこにいた人相の悪い男5人ほどと、ひとりの見かけない奴。
 彼らの間には、大きな皿が一枚、割れて落ちていた。
 彩色が美しく、ぱっと見には古代の財宝のひとつの、価値の高い物に見える。
 けれどもある程度目の利くアシスには、それがまがい物であることがすぐに分かった。
 若い奴にも、それが分かっているようだった。
「・・・・・・安物以外の何にも見えない」
 ぼそりとそう言う。
 とたんに周りの男たちが怒声をあげる。
「なんだと、このガキ!」
「うちの店の物に文句つける気か!?」
「いーい度胸してるじゃねぇか、あん!?」
 そいつは面倒くさそうに溜息をつく。
 他の野次馬のうしろから、アシスはそいつを見てみた。
 ショートよりも少し長めの銀髪と、大きいが涼やかな紫の瞳の、色白で綺麗な顔立ちの奴だった。
 ふぅん、とアシスは思う。
 おそらくこれは、集団でのいいがかりだろう。
 この近くに、大きな宿屋がある。それは表向きは普通の宿屋だが、裏では一晩の相手を売る宿として有名な処なのだ。
 借金の返せなくて身を売るもの、奴隷、孤児などの身寄りない者など様々だが、確かなことは、そこに人を売れば、多くの金が手に入るということだ。
 そしてより多くの金を手に入れたいと思うならば、もちろん外見のいい者のほうがいいわけだ。
 このガラの悪い男たちは、どうにかしてこいつを捕まえ、そこに売ろうと考えて頭をひねった結果、『高い皿を割られた』といういいがかりをつけることを思いついたに違いない。
 アシスがそう考えを進めている間にも、言い争いは続いた。
「分かった。安物でも高価な物でもなんでもいい。
 悪かった。弁償しよう」
 なかば吐き捨てるようにして、言いがかりをつけられているほうは言った。
 ニヤリとして、リーダー格の男が金額をそいつに告げた。
 みるみるうちに、そいつの眉が寄せられる。
 アシスも眉を寄せる。どうやら考えは当たったようだ。
「・・・・・・そんな大金、持ち歩いているわけがないだろうが・・・・・・」
「んなこと言ったってなぁ。それだけするんだから、しょうがないだろうが」
「家に帰れば用意できないこともないが・・・・・・どうせ、逃げるかもしれないと、帰してはくれないんだろう?」
「そうだな、あんたを帰すことはできねぇな」
「身売りすれば、あんたぐらいの奴なら結構するけど、どうするよ?」
 そう一人がいうと、男たちは下品な声でげらげら笑った。
 ――怒るかな。
 そう思って見ていたが、そいつは何の反応も示さずに、じっと男たちを眺めていた。
 まるでそう、彼らを哀れんででもいるように。
 男たちが、ひとり、またひとりと、笑いをひっこめていく。
 相手の視線は強くて、その前に男たちは、居心地悪そうな顔をする。
 ふとそいつは視線を弱め、どこか遠くを見るような表情になった。
「・・・・・・身売りか・・・・・・」
 男のひとりが、はっと本来の目的を思い出す。
「そ、そうだ。どうするんだよ、おい?」
 そいつは小さく笑った。
「あんた、私を売ったあとに、私を買うか?」
 聞かれた男は言葉を失った。
 ふん、とそいつは鼻で笑う。
 馬鹿にされたとでも思ったのだろう、男は顔を赤くさせ、手を握り締めた。
 リーダー格の男が問い掛けた。
「・・・・・・で?結局どっちにするつもりだ?」
 そいつは小さく息をついた。
 アシスは不思議に思う。
 なぜこいつは、怒って癇癪を起こすようなことをしないのだろう?
 ・・・・・・っていうか、これってやばくねぇ?
「・・・・・・しょうがないが・・・・・・」
 そいつがそうつぶやいた瞬間、アシスはずかずかと、その集団のなかに踏み込んでいた。
「悪ィ。待たせたな」
 まるで知り合いのような顔をして、親しそうにそいつに話し掛ける。
 リーダー格の奴が、驚いたようにアシスを見た。
 言いがかりをつけられていた奴は、不審そうに目を向ける。
 アシスは更に、リーダー格の男に笑いかける。
「よぉ、ギルトじゃねーか。相変わらず元気そうだな」
「あ、ああ。お前も元気そうでなによりだ。・・・・・・ところでアシス、聞きたいんだが、こいつはひょっとして・・・・・・?」
「あん?俺の連れ。なかなか可愛いもんだろv」
 けろりと笑って言ってやる。
 連れ、とつぶやき、自分の横で紫の瞳が見開かれる。
「・・・・・・お前の連れか・・・・・・」
 渋い顔をして、ギルトはつぶやいた。
 自分の思惑どおりになって、アシスは心の中で舌を出した。
 アシスとギルトは、裏の関係での知り合いだ。二人とも大きな声では言えない仕事をしていて、ちょくちょくと情報の交換をしあっている。
 だから、自分の連れに手を出してしまったのだと勘違いしたギルトが、内心では大慌てなのにも気がついていた。
 一番の目的は、あっさりと身売りに首を振る馬鹿を助けてやることだったが、ギルトをからかうつもりでもあったのも事実だ。
 ・・・・・・まぁそんなわけで、アシスはすっとぼけた面で、地面の上でくだけちっている皿を、不思議そうに見た。
「あ〜?商品壊れてんじゃん。
 なに、もしかしてお前がやったのか?」
 本当は皿を落としたのは店の奴だということは重々承知だったが。
 その身売りに同意しようとした馬鹿は、少しむっとした顔をしたが、口をはさむことはなかった。
 アシスはその頭をぽんぽんとなでる。
「おっまえ、ほんとによく皿とか壊すよな。怪我はねぇか?
 あ、ギルト、弁償するわ。いくらだって?」
 ギルトは値踏みでもするようにアシスをみた。
 どうせ、この皿でアシスを騙せるかどうか考えているのだろうが。
 アシスが馬鹿ではないことを、ギルトはよく知っている。
 結局ギルトは、渋々とそれ相応の値段をアシスに告げた。
 もちろんアシスは、それを値切ることはしなかった。一応は、弁償をするというポーズをとっているのだから。
「悪かったな。今度から気を付けさせるからよ」
 そう言って金を渡して、アシスは馬鹿の手を引いてその場を去ろうとした。
「――・・・・・・アシス」
 それにギルトは声をかけた。
 ゆっくりとアシスが振り向く。
「んだよ?」
「10日ほどまえか?――お前が別の奴を、おまえ自身の連れだといっていたのは」
 心の片隅で、ぎくりとする自分がいた。
 確かに10日前、自分は今回と同じような方法で、別の奴を助けた。
 それはギルトの手下などではなかったし、別にこの近くでもなかったはずだが――
(もしかして・・・・・・こいつ、あれを見てたとか?)
 あのたくさんの野次馬のなかにいたのだとしたら、自分が気がつかないこともある。
 なんだよ、俺のがやべぇじゃんとか思ったが、それを微塵も顔に出さずに、お得意の人懐っこい笑みを浮かべた。
「なんだよ、見てたのか?お前も人が悪ィなぁ。
 アイツはもう飽きちまってな。こっちのが可愛くねぇ?」
「否定はせんがな・・・・・・意外だな。お前はわりあい一途な奴だと思っていたが?」
「そりゃ俺を買い被ってるってもんだぜ。俺、飽きたもんにはあんま興味ねぇし」
 からから笑うと、やっとギルトも眉の間に寄せていたしわを、もとに戻して笑った。
「ま・・・・・・あまり自分のお気に入りを一人でフラフラさせるなよ。どこかの阿呆が手を出さんとも限らんからな」
「・・・・・・忠告どうも。気をつけとくぜ」
 そう言うと、アシスは早足でその場を立ち去った。



 ―続く―

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 ・・・とまぁ、こんな感じで。
 今回はちょっと、視線をずらしてみました。
 どうでしたでしょうね?アシス兄さんは、なんか書きやすくて、割合さくっと書けたんですけど。
 まぁ、今までのキャラたち同様、どうか可愛がってやってくださいな。
 
+有川 綺咲+

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8294はうあっ!?鎖夢 E-mail URL2002/4/13 06:54:32
記事番号8256へのコメント

え〜、タイトル妙ですみません。鎖夢です。

あぁ、今年から高校生だったのですねvv
Programized Heavenのレスでどっちだろ?って言ってたのは忘れてください。
高校、色々と超特急で大変だと思いますが、頑張ってくださいね!
花の女子高生(笑)楽しんでくださいませ。

アシス!?アシスって言うんですか!?彼っ!(0■0;)
実は、うちのオリキャラに愛称がアシスってのがいるんですよ(滝汗)
一瞬分からなくって「アシス・・・・アシス・・・・どっかで聞いたような・・・(爆)」って考えて、やっと思い出したんですけどね。
ちょっとびっくりしちゃいました。あはは・・・・(^▽^;)ヾ
それはさておき、他のキャラ同様アシス兄さんいいですねっ!
少年も何かすっごく気になっちゃったり・・・・・。
綺咲さんのキャラやっぱり好きです。もう駄目です。どっぷりはまってます。

続き楽しみにしてますvv頑張ってくださいvv

†鎖夢†

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8323あうにゃっ!?+綺咲+ E-mail 2002/4/16 19:28:53
記事番号8294へのコメント

>え〜、タイトル妙ですみません。鎖夢です。
はわわわ・・・タイトルにびっくりで・・・思わず、あたしのタイトルも変ですねぇ(何)


>あぁ、今年から高校生だったのですねvv
>Programized Heavenのレスでどっちだろ?って言ってたのは忘れてください。
>高校、色々と超特急で大変だと思いますが、頑張ってくださいね!
>花の女子高生(笑)楽しんでくださいませ。
そうです〜高校生です〜♪
きゃv鎖夢さん、同い年ですか?
あはは〜花*の女子高生ですか・・・(笑)
花*になるように頑張りますっ。
・・・まず、部活をどうするかですね・・・。


>アシス!?アシスって言うんですか!?彼っ!(0■0;)
>実は、うちのオリキャラに愛称がアシスってのがいるんですよ(滝汗)
>一瞬分からなくって「アシス・・・・アシス・・・・どっかで聞いたような・・・(爆)」って考えて、やっと思い出したんですけどね。
>ちょっとびっくりしちゃいました。あはは・・・・(^▽^;)ヾ
>それはさておき、他のキャラ同様アシス兄さんいいですねっ!
>少年も何かすっごく気になっちゃったり・・・・・。
>綺咲さんのキャラやっぱり好きです。もう駄目です。どっぷりはまってます。
えっ!一緒なんですか!?煤i・□・;)
あわわ〜まさかこれって、著作権とか法律に・・・(滝汗々)
あは・・・あはは。あたしもびっくりデス( ̄▽ ̄;)
この名前は、アラビアの物語の男性の名前を、ちょっともじってつけたんですよね・・・。
うふふ・・・許してやってくださいな・・・。


>続き楽しみにしてますvv頑張ってくださいvv
>
>†鎖夢†
はいv頑張らせてもらいますvv
鎖夢さんも、素敵なお話の続き、がんばってくださいね!!
展開がいろいろあるようで、楽しみにしております♪

それでは、またv

+有川 綺咲+

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8322〜Blasphemy〜   6.悪夢、続行。+綺咲+ E-mail 2002/4/16 19:12:16
記事番号8256へのコメント

 綺咲ですv
 高校の生活が本格的にスタートしました〜♪
 楽しいです。頑張ります!!
 ・・・もちろん、投稿のほうもですが・・・(笑)

 それでは、本文へ御進み下さいv
     ↓

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 知らない知らない知らない。
 分からない分からない分からない。

 知りたくない知りたくない。
 分かりたくない分かりたくない。

 だってそんなの、赦せない。



  〜Blasphemy〜
     6.悪夢、続行。

 本当だったら、思いっきり怒鳴ってやりたいところだったのだが。
 アシスは気を変えて、連れだと偽った奴を伴ない、手近な喫茶店に入った。
 今アシスの前にはコーヒーとケーキがおいてあり、連れの前には3人前分もする巨大パフェが存在している。
 相手もさすがにどうして良いか分からない様子で、困惑した表情でアシスと巨大パフェとを交互に見比べた。
「・・・・・・なんだよ、食えよ」
 口にケーキを放り込みながら、アシスは言う。
「金のことなら気にすんな、俺のおごりだから」
「・・・・・・まて。何かが間違っている・・・・・・」
 ぼそ、とそいつは反応した。
「そもそもなんで、私はおまえにパフェなどおごってもらっているんだ・・・・・・?」
 ・・・・・・もっともな意見であった。
 一人もんもんと悩んでいるそいつをみて、仕方がないからアシスはにっこりと笑う。
「理由が知りてぇんなら、そのままちょーっと斜め後ろに気を配ってみな、ただし――くれぐれも、気づかれないようにな」
 相手は変な顔をする。
 しかし僅かに視線を横にずらした瞬間、すっと目元の表情を鋭いものへと変えた。
 全身で気配をさぐっているのが、アシスには分かった。
 目だけで一瞬斜め後ろを振り返り、そいつはアシスに目だけで問い掛けてきた。
 アシスはうなずく。
「まず間違いなく――ギルトの手下だ」
 目に見えて、そいつは嫌そうな顔になる。
 少し離れた斜め後ろの位置・・・・・・そのテーブルには、五人のごろつき風の男たちが座っていたのだ。
 何気ない風を装ってはいるものの、注意は明らかにこちらに向けられている。
 アシスはひょいっと肩をすくめてみせた。
「ま、あそこで連れだと言っちまった手前、その辺ではい、さようならなんてできなかったんだよ。
 つーわけで、しょうがねぇけど、もうちょっと俺に付きあっとけ」
「・・・・・・連れとして?」
「そういうことだ」
 しぶしぶとそいつはうなずいた。
 身売りに首を振っていたものの、本当はそれが嫌だったに違いない。
 そいつはやっとパフェのスプーンを握った。
 ようやく食べるのかと思ったとき、ピタリと相手は動きを止める。
「・・・・・・」
 そして、こんどはスプーンとパフェ、そしてアシスの三方を、順繰りに見つめる。
「・・・・・・今度はなんだよ」
 コーヒーを口に運びながら聞くと、
「・・・・・・いま、ふと思ったんだ」
 そいつは大真面目な顔をした。
「おまえの連れだということは、つまりこのパフェをこう、スプーンですくってやって、おまえに食わせてやったりしなくちゃいけないのか?」
 アシスはいま口に含んだコーヒーを、危うく吹き出してしまうところだった。
「おまえっ、一体そんな発想がどっから湧いてきやがったっ!?」
「・・・・・・この前、カフェテラスでそんなことやってるカップルがいたもんで」
「バカップルだ、そんなモンは!!」
 一体、何を考えているのか。
 冗談か興味本位か知らないが、大真面目にそんなことを言わないでもらいたいもんである。とても心臓に悪い。
 妙に納得したような顔をして、そいつはパフェにスプーンをいれた。
 ・・・・・・どこにどう納得したのかは不明だが。
「うまい」
「あーそうかよ・・・・・・」
「・・・・・・悪いな、ありがとう」
「あ?」
 会話が変だ。前後が成り立っていない。
 なにが「悪いな」で、どこが「ありがとう」なんだろうか??
 アシスが口をぱっかりあけて変な顔をすると、相手も変な顔をした。
「腹でもくだしたか?」
「誰がくだすかっ!そうじゃなくて、なにがどう、『悪かった、ありがとう』なんだよ?」
「・・・・・・これ、全部食べてもいいわけか?」
「いーからっ!食っていーから、説明しろっ!!」
 焦れてアシスがそう言うと、そいつはふいに笑う。
「助けてくれた上に、まだ見張りがとけないからと、おごってくれたりしてまで付き合ってくれたことだよ。
 ありがとう。あそこにいた野次馬たちのなかに、こんなにいい奴が混じっているとは思いもしなかった。嬉しかったよ」
 妙に大人びた顔は、そうして笑顔になってみると、まだ少し大人とはいえない、子供のような無邪気な色が浮かぶ。
 その笑顔に、アシスの胸の内で、ドクリと心臓が脈動した。
 目の前の顔が、ある人物と重なる。
 それは、もう二度と見ることのできない人物の、あの笑顔。
 ――そっくりだ。
 アシスが溜息をつく。
 似ているんだ。
「・・・・・・そんなんじゃねぇよ」
 つぶやくようにアシスが言う。
「俺が嫌だったんだよ。それに今こうしているのは、俺の立場がなくなるかるで・・・・・・付き合ってもらってるのは俺のほうだ。礼を言わなくっちゃなんねぇのも俺だよ」
「別にそう思っていてもいい。
 ただ私が嬉しかったことを、伝えておきたかっただけだから」
 再びスプーンを動かし始めた。
 そっくりだ。    ...
 でも違う。こいつは、あいつじゃない。
 それでもアシスは、目の前のそいつを見ているうちに、だいぶ妙な気分になってきた。
 だから、そんな言葉が口から出たのだろう。
「・・・・・・おまえ、なんて名前だ?」
 そいつはどまどったように自分を見返してきた。
 あたりまえだ。いままでの話と全然かみ合っていない質問なのだ。
「・・・・・・セイだ」
 しばらくためらってから、そいつはおずおずと言った。
「ふぅん。・・・・・・俺はアシスっつーんだ」
 ふっと笑い、目を閉じてアシスは言う。
 妙に和んだ。だから――
「なぁセイ、出来ればまた、俺にあってくれねぇか?」
 少し驚いた顔をして、それでもセイは、微笑んで了承してくれた。

「・・・・・・あのこと夢に見るわけだぜ・・・・・・」
 言いながら、アシスは煙草の煙を吐いた。
 吐かれた一瞬は勢いをもって動いた煙も、しばらくすると勢いを失い、ふわりと意味もなく漂う。
 その動きを見るともなしに眺めながら、アシスはばりばりと頭をかいた。
 どこかあいつに似ていたあのセイという奴は、いまごろ何をしているだろうか。
 変な奴だった。悪かったとか、ありがとうだなんて、言われるとは思いはしなかった。
 変な奴だったが、共にいて、なぜだか心が和むような気がした。
「会ってくれっつったけど・・・・・・名前だけじゃあな・・・・・・」
 あとから気がついて、愕然とした事実。
 それでもまだ、会ってみたいと思った。
 だから知っていそうな奴らに聞いてみたのだが、そんな奴は知らないと、誰もが言っていた。
 どうしても足取りが掴めず、どこの奴かも分からない。
 それでも――会いたいと思った。
 だからこんなに気になって、だからあのことを夢に見たんだろう。
 こんな風に思ったのは、本当に久しぶりのことだった。
 再び煙草を口まで運びながら、アシスは静かに目を閉じて、くすりと笑った。
 会いたいんだ。
 だから、絶対に――絶対に捜しだしてやる。

 そしてアシスは、昨日受けた仕事の依頼を、今日のうちに遂行することにした。
 その受け方が、ひどくけったいだった。
 まず、手紙がきた。
 ――読めなかった。
 判別不可能なおどろおどろしい字で、紙が真っ黒になるほどびっちりと書かれていて、とてもとても読めるもんじゃあなかった。
 次に、電話がきた。
 ――なにを言っているのかさっぱりだった。
 出た途端、いきなり「きょほえー!!」とか叫ばれ、そして訳の分からない言葉をわぁわぁと大声で言われ、何事かと呆然としているうちにガチャンといきなり切られた。
 変な手紙と変な電話のあと、とうとう夕方、依頼人ご本人様がやってきた。
 ――勿論、変な奴だった。
 真っ黒いフードとマントで身をつつみ、顔がまったく見えず、妙な薬品のような匂いがして、そしてドアをあけた途端、恐ろしい早口かつかなりの小声で、仕事の依頼をし始めたのだ。
「この書類にある者を殺せ、方法は問わない、報酬は勿論払う、現金でだ、今早速払う、さあ受けろ、すぐ受けろ」
 そこまで言って、でっかいスーツケースをどんと目の前において、自分を見上げた。
 返事を待っているのだろう。
 ・・・・・・かなり怪しい。
 けれどもアシスは、
「・・・・・・いいぜ」
 なんとなく、そう言ってみた。
 この依頼、受けたほうがいい。そう直感が告げていた。
 そして、アシスの直感というものはとてもよく当たる。
 こんなののドコが受けたほうがいいのかと思ったが、そうしておいたのだ。
 ・・・・・・まあそんな訳で、アシスは仕事着に着替えた。
 彼の仕事は何でも屋。
 何でも屋といっても、その内容のほとんどが殺しに関係しているのはなぜなのか?
 それは・・・・・・アシスの腕が良いのに他ならないだろう。

 アシスは最後にもう一度、自分が受けた仕事の書類を見直した。
 そこには殺す相手の情報が書いてある。
 とても綿密な書類で、殺す相手についての膨大な情報が記されていた。
 ただ足りないのは、相手の写真だけ。
「・・・・・・なんでここまで調べといて、写真だけねぇんだろうな・・・・・・?」
 不思議に思ってアシスは呟く。
 けれども、どうでもいいことだった。
 今日はその人物は、自分の仕事部屋に泊まることになっているらしい。
 だから、そこに攻め入ればいいだけの話だ。
 計画はきちんとたててある。失敗の可能性はゼロに近い。
 だから大丈夫だ。
「さぁて。・・・・・・殺しにいきますかっ」
 物騒なことを呟いて、アシスは外に出た。
 ドアを開けたときに吹き込んできた風が、書類をひらひらさせた。
 そこに書かれている名は――

 ――セイレンス=ダーク=アンパイア――



  ―続く―

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 ・・・あああ。なんじゃこりゃ(汗)
 依頼人、メッチャ変人じゃあないですか。
 最初の予定では、もうちょっとマシな人物のはずだったのに・・・いや、あれはあれで変人・・・?
 ・・・まぁ、次はもうちょっと早く投稿できるよう、頑張ります。
 それでは、またっ♪

+有川 綺咲+

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8333〜Blasphemy〜   7.悪夢、再現?+綺咲+ E-mail 2002/4/19 01:00:53
記事番号8322へのコメント

 綺咲で〜す。
 さぁ、今日は無駄話はやめにして・・・さっさと本文へと進みましょうv
 そんな、ネタがないだけだなんて、そんなことはありませんよ、けっして・・・( ̄▽ ̄;)

 それでは、本文へ御進み下さい♪
      ↓

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 本当は分かっていたんだ。
 自分でよく分かっていたんだ。

 いちばん卑怯なのは、自分だって。



  〜Blasphemy〜
     7.悪夢、再現?

 明るい夜だった。
 それというのも今日が満月だからで、晧々と輝く月がやわらかな光で辺りを照らしだしている。
 その満月が、天頂を越えてしばしの時が経った。
 アシスは黒い手袋のジッパーを上まで上げ、服もくまなく点検した。
「よっし。完璧だぜ」
 満足して彼は呟く。
 そして神殿の屋根の上を足音もたてずに駆け抜け、目的の窓へと走った。

 窓の傍まできて、屋根の一部に金具を取り付けた。
 そこには細く丈夫なワイヤーが付いていて、その先はアシスの腰のベルトに繋がっている。
 長さはアシスの手元で調節できるようになっていて、全体重をかけていても自分を支え、なおかつ吊り上げたりも出来る。
 アシスは窓の位置を確認し、屋根の上から飛んだ。
 壁に体ごとぶつかるのを、足で壁に立つようにして避ける。足の裏には消音のパッドが入っている。
 そのままするすると窓の傍にまで降りる。
 気配を探ると、確かに人の気配が――一人の人の気配がした。
 眠っているようで、その気配は静かだ。
 アシスはにやりと笑う。寝ていてくれたほうが好都合だ。
 無用心なことに、窓には鍵が掛っていない。
 襲ってくれと言わんばかりじゃねえかよとか思ってから、いや、普通は襲われるとか思わないもんかと考え直した。
 そして音をたてないように注意して窓を開けた。
 するりと部屋に入りこんでから、腰のワイヤーを外して窓の外に外しておく。あとは帰るときににもう一度腰に取り付けて、手元で調節して上に上がるのに使うだけだ。
 足音をたてずに部屋をうかがう。すぐに闇に目がなれた。さすがに外よりも室内のほうが暗い。
 ベットの位置は書類にかいてあったので、検討がついていた。
 だから迷わず、部屋の一角に向かう。
 すぐにそれは見つかった。もりあがり、ぐっすりと眠っているのかぴくりとも動かない。
 ――ぴくりとも?
 違和感が頭を貫く。
 こいつ、寝息もたてないのか?
 アシスは勢いよくふとんを引き剥がした。
 誰もいなかった。まるまった別のふとんが、無造作に置いておかれていた。
 しまったと思った時に、部屋の明かりが点いた。
「せっかく夢を見始めたところだったんだけどな」
 背後から、静かな声がした。
 ゆっくりとゆっくりと、アシスは振り返った。
 そして驚きに目を見開く。
 なぜなら、壁に寄りかかるようにして立っていたのは。

 あの、自分が会いたくてやまなかった、あの時の奴だったのだから。

「な・・・・・・なんで・・・・・・」
 覆面の下で、アシスが呆然と呟く。
「なんでってー・・・・・・ん?うん・・・・・・」
 相手がだるそうに言う。
「・・・・・・そのまえに。何しに来たの??」
 だるそうっていうか、眠そうだった。
 目は半分閉じているし、髪をかきあげる動作は緩慢だし、ぐにゃぐにゃとしてる体を壁に寄りかからせているし。
 ・・・・・・なんでだ。
 アシスはくらくらする。
 なんでこいつ、ここにいるんだ。
 分かっている。答えはひとつしかないのだ。
 噂にだけ聞いていたセイレンス=ダーク=アンパイアのこと。
 常に顔をベールで隠している、歳若い大神官様。
 そして自分が殺しにきた人物。
 いまこの部屋にこいつが居るということは。
 ――こいつが、セイレンス=ダーク=アンパイア??
「・・・・・・嘘だ、なんでだ・・・・・・」
 ばりばりガキじゃん。
 でもよく考えてみれば、自分より年下だとは聞いていたのだ。
 聞いていたのだが、どうも大神官が自分よりも年下だったなんて、ぜんぜん実感が無かったのだ。
「・・・・・・嘘じゃないよ、机に突っ伏してー、寝てた・・・・・・ちがくって、あんた、何しに来たの?答える気ないなら、また寝たいんだけど・・・・・・」
 訳の分からないことをだらだら言いつつ、突然そいつはぐにゃりと崩れた。
 思わず慌てて駆け寄り、抱きとめてしまった。
 そのまま体をだら〜んとさせて寝ていたりするので、アシスはがくがくと揺さぶって叫んでいた。
「おい、ちょっと待て、起きろ!ここで寝るんじゃねぇっ!!
 だぁっ!なにしに来たか忘れるじゃねーかぁぁ――――――!!」
 突然、相手がぱちりと目を覚ました。
 それはもう、はっきりきっぱり。
 そしてアシスの顔を見つめてたっぷり5秒間は黙る。
「・・・・・・は?・・・・・・あんた、この前街で会った奴じゃないか、一体ここでなにをやっているんだ??」
「あほかぁっっ!!」
 アシスはその頭を思いっきりひっぱたいた。
 どうやら寝ぼけていたらしい、かなり不審気な顔をしている。
 本気でめまいがしてきそうになる。
 ふいにそいつ――セイレンスが微笑んだ。
「久しぶり」
 何気ない普通の様子。
 虚をつかれ、アシスは息をのむ。
「・・・・・・お、おぅ」
「相変わらず元気そうだな。ギルトとはどうだ、ギクシャクしてたりはしないか?」
「いや・・・・・・全然」
「それは良かった。少し、心配だったんだ。友達のようだったから」
「友達っつーか・・・・・・仕事仲間だけど」
「まぁ、似たようなものさ。
 そうだ、折角だから茶でも飲んでいけ。茶請けもあるぞ、大したものじゃないが」
 相変わらず、変な奴だった。
 そして相変わらず、傍にいると和む。
 アシスが呆然としていると、セイレンスはさっさと立ち上がり、本気で茶でも用意するつもりなのか、部屋のドアのほうに向かいそうになる。
 そこでアシスははっと気がつく。
 自分が一体、何をしにきたのかを。
 彼はすぐに動いた。
 大股で5歩ほども離れた位置にいたセイレンスに、一瞬で近づく。
 そしてその首筋に、ぴたりと刃物をつきつけた。
「――動くな」
 セイレンスは全動作を停止させた。
「・・・・・・これはなんのつもりだ?」
 振り向きもせずにセイレンスが問う。
 驚いた様子も、怒っている様子も、なにもうかがえない声。
 アシスは言う。
「何をしに来たかと聞いてたな。答えてやるよ。
 ――俺は、おまえを殺しにきたんだ」
 言った瞬間、胸の奥底でなにかが軋む。
 笑う、気配がした。
「――殺す――?」
 セイレンスは笑っていた。
 そして驚いたことに、ふわりと動いていた。
 刃物の、ぎりぎり届かない先で。
「そうか、あんたはやはり、殺し屋か」
 どうして自分の得物から逃れ得たのか。
 アシスは驚愕する。
 目を見開く彼の前で、セイレンスはただゆるやかに微笑みながら、器用なことに、心底不思議そうな顔をしてみせた。
「おかしなことだな。あんたが私を殺すなんて。
 あんたの心は、それほどまでに拒絶し、恐れているのに。
 ――過去の、再現を」
 過去の、再現を。

 アシスの頭を、数年前の出来事が駆け巡る。
 暗い地下室。
 がさがさとしたコケ。
 ざらざらしていた壁と床。
 雨の音と、水溜り。
 けっして、凄惨ではなかったけれども。
 ぬるりとしていた体。
 黒く、濡れていた顔。
 苦痛を隠した、優しすぎる微笑み。
 ああアレは。

 自分が殺した弟の、変わり果てた姿――――――

 ――アシスは、セイレンスが近づいてきていたのにも気がつかなかった。
 セイレンスの表情が、自分の苦痛の表情とおなじくらいに悲しみにみちていたことも、まったく知らなかった。
 彼はただ、思い出していた。

 自分が人でなかったことを。



  ―続く―

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 初めて、2日続けての投稿です。
 ・・・いや、真夜中なんですけどね(汗)
 ミッドナイトです。ひたすらに眠いです。
 というわけで、いまから就寝いたしますんで。
 皆様、おやすみなさいv
  ↑昼間にご覧になった方、気にしちゃダメです。

 それでは。
 お気が向いたら、次も見てくださいな♪


+有川 綺咲+

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8396〜Blasphemy〜   8.悪夢、覚醒――+綺咲+ E-mail 2002/4/27 13:37:21
記事番号8333へのコメント

 綺咲です〜♪
 前回のアトガキの言葉を撤回します・・・誰も2日続けてなんて投稿してないでやんの(汗)
 えぇ、寝ぼけてましたよ、あたしは。
 そんなわけでぇーまぁ、すいませんねーあはははは・・・・・・。

 それでは、本文へ御進みくださいっ。
      ↓

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 風はただ、吹きぬける。
 何者をもものともせず。
 何事をも知りもせずに。
 ただ一陣の風として。
 全てに捕われもしないで。

 そんな風に、ずっとなりたかったんだ。



  〜Blasphemy〜
     8.悪夢、覚醒――

 珍しくセイレンスが不機嫌だった。
「・・・・・・あ、あの〜・・・・・・」
 声をかけてきた神官を、じろりとセイレンスは睨む。
「・・・・・・用件は簡潔に」
「いやあの・・・・・・朝の礼拝の時間なので、大神官長様から呼んでくるようにと言われたんですけど・・・・・・」
「誰が行くか、馬鹿者が」
 すっぱり切り捨てるような言い方に、神官はすくみあがる。
 けれども、半泣きになりながらも、一生懸命に訴える。
「でも貴方様をお連れしないと、わたしは大神官長様からお叱りをうけてしまうんです〜」
「だからなんだ。私に関係があるのか」
「そんなぁ〜っ。ひどいですぅ〜そもそもなんで、セイレンス様はこの部屋の前から動こうとしないんですか〜貴方様が来て下さりさえすれば、大神官長様の機嫌も直るしわたしも怒られないで済むし、万事オッケィなんですよ〜お願いですから来てくださいッてばぁ」
「えぇい煩い。なんで私が動かなくちゃならない。行動の自由を制限する気か、いい度胸だなおまえ。
 そもそもなんだ。会いたいなら自分からくればいいんだ、大神官長様も」
「いえあの・・・・・・仮にも、大神官長様ですし・・・・・・」
「やかましい。たわけものめ。さっさと行け。それで怒られるなりなんなり、勝手にしてこい」
「うぁ〜ん酷いです――――――ッッ」
 とうとう本気で泣き始めてしまった神官を鬱陶しそうに眺めていたが、ふとセイレンスは表情を和らげ、反省したような顔をした。
「まぁ・・・・・・私のとばっちりで怒られるというのは、おまえには申し訳ないはなしだな」
 そう言うと、どこからか紙とペンとを取り出し、さらさらとなにか書付をして神官に渡した。
「コレを大神官長様に渡してもらえるか?そうすれば、おまえがお叱りを受けるのだけは免れるだろうから。
 ――まぁ、具合が悪いようだったとでも誤魔化しとけ。具合悪いし」
 ガビンと神官は衝撃を受けた。
「具合悪いんですかっ!?」
「――・・・・・・ほほぅ。その意外そうな顔はなんだ?」
 半眼の横目でじっとりと見られ、神官は冷や汗をだらだらたらしながらぶんぶん首を振った。
「なんでもない、なんでもないです」
「いいから言ってみろ」
「いやぁ〜そろそろ礼拝に行かないとなぁっと」
 セイレンスは無言で、立ち去ろうとした神官の襟首をつかんだ。
 ぎこちない動きで神官が振り返ってみると、まったくの無表情で見返された。
 ・・・・・・怖い。
 神官は涙した。
「・・・・・・まったく普段とお変わりなさそうですしぃ〜・・・・・・具合悪いようになんて、まったく全然これっぽっちも見えないですよぅ」
 するりとセイレンスは襟首をはなした。
「そうだな。気分が優れないなんて、具合が悪いのうちに入りはしないのかもな。
 でも今全ッ然礼拝行く気になれないんだ」
 静かに、そして無駄に「全然」の部分を強調してそう言う。
 態度は普段と変わらず大きいし。
 口調もズバズバとしているし。
 どう見ても、具合が悪いようには見えない。
 怒っている分、余計に元気そうに見える。
「でもぉ・・・・・・行きたくないからって、あっさり放棄するのはどうかと・・・・・・」
「だから、具合が悪いといっているだろう」
 いらいらしたように髪の毛をかきあげ、セイレンスは神官に渡した紙を掴む。
「いいか、それ以上うるさくしてみろ。私はいま、具合の悪さが頂点にきてて、腹の虫の居所が悪いんだ。この手紙さえも取り上げて、おまえを大神官長様のところに行かせるぞ」
 その声には本気を感じ、慌てて神官はぶんぶんと首を振った。
「いいえっ、行きます!行かせて頂きますっっ!」
 そしてまだ紙を掴んでいたセイレンスの手をふりほどき、慌てたようにぱたぱたと走っていってしまった。
 その姿が見えなくなったのを確認すると、ふぅっと疲れたように息をつき、ずるずると壁をすべるように座り込むと、セイレンスは呟く。
「・・・・・・心臓に悪いな・・・・・・」
 そして扉を振り向くと、立ち上がって扉に手をかけた。
 今まで自分が背を向けて、神官が入れないようにしていた扉。
 ずっと動かずにいて、立ちふさいでいた部屋。
 数秒の間黙ってノブを見つめていたが、やがてがちゃりと回した。

 アシスが気がついたとき、とっさにここがどこだか分からず、しばらくうろうろと視線を彷徨わせ、白い天井を眺めていた。
 またあの悪夢を見たのだ。頭がぼんやりして、どろりとした眠気がまだ覚めない。
 ああ、なんでここにいるんだろう?
 ふと自分の状況に気がつき、一気になにがあったのか思い出した。
 両腕が拘束されていて、足は足で、ベットに右足を縛りつけられている。
「――ちくしょう、しくじったのか・・・・・・」
 悔しかったが、諦めの気持ちが強かった。
 あの状況下で、きっと自分はセイレンス=ダーク=アンパイアを殺せなかっただろうから。
 多分、自分は処刑されるだろう。なにせ大神官の命を狙い、そして失敗したのだから。
 この国の大神官長ならびに五人の大神官の地位は高い。見せしめの意味も込めて、おそらく極刑に下される。
 苦痛に耐えながら死んでいくことを覚悟しつつ、アシスはそれでもほっとした。
 これで、あいつを殺さないですむ。
 思って、思わず自嘲した。
 これでは、プロ失格だ。
 仕事を遂行できずに、安堵しているなんて。
 そのとき、がちゃりとドアノブが動いた。
 先ほどから人の気配は感じていたので、特に驚くこともなく、アシスは扉に目をやった。
 けれども、現れた人物を見て、度肝を抜かれた。
「な、なんでおまえが・・・・・・っ!?」
 セイレンスは右手の人差し指をたて、口元までもっていった。
 その様子にアシスは口をつぐむ。
 すたすたとアシスの寝ているベットに近づくと、セイレンスは傍の椅子を引き寄せてどさりと座る。
 そしてずるずると背もたれをすべっていき、顔を両手でおおった。
「・・・・・・疲れた」
「・・・・・・なに、疲れてんだよ」
「いやなに、あんたが部屋にいることを隠しとおすことにな」
「・・・・・・は?・・・・・・」
 とっさに、何を言っているのか分からなかった。
 自分がここにいることを、隠しとおす?
 つまりこいつは、殺されかけたということを、誰にも言ってはいない??
「なんでっ」
 やっと頭が理解して思わず声をあげると、
「何でって・・・・・・夜の仕事中に男を部屋に連れ込んだなどと噂がたったら、私の面目がたたないからさ」
 けろりと言った。
 ・・・・・・やっぱり変な奴だ、論点が全然違う。
「・・・・・・なぁ。分かってねえみてぇからいうけどな、セイレンスさんよ。
 俺、おまえのこと殺そうとしたんだぞ?」
 セイレンスは目をしばたかせる。
「・・・・・・昨日も言ったから分かったいるが?」
 ・・・・・・。
「・・・・・・じゃあ、そう言やいいだろーが。別に変な噂はたたねーよ、それだと」
「は?何言ってるんだ、あんたは」
「おまえこそ、一体なにが言いてぇんだっての」
「私が馬鹿正直にそんなこと言ってみろ、あんた、死ぬぞ?」
「いや、しょうがねえだろ、おまえのこと殺そうとしたし」
「・・・・・・死にたいのか?」
 こんどはアシスが目をぱちくりとさせる番だった。
「いや、死にたかねぇけどよ・・・・・・じゃあなんだ。おまえ、まさか俺を逃がすとか言うんじゃねーだろうな」
「いや、逃がす気はさらさらない」
 さらりと彼は言うのだった。
「借りでも作っといて、せいぜい使ってやろうかと」
「・・・・・・おぃ、なんだそりゃ」
「なぁ、提案があるんだ」
 椅子に座りなおして足を組み、セイレンスはにぃ、と口元を笑みの形にする。
「私に、手を貸さないか?」
「・・・・・・はァ!?」
「昨日の忍び込みかたといい、手際のよさといい、殺し屋としでではなくあらゆる意味で、かなり使えそうな人材だと思ってな。
 ちょうど情報提供者ならびに身辺護衛者者がいると考えていた折でもあり、あんたが欲しくなった」
「そりゃ、買い被り・・・・・・」
「ギルトにもそう言っていたな。
 今回の件でだけではなく、この前の私を助けた時の頭の回転の速さからも考えたんだ。
 勿論、給料はきちんと払うつもりでいるし・・・・・・悪い提案ではないと思うのだが?」
 アシスにはその意味が分かった。
 確かに悪い提案ではなく、けれどもセイレンスの真意がはかりきれず、アシスは眉根をよせた。
 セイレンスは子供のような仕草で首を傾げた。
「他意はないよ。ただ、それだけ」
 今までの口調と少し変わり、子供っぽい話口調。
 ――手を貸せば、アシスがしたことに目をつぶり、口をつぐむ――。
 その意味がよく分かり、アシスは迷った。
 自分でも、何を迷っているのか分からなかったが。
 死にたくない。そう思うのだから、この手に乗ってしまえばいい。
 けれども裏の世界の住人であるアシスは、常と同じに、何か魂胆でもあるのではないかと疑うところからはじめる。
 でも、こいつは信じてみたい。
 傍にいてみて、なにを考えなにを思うのか、知りたい。
 暗い世界のプロとしては、人に執着を覚えることはご法度なのに。
 そして彼は、この仕事を受けた時の感じを、ふと思い返した。
 受けたほうがいいと、告げていた勘。
 自分でも認めている、仕事人としても人間としても優れている勘。
 あの勘が確かに告げていたのはなんだろう?
 アシスは黙って苦笑した。
 それは肯定として、ちゃんとセイレンスに届いたようだった。
「・・・・・・ありがとう」
 彼はそう言い、アシスの両腕と右足の拘束を解いた。
 アシスは腕をぐるぐる回しながら言う。
「なにがだよ。
 礼を言うのは俺のほう。助けてくれてさんきゅーな」
「・・・・・・私も礼を言われる覚えはないが・・・・・・。なにせ、都合が良かったし」
「あっそ。うん、ならそれはそれでいーんだけどよー。
 でも俺、気に入った奴にしか仕えねぇからな。それは覚えとけよ」
「・・・・・・肝に銘じておくさ。
 ところで私はセイレンス=ダーク=アンパイア。あんたの名前を聞いてもいいか?」
 そういえば、名前を教えるのを忘れていた。
 前に街であったときにも、そして今回も。
 ・・・・・・まぁ今回は、命を狙っていたから当たり前だが。
 名前は、強い影響力をもつ。
 それは霊力が強い者にとっても、魔力が強いものにとっても、同様のものだ。
 だから、この場合アシスが本名を教えるという事は、同時に弱みも教える事になる。
 セイレンスほど霊力の強い者になればあまり影響はないのだろうし、随分と国民の中でも名前が通っているが、それでもこうして、誠意を表わす意味として、きちんと本名をすべて名乗った。
 けれども、アシスに姓名全てを名乗ることを強要することはなかった。
 ただ、名を聞いても良いかとたずねただけ。
 この場合、先の名前のみを名乗るだけでいいし、また名乗らなくてもことを表明している。
 影響できるモノを握り、生命を左右するつもりまではないということだ。
 それが甘さなのか、優しさなのか、余裕なのかは分からなかったが。
 アシスはまた苦笑した。
「――アシス。アシス=ガディル=ワイデンクロウだ」
 ああ、甘いのだろうか。
 誠意を嬉しく感じ、こうして名前を名乗ってしまう自分は、確かに仕事人として甘い。
 けれどもこの男には、誠心誠意、本気で仕えたいと思ったのだ。
 大神官だからではなく、また弱みを握られたからでもない。
 ああ、自分は甘いのだろうか。
 でもこんな人間的な甘さも、たまには良いのではないだろうか。
 だって自分は――少なくとも今は、人間なのだから。
 そう、アシスが思ったときだった。

 どぉん!!

 遠い彼方から腹に響く爆音がして、僅かな地響きがした。
 すっとセイレンスが目元を鋭い表情へと変えた。
「――来たか・・・・・・」
 あらかじめ、予測していたような言い方。
 アシスもすっと顔をかえ、横目で窓の外を視る。
「――“手を貸して欲しい”ことか?」
 その物言いにセイレンスは微笑み、そして顔を引き締めた。
「魔術の経験は?」
「あァ?あるに決まッてんだろ、殺すヤツにも色んなのがいるんだからよ。
 ほら、おまえみたいなのとか」
「・・・・・・私が魔術を行使できるのを知っていたのか?」
「知らねぇ。勘。
 だいいち、霊力しか使えねぇはずの神官は、あんまおまえみたいに攻撃的じゃねぇしィ。
 ま・・・・・・本気で使えるとは、正直思ってなかったけどな」
 つまりはハッタリ。別の言い方をすれば、信憑性の希薄な鎌賭け。
 けれどもその巧妙さに、正直セイレンスは感心した。
 ・・・・・・これはなかなか、いい契約を結んだものだ。
 良かった得したとか思いつつ、それを顔にだすことは勿論しないで、セイレンスはアシスに言った。
「さて、それなら早速だが初仕事だ。
 多分いま外に魔種族がいるから、問答無用でブッ倒せ」
「うをっ、大神官サマの口から出たとは思えねぇ爆弾発言っ。
 おっまえ、凶暴だなぁ〜」
 ・・・・・・難は、口の悪さだけ。これはあまり、よろしくない。
「やかましい、いいからさっさと外に出るっ!」
「へーへー」
 普通にドアから出て行くアシスの後ろについていきかけ、ふとセイレンスは足を止めた。
 自分の机の上には、国王陛下からの、『魔種族暴走の討伐及び原因の究明』のための“神職者の代表”にあてて送られてきた書類などが、巨大な山を形成していた。
 セイレンスは溜息をつく。
「・・・・・・なんのおつもりなのだか・・・・・・」
 勝手にアシスと主従契約を結んだことを、あの人は怒るだろうか?
 肩をすくめて、セイレンスは少し遠くなったアシスの背を追いかけた。
 別にどうでも良かった。

 書類に混入されていた簡素な手紙が、扉から入った風に吹かれ、ふわりと床に落ちた。
 それには達筆で、ただ一言だけ、言葉が書いてある。
『無理だけは、しないでほしい』
 その差出人も書いてある言葉の意味も、知るのはただ、セイレンスだけ――



  ―続く―

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 そして作者・有川綺咲も、その内容を薄々感づいていた――。
 ・・・・・・いや、知ってなくちゃまずかろう。(汗;)
 ああああ。追い詰められてきてます。あたしが。(ヲィ)
 こ、こんな作者なんですけど・・・・・・あぅ、見捨てないでください〜(>△<,)

 それでは。
 次も、是非またみてくださいv


+有川 綺咲+