◆−〜Blasphemy〜   9.悪夢の中の悪夢−+綺咲+ (2002/4/29 01:20:51) No.8415


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8415〜Blasphemy〜   9.悪夢の中の悪夢+綺咲+ E-mail 2002/4/29 01:20:51


 綺咲でーっす。
 続きでーっす。
 読みます?読みます??(わくわく)
 よみましょーよv
 ・・・いや、あんま楽しくないですけど・・・(汗)
 ま、とりあえず、読んでみて下さいってば。

 それでは、本文へと御進み下さい♪
      ↓

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 ねぇ、気がついたんだ。
 確実に、自分は変化して、そうなっていくけれど。
 それをただただ忌むのではなく、
 それをきちんと自分に取り込んで、
 そうして自分を自分として成長させること。

 そのことの美しさに、やっと気がついたんだ。



  〜Blasphemy〜
     9.悪夢の中の悪夢

 アシス=ガディル=ワイデンクロウは、この大国アトランティスの中でも五本の指に入る屈指の名門、ワイデンクロウ家の三男として生まれた。
 兄弟は二人の兄と、一人の弟。
 男ばかりでむさくるしく思われるが、幼い時分は元気いっぱいに走り回り、たくさん悪戯をしまくる、大人たちに苦笑の顔で見られていた兄弟だった。
 悪戯もしたが頭の回転も速く、またとても人懐っこい子供たちで、評判はとてもよかった。
 そんな中で、アシスは特に賢しい子供で、まだ幼いときから数学・語学・天文学と様々な分野で才能を示し、将来の有望な子供だと、多くの人々から賛嘆されていた。
 子供だった時にはそれほど気にもせず、ああまたなにか言っているなぁと、兄弟みんなで遊びながら思っているだけだった。
 けれども成長して政治について学び始めたら、兄たち――特に長兄は、だんだんとアシスに冷たくなっていった。
 最初は理由が分からず、ただただ当惑しているばかりのアシスだったが、同じく政治を学び、そして世間のことについて知り始めると、すぐにその理由が分かった。
 名門の貴族であった父は、国王を手伝った政治に関わっていた。
 父の地位はとても高いものであって、その地位は世襲制となっており、つまりはそれは兄弟のうちの誰か一人だけが家を継げる、ということを示していた。
 本来であれば長兄が継ぐべきものであるが、世間ではすでに、アシスの才能の高さが知れ渡っており、「彼に地位を継がせ、政治に関われるようにするべきなのでは」と言われていたのだ。
 それを妬み、地位を奪われることを恐れ、兄たちが自分に冷たくする。
 そのことに気がついたアシスは、けれどもそれもしょうがない事だと思い、彼らのすることを黙って見過ごしていた。
 うすうす二人の兄のする行為に気がついていた世間は、そのように大人なアシスを更に評価した。
 それがますます兄たちの怒りを煽ることとなった。
 そして――長兄が、最終手段にでた。

 アシスは、暗殺者を秘密裏に育てている裏組織に、直接兄の手で売られることとなってしまう。
 引渡しの日、長兄は珍しくアシスを遊びに誘った。
 嫌われていると知ってはいても、兄の事が好きだったアシスは、もちろん喜んでついていった。
 そして連れていかれた先で、知らない男の手に渡され、兄は金を受け取った。
 呆然とアシスが見つめる視線の先で、兄はうっすらと酷薄な笑みを浮かべていた。
 ――悪いな、でもおまえが悪いんだぞ――
 なぜ?
 アシスの問いに答えてくれる者はいない。
 こうして、アシスの苦しい日々が始まった。
 運動神経は良かったものの、もともと坊ちゃん育ちであったアシスにとって、暗殺者としての訓練は過酷を極めた。
 自分を人間として扱ってはくれない、酷い訓練。
 身体中を傷だらけにして血を吐くような思いをし、何度も何度も胸の内で反芻していた。
 なぜ、なぜ、なぜ?
 けれどもどんなに辛い思いをしても、決して涙を流すような真似だけはしなかった。負けるようで癪だった。
 それが、何に負ける事なのかは分からなかったけれども。
 殺人機械のように扱われる終らない悪夢のような日々の中で、彼はそれでも努力をすることを止めはしなかった。
 だから、すぐに彼は、とても腕のいい暗殺者になった。
 組織は彼を重宝し、重要な殺しによく使うようになった。
 本当の悪夢は、暗殺者として毎日を過ごすようになった、そんなある日に降りてきた。

 ある殺しの依頼を遂行することとなった。
 それが自分の育った屋敷内の人物だと知り、彼はとても驚いた。
 依頼人は、他ならぬアシスの長兄。
 そのころ長兄は、すでに父の後を継ぎ、様々な政を行うようになっていた。
 その兄が、殺してほしいと思う人物――それはどうやら、地下室に幽閉されている人物らしい。
 誰だとか、何をした奴だとか、詳しい事はなにも書いていない。
 別にどうとも思わなかった。
 考える事は疲れるし、それにアシスは、別に長兄を恨んでも憎んでもいなかったのだ。
 彼の気持ちを考えれば、しょうがないと割り切っていた。
 そうして、なんの疑いもなく殺しにいった。
 地下の暗闇の中、気配だけをたよりに、ナイフで一刺しにした。
 ぐっという、うめく声。
 なんの感慨もなく刺していたアシスは、奇妙なことに、その声を聞いたことがあった。
 その昔、自分が幼い時に。
 ああ、なんということか。
 暗闇のなかよくよく見てみれば、その顔は、忘れもしなかった弟の顔だった。
 兄たちが自分に冷たくあたるなか、唯一変わることなく自分に接し続け、いつも変わらぬ笑みをたたえてくれていた。
 暗殺者として教育されるなか、幼い日々とその笑顔さえ思い出せば、辛いことも乗り越えられてきた。
 その、弟が。
 自分の手の内で、刻一刻と熱を失っていく。
 コレを行ったのは自分。
 コレを命じたのは組織。
 そして、コレを依頼したのは、実兄――
 アシスは我を失った。
 どうする事もできなく座り込む彼。
 弟は、それでもアシスに笑いかけてくれた。
 どうしようもなく悔しく悲しく、涙を流して誤るアシスに、唇を震えさせて弟が言ったのは、ただ一言。
 いままで、それを思い出すことが、どうしてもできなかった。
 どうしても、できなかったのだ。

「・・・・・・へーぇ。マジに魔種族じゃん」
 目の前に広がる光景に、少なからずアシスは目を見開いた。
 今来たのは礼拝堂。なにせ今日は、週に一度の礼拝のある日だ。人がわんさかいる。
 そして礼拝堂の前にはクレーター状の大穴が開いていて、人々が騒々しく騒いでいる。
 大穴の中央に、宙に浮いている何か。
 それは限りなく人に近いカタチをとっていたが、放たれる雰囲気は人のそれとは全く違い、違和感が背中をぞわぞわさせた。
 そいつは誰かを捜すかのように、あたりの人込みを見渡す。
 そして近くまで来ていたセイレンスに目を留め、ぴたりと動きを止めた。
「・・・・・・見初められたなァ」
「くだらない冗談言ってる場合じゃないだろう」
 ふざけた口調で言うと、セイレンスに背中をはたかれた。
 その瞳は本気で、魔種族から動かされはしない。
 その横顔が、頭の中の弟の残像と重なる。
「なぁ」
 アシスが声をかけても、セイレンスは振り返らない。
 ただ声のみで返事をする。
「なんだ」
「・・・・・・俺さ、おまえのこと殺そうとしただろ?」
「まだ言うか、しつこいな。だからなんだ」

「――ごめんな?」

 なぜかセイレンスが、視線を寄越した。
 アシスは申し訳ない気持ちになる。
 これは確かに、セイレンスにも言いたかったことだけれども。
 でも、本当は。
 ずっとずっと、弟にたいして言いたかったことなのだ。
 いや、確かにあのときにも、アシスは弟に謝った。痛い思いで謝った。
 正確に言うのならば、アシスはずっと心の中で、弟に謝り続けていたのだ。
 だから、言いたかった。
「――正しくないな」
 ふん、と鼻をならすセイレンス。
「・・・・・・いーじゃん、謝りたかったんだからよぅ」
 それさえも、冗談に変えてアシスは言う。
 そう、謝りたかったのだ。
 セイレンスにも、弟にも。
 ずっと、ずっと。

「――もう、それ以上自分を傷つけるな」

 そう言って、セイレンスはアシスの胸に触れた。
 アシスは驚き、その手とセイレンスの顔とを、交互に眺めた。
 強い、強い眼差し。
「もう誰も、おまえを責めなどしない。だから――過去を思い出し、自分を傷つけるのは、もうやめるんだ」
 手を介し、胸に響いてくる声。
 そうして、なにかが自分の中に流れ込むような錯覚に陥る。
 それは決して不快なものではなくて。
 アシスは苦笑した。
 年下だと、侮る自分はもういない。
 彼こそは大神官となるに、とても相応しいだけの器の持ち主だ。
 そして、人の上に立つ者として、認められるだけの強さを持つ者。
「――悪ィ。ありがとう」
 そう一言いうと、セイレンスはアシスの胸から手を離した。
「問題は、これからなんだがな」
 その笑みさえも強くて。
 アシスも不敵な笑みを口元に浮かべた。
「分かってるさ」

 ――兄さん。
 ――どうか、自分を責めて苦しまないで――
 あのとき確かに、弟はそう言った。

 そうしてアシスとセイレンスは、宙に浮かんでいる魔種族と対峙した。



  ―続く―

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 お次は、久しぶりに彼女が登場いたしますので、お楽しみにしていてくださいv
 ・・・・・・してくれる人だけ(._.;)
 それでは、アトガキが短いですが、これで。
 また次も、気が向いたら見てください。むしろ見てください。


+有川 綺咲+