◆−小説初投稿です。−エモーション (2002/7/8 21:28:20) No.8667
 ┗アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜 1−エモーション (2002/7/8 21:35:29) No.8668
  ┗アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜 2−エモーション (2002/7/8 21:38:22) No.8669
   ┗アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜 3−エモーション (2002/7/8 21:41:01) No.8670
    ┗アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜 4−エモーション (2002/7/8 21:45:59) No.8671
     ┗あとがき(またの名を言い訳)−エモーション (2002/7/8 22:05:01) No.8672
      ┗こそこそっ。−らりろれる (2002/7/9 21:11:30) No.8679
       ┗全ては無印17話が……−エモーション (2002/7/11 22:31:22) No.8687


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8667小説初投稿です。エモーション 2002/7/8 21:28:20


はじめまして。
基本的に読んでばかりで投稿するのは初めてです。

 趣味でちまちまと話を書いても、特定の友人ぐらいにしか見せたこと無いのですが、
ちょっと思い切って投稿してみました。少しでも楽しんでいただけると良いのですが。

 この話は一応「ガウリナ」で短編……のハズですが……長いかもしれません。(何故だろう?)
15巻終了直後の設定です。
また、作中の設定の補足をしてしまいますが、私の書く話のリナは「赤いの瞳」はしていません。
リナに限らず「基本的に赤い瞳は人間には出ない色」と設定していますので、
作中のリナの瞳の色は「光の加減で真紅に見える赤味の強い色」をした「赤茶色」です。
自分設定語りで、申し訳ないのですが「リナの瞳は赤茶色」と覚えていていただければ
ラストの台詞の意味が分かると思いますので……。

では、お目汚しですがおつきあい下さいませ。

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8668アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜 1エモーション 2002/7/8 21:35:29
記事番号8667へのコメント

「アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜」

1.
 ゼフィーリアで最初に泊まった村を出たのは、わりと朝早くだったと思う。旅に出ている間に、村とは言わないけど、宿が出来ていることを期待していたのに、さすがに期待通りにはいかないらしい。ほいほいと無節操に出てきて攻撃してくるゴブリンやワーウルフなんぞを撃退している間に、すっかり日が沈んでしまい、川岸で野宿をすることになった。……この辺、あいかわらずこんなのが棲んでいるんだなあ……。
「しばらく大きな街どころか村もあまりない道を歩くから、多分野宿になるんだろうなあと思ってたけどね」
「そりゃ、ゴブリンなんかがこんなに住み着いてたら、村や宿屋を作ろうって気にはならないだろ」
「そんなもんにさっくりやられるような、やわな連中いないって。……単にめんどくさいのよ、きっと。はい、ちゃっちゃと薪にする枝を集める! お魚さん、焼いて食べたいでしょ?」
 苦笑しつつ無茶苦茶言うなと言いたげなガウリイに薪の方を頼んで、あたしは魚釣りに集中する。普通ならガウリイの言う方が正しい。が、ここは人間に関して言えば、特殊な例が一般化している。我が故郷ながら、とんでもない。
 あたしはリナ=インバース。相棒のガウリイと一緒に旅をしていて、今はあたしの実家に行くところ。ここ数年大きなやっかいごとに関わったこともあって、ろくに里帰りもしていないし、なおかつ……ガウリイが「行きたい」と言ったこともある。この男、今回、みょーに押しが強い。……ブドウよっ、目的はブドウ! ……だと思う……んだけど……多分……そーゆーことにする。

 お魚さんが十分なくらい釣れた頃、ガウリイが戻ってきた。枝を火にくべながら、お魚さんを焼いていると、ガウリイがすぐ近くに生えている1本の木をしげしげと見ていた。
「どしたの? ガウリイ」
 何か珍しいものでもあるんだろうか。
「この木……さっきから何か見たことある木だなーと思ってたんだけど……」
 ふむふむ。
「やっと思い出した。アクアクの木だったんだな、この木。あ、木の実なってるぞ、採ってくか?」
「え゛っ!?」
「だって、アクアクの木の実は薬になるだろ? ほんとは色々やんなきゃ駄目だけど、そのまんま食べても軽い熱冷ましぐらいにはなるし」
「えええええっ!! 何でガウリイそんなこと知ってるのっ!? ひょっとして頭でも打った?!」
「……あのな……」
 本気で、あたしは驚いていた。あたしの専門じゃないけど、アクアクの木の実が薬になることは知っているし、ぶっちゃけて言えば医者や魔道士じゃなくても知っていておかしくない。それくらいポピュラーな木の実だ。しかし、魔道関係には思いっきり疎いガウリイが知っているなんてっ!! とにかく、あたしは急いでガウリイの隣に立って木を見上げた。一見、何の変哲もない木に見える幹や枝と違い、特徴のある木の実が鈴なりになっている。
「うわあ……。ほんと、アクアクの木の実だわ……。ガウリイ、あんたよく分かったわね」
「ん? ああ、子どもの頃、俺が住んでた村の近くに結構生えてたからな」
「だって、これ野生のでしょ? 村で栽培しているのとは違うはずよ」
 薬に使われるだけあって、用意のいい村や町などでは、必ずと言っていいほどアクアクの木が栽培されている。だが、村や町で栽培されているのは、近くに水源が無くても育つように品種改良されたせいか、野生のものより高さも低めで、樹皮の色もだいぶ違う。効果もやや低い。そして、野生のアクアクの木は、案外見分けるのが難しいのだ。
「だから、村の近くに野生のアクアクの木が生えてたんだ。村じゃ、アクアクの木の実を採るのは、子どもの役割だったからな。夏になると友達や兄貴や妹と、よく採りに行ったぜ」
 どこか、懐かしそうな声でガウリイはそう言った。
「リナ、知ってるか? アクアクの木の下で眠ると、近い将来に出会う人や起きること、会いたい人を夢で見るんだってさ。昔、神父さまが言ってた……って、何で目をまん丸にしてんだ?」
「だって……ガウリイが昔のことを覚えてるっ! あたし、てっきりキレイに忘れてんのかとっ!」
「あのなあ……記憶喪失じゃねーぞ、俺は」
 実際に、ガウリイが「ばーちゃん」以外の家族のことを、ちょっとでも話したのは、初めてだったと思う。でも、何故か突っ込んで聞いてはいけない、そんな気がした。
「まあ、気にしない、気にしない。ああ、そうだ。お魚、焼いてる途中だったのよね。ガウリイ、せっかくだから木の実をできるだけ採っといて。あとで半分くらいどっかの薬草屋にでも売るから。野生のって栽培モノより高く売れるのよね♪」
「はい、はい」
 いつものように笑いながら答えるガウリイに、あたしは、何となくほっとした。

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8669アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜 2エモーション 2002/7/8 21:38:22
記事番号8668へのコメント

「アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜 2

2.
 ほどよく焼けたお魚さんをたっぷり食べて、雑談している間にも眠気はひたひたと忍び寄る。見張りと火の番の順番をガウリイとジャンケンで決めるつもりだったのだけど……。
「リナ。眠いんだったら、無理しないで寝てろよ」
 自覚できる程うつらうつらとしていたあたしを見かねて、そう言っているガウリイの声が、あたしの頭の中でぐるぐる回っている。もう、限界かなあ…………。

 気がつくと、あたしの周囲は真っ白な、霧のようなものが立ちこめていた。目の前でスアイトフラング(幻霧紹散)でも唱えられたように、ほんの30cm前すらよく見えない。
「何これ……。この時期のゼフィーリアに霧なんて珍しいわね……って、ガウリイ?!」
 慌ててガウリイを探したけれど、近くにいるはずのガウリイどころか、たき火や川さえなくなっている。よくよく見れば、足下は地面でも人工のものでもない。
「結界……でもないみたい……ね。……一体、何なの?」
 この場合の結界というのは、魔族が作った結界のことだ。あたしは何度か魔族の作った結界で戦ったことがある。今と同じような不思議な空間だったけど、それとはどこか違う。違うと何故か、判る。腕組みをしてその場で立ちつくし、考え込んでいると不意に霧が晴れていった。
「あれ? ゼル?」
 目の前に現れたのは、ゼルガディスだった。どこか分からないが、部屋の中で大量の、おそらく魔道書をテーブルに積んで、黙々と読みあさっている。フィブリゾの件以来、ずっと会っていないが、きっと今でも旅をしているのだろう。キメラにされた自分の身体を元に戻すための、当てのない旅を。……にしても、何で、目の前にいるあたしに全然気づかんのだ?
 あたしの疑問を余所に、ゼルは魔道書を読み続けていた。しばらくそんな調子だったが、ドアがノックされたらしく、不意に顔を上げると何かを言いながら立ち上がり、部屋のドアを開ける。ちなみに、この間も目の前のあたしは完全無視である。……あれ? 今……?
 あたしの違和感は、ゼルがドアの前で訪れた人物と二言三言、会話を交わしたことではっきりした。「音」が無いのだ。
 いや、正確にはあるのだろう。しかしあたしには「ドアがノックされたこと」や「会話をしている」ことは判っても、具体的に「音」としては聞こえなかったのだ。
 何で、「音」が聞こえないんだろう? 疑問に思うあたしの前に、ゼルを訪ねてきた人物が2人、部屋に招き入れられた。入ってきたのはガウリイと……あたし……だった……。
「ちょ、ちょっと待ってよ! これ一体どういうことっ?!」
 思わず叫んだとき、目の前の光景がかき消え、別の光景が現れた。今度の登場人物はアメリアとシルフィール。2人のいる場所は、部屋の装飾などから見ると、どうやら王宮のアメリアの部屋らしい。先ほどのゼルと同様、2人で何冊かの魔道書を開いて、あーでもない、こーでもないと意見討論をしている。やはり、と言うか彼女たちも目の前のあたしに気づいていない、いや、見えないのだろう。こっそりと魔道書を覗いて見ると……ちっ、古代神聖文字か。と、気がつくとアメリアとシルフィールは話すのをやめ、半ば思案顔で連れ立って部屋のバルコニーから中庭に出る。ついていくと……やっぱし。
 中庭のテーブルにはお茶が用意されていて、イスに1人の少女が腰掛けている。とても見慣れた魔道士姿に栗色の髪の。……予想的中。ここにも「あたし」がいた。アメリア、シルフィール、そして「あたし」の3人は香茶を飲みながら、何かを相談している。ここでまた、光景が切り替わった。
 ……何なんだ、これは。
 こんな調子で何度か切り替わっていく光景を、あたしはただ見ているだけだった。いかんせん、それしかできないのだから仕方がない。どの光景にも必ず「あたし」がいるのが、共通点だろうか。
「今、貴女が御覧になっているのは、近い将来貴女が経験することですよ」
 いきなり耳元で、とっても聞き慣れた声がした。

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8670アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜 3エモーション 2002/7/8 21:41:01
記事番号8669へのコメント

「アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜 3

3.
 いきなり耳元で聞こえた声に、あたしは飛びすさって振り返る。今のはちゃんと「音」として聞こえた。が、その声の主が良くない。
「ゼロス! あんたの仕業なわけ? このわけ分かんない状況はっ?!」
 黒い色を基本とした神官服に、いつも通りのにこやかな笑みで、ゼロスが立って、いや、少し浮いてそこにいた。……あれ?
「まあ、僕の仕業か? と言われれば、『はい、そうです』と答えるしかないんですが……」
 少し困ったような顔で答えるゼロスの言葉を遮って、あたしは訊ねた。
「あんた、誰? 姿はゼロスだけど、ゼロスじゃないわね。……何者?」
「あ、分かっちゃいました? 僕は所謂『案内人』です。この姿は、貴女のお知り合いの姿をお借りして見せているだけです。いやあ、さすがはリナさんですねぇ。大抵の方は別人だなんて、見抜けないんですよ?」
 ゼロスの姿をした自称「案内人」は、姿どころか言葉遣いやリアクションまでゼロスそっくりだった。
「雰囲気がぜんっぜん、違うのよ。本質的なところでね! とにかく、そのゼロスのマネやめてくれる? 別人だって分かってても、精神衛生上に良くないのよ!」
「それは無理です。僕はあなたの、リナさんの記憶にあるこの方の姿と言動をトレースしたにすぎません。やめろと言われても、出来るように出来ていませんので」
「じゃあ、せめて別人には出来ないわけ?」
 ジト目でそう言ったあたしに、ゼロスもどきの案内人は、本気で困ったような、呆れたような顔をした。
「そんなにお嫌いなんですかあ? このゼロスさんが。僕、ちょっと同情しちゃいます」
「そーゆー問題じゃなーいっ!! だいたいねぇ、あたしの記憶を元にしてるくせに、何が楽しくて魔族の姿なんかトレースすんのよ。嫌がらせにしかなんないわよ」
「はあ……すいません。この方は魔族だったんですか。ですが、現実に存在しない貴女のお知り合いの中で、一番、解説等に向いている方のようでしたから……僕、現実に存在している方の姿はとれないんですよ」
「……ゼロス、一応存在してるけど?」
「アストラルサイド(精神世界面)に、でしょう? 現実、物質世界には存在していない方です。まあ、そう言う意味では、『僕』も同じですけどね」
 それ以上のことは秘密です、と言って、ゼロスもどきは本物と全く同じあのポーズをとる。こ、こいつ……もしかして、単に話を一番煙に巻くことができるから、ゼロスの姿を選んだんじゃあ……? がっくりと力が抜けたあたしに構わず、ゼロスもどきは言葉を続ける。
「さて、あまり時間がないので手短に言いますよ。今、リナさんがいるのは現実ではなく、夢の中です。今まで御覧になってきたのもそう。ただし、ただの夢ではありません。先程も言いましたが、ここで御覧になった夢は未来に起きることです」
「へっ? ちょっと待ってよ、夢? これ、夢なの? ほんとに?」
「ああ、ちょっとリナさん! そんなことしても無駄ですよ!」
 止めるゼロスもどきを無視して、自分の頬をつねってみた。……い、いたひ……。
「……何かすんごいリアルなんですけど」
「だから無駄だと言ったのに。僕がここにいますから、夢といっても五感ぐらいありますよ。先程は違ったでしょう? 多分、聴覚がなかったはずです」
 確かに、さっきは「音」が無かった。でも、何で知ってるんだろうか。半信半疑のあたしに、ゼロスもどきはそう言う決まりなのだと前置きして、
「本当なら僕の案内で、かなりリアルに未来の夢を体験できたんですよ? 大量には見られませんけどね。たま−にいるんですよ、リナさんのように好奇心が強すぎて、案内人の僕が出てくる前に未来の夢を見てしまう方が。ま、その場合は大量に夢を見るかわりに断片的、しかも客観的に見ることになります。大抵、聴覚がないので何が何だか分からないようですから、ふつーは目が覚めるまで放っておきますね」
「それがほんとなら、何で今更出てきたわけ? あたしの前には」
「案内が必要だ、と判断したからです。貴女は最初は混乱していましたが、2〜3回見ているうちに冷静に物事を見極めようとしていました。ですが、『夢』だとはお気づきでなかった。こういう方を放っておくと、夢に引きずられてしまうんです」
「……はい?」
「自分で目を覚ますことが出来なくなるんですよ。軽い中毒症状のようなもの、と思ってください。起きたときの後遺症も結構キツイですよ。何なら、お試しになりますか?」
「……やめとく。でもまあ、とりあえず話は分かったわ」
 信じるかどうかはともかく、と心の中で呟くと、ゼロスもどきは見透かしたようにくすりと笑って、事もなげに言う。
「まあ、信じる信じないはご自由に。どのみち、目を覚ませばほとんど忘れちゃいますから」
「何それ? それじゃあ、何の意味もないじゃない」
「そういう決まりなんです。よほど印象に残ったもの以外は、覚えていないか、何となくイメージがある程度なんですよ」
「何のために見せてんのよ、んな夢」
「さあ? 僕には解りませんねえ。何分、ただの案内人ですから」
 その、本家ゼロスと変わらぬお役所仕事っぷりは、ゼロスの言動をトレースしたからなんだろうか、それとも、こいつは元からこーゆー奴なのか。どっちにしてもどっと力が抜けてへたり込んだあたしに、ゼロスもどきは本家ゼロスなら絶対にありえない、心底優しい口調で、囁いた。
「ねぇ、リナさん。『警告』の意味での御神託でもない限り、けして変わることのない未来を知ることは、ほとんどの人間にとって悪影響でしかないんですよ。御神託を受ける巫女であっても、その人の力量を超えるようなレベルの神託は受け取れません。受け取ってしまったら、耐えられませんから。こういうものは本来、受け取る側にも相応の力が要るものです」
 顔を上げると、ゼロスもどき、いや、案内人は、本家ゼロスとは違う笑みであたしを見ていた。
「……何だ。ゼロスと違う事、できるじゃない。あいつは今みたいな口調や笑い方、できないわよ」
 そう笑って立ち上がったあたしに、案内人は一瞬目を丸くして、再び微笑んだ。
「そろそろお別れですね。最後にひとつだけ、リナさんに『夢』をお見せしましょう。僕の案内ですから、先程よりはずっとリアルですよ」
「時間がないって言ってたから、終わりだと思ってたわ。いいの?」
「ええ。僕からのサービスです。ただ、先程と同じで、断片的なものになりますが」
「ありがと。覚えていられる夢ならいいけど」
「忘れてもいいんですよ。これは夢ですから。夏の夜に垣間見た、少し不思議なだけの夢ですから……」
 そう言って、案内人はゆっくりと消えていった。

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8671アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜 4エモーション 2002/7/8 21:45:59
記事番号8670へのコメント

「アクアクの夢〜A Summer Night Dream〜 4」

4.
 カラーン、カラーン……
 よく晴れた真っ青な空の下で、鐘の音が鳴り響いている。村の、小さいけれど品の良い教会で行われた結婚式が無事に終わって、あたしは親族が待つ位置で、花嫁が出てくるのを待っていた。喜びと、彼女のこれからの幸せを願いながら……。
 ドアが開き、紙吹雪やライスシャワーが巻かれ、花嫁と花婿が現れた。集まった人々の祝福の中、光沢のある純白のウェディングドレスを身に纏い、ブーケを手にした花嫁は、こちらに気づくと、明るい金髪と真紅に近い赤紫色の瞳を輝かせながら、幸せそうな笑顔で小走りに……やってくるのって……。
……ガ、ガウリイィィィィィィィィィーーーーーーーーッ!!!!????

「いぃぃやぁぁだあああああああああああああああっ!!!!」
「ど、どうした! リナっ?!」
「ガウリイ、ガウリイ〜!!」
「何だ、リナ。どうかしたか?」
「やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだっ! ガウリイ、お嫁に行っちゃいやだあああああっ!」
「はぁあ? ……って、気色悪い夢見たあげく変な事言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 当然と言えば当然だが、ガウリイにあたしが小突かれたのは言うまでもない。
「……まったく。おまえなあ、アクアクの木の下で妙な夢を見るなよ。ほんとになったらどーするんだ」
 完全に脱力しきった声のガウリイは、あたしの頭をぽんぽんと軽く叩く。……今になって気が付いたが、あたしは不覚にも、悲鳴に驚いて近づいたガウリイに、半泣きの状態でしがみついたらしい。……よく覚えてないけど。ただ、いつものように頭に置かれた手に、何故かとても安心できる。
「見たくて見たわけじゃ……アクアクの木?」
「さっきは気づかなかったけどな。リナの後にあるの、アクアクの木だぜ。まだ若木だから木の実はついてないけどな」
 確かにあたしの背後には、若木であること以外に何の変哲もない木が1本生えていた。
「少し、薬みたいな匂いがするだろ? 若木はそういう匂いが大人の木より強いんだ」
「へぇ……」 
 ……恐るべし、ガウリイの野生のカン。確かに匂いはするが、言われなきゃ気にならない程度のもので、極端に強いとも言えないぞ。感心しつつ若木を見ていると、
「分かったか? ま、頼むからそういう変な夢はもう勘弁してくれよ」
「あたしだって見たくないわよ。だいたい、ほんとになるってどーいう……」
「さっき話したろ? アクアクの木の下で眠ると将来起きることや、会いたい人を夢に見るって。『アクアクの夢』って言うらしいぞ。まあ、全部がそうじゃないし、見てもほとんど忘れるらしいけどな」
 あ、そーいえばそんな事言ってたっけ。珍しくガウリイが物事知ってるなーと思ったんだ、そういえば。と、その時不意に
 ──どのみち、目を覚ませばほとんど忘れちゃいます── 
 何故か、そんな言葉が頭に浮かんだ。ぼんやりとしか思い出せない、でも確かに、誰かに言われた言葉。
「……どうした?」
 少しぼうっとしたあたしに、ガウリイが不思議そうに言う。慌てて頭を振って、笑った。
「ごめん、何でもない。ガウリイ、ほんと詳しいわね、この木に関しては」
「子どもの頃、アクアクの木がらみでちょっとな。その時、村の神父さまから教えてもらったんだ。……そーいや、異様に物知りな人だったな」
「ふーん、そうなんだ」
 まあ、村の知恵袋みたいな人、ということだろうか。ガウリイにとっては、それとは別に相応の敬意をはらう相手でもあるようだけど。
「ガウリイ、見張りと火の番してたんでしょ? ちょうどいいから交代!」
「そっか? ありがたいけど、無理しなくていいぜ。俺は別に平気だから」
「無理してないわよ。眠かったら寝てるわ。目が冴えちゃってもう寝てらんないの!」
「ぷっ……ちゃっかりしてんなあ」
 軽く笑って、ガウリイは座り直すと、後の木に寄りかかる。横になればいいのにと思うが、野宿のとき、ガウリイはあまり横になって眠らない。あれでちゃんと眠っているらしいから不思議だ。
 ……にしても、ガウリイの髪ってほんと、綺麗な金髪なのよね、手入れしてるわけじゃないのに。
 さっきの夢が頭に残っているせいか、何となくガウリイを見てしまう。あの夢の何が嫌って、花嫁姿に全く違和感がないことだろうか。何か華奢だったし。明るい金髪に赤紫の──あれっ?
「……違う」
「何が違うんだ?」
「あ、起こした? ごめん」
「いや、起きてた。何が違うって?」
「あのね、あれ、違うわ……あの夢にでてきた花嫁さん、ガウリイじゃない……」
 あたしは、やっと気が付いた。ガウリイに似ていたけれど、あの花嫁さんは別人だ。よく思い出してみると体つきは確かに女性だったし、顔が似ているけれど、あちらの方が全体的に目も顔つきも女性的で柔らかい。何より瞳の色が決定的に違う。ガウリイにその事を話すと、ガウリイの目が大きく見開かれていった。瞳も、どこか真剣な色合いが強い。……何か心当たりでもあるんだろうか?
「他に、何か思い出せないか? えっ……と、金色の毛並みの、狼にしか見えない犬がいた、とか」
「……ごめん、それだけ。あと覚えてるのって、ゼルやアメリアやシルフィールが出てきた夢くらい」
「そっか……そうだよな」
 どこか、淋しげとも悲しげとも言えない複雑な声音だったのに、でも、そう言ってあたしに見せた顔は、いつもの、ガウリイの顔だった。……………………ばか。

「あのなー、リナ」
 少し経ってから聞こえたその声に、ガウリイの方を見ると、やっぱりまだ起きていたらしく、星を見上げている。……ほんと……ばか、なんだから。だから、あたしはふつーに返事をする。
「なに? ガウリイ。早く眠らないと明日持たないわよ」
「俺の家族はほとんど金髪に青い瞳だけど、俺の妹……マリーって言うんだけど、ばーちゃんとマリーだけは違う瞳の色をしてたんだ。すごく綺麗な……赤紫色の。 明るい場所だとその色が綺麗な赤にみえたんだ」
 それって……あれが「アクアクの夢」なら、もしかしてあの花嫁さん……
「俺が今考えてたこと、そうかなって思って、いいんだよな?」
 どこかのんびりとした、声。……良かった。いつものガウリイだ。
「いいんじゃない? あれがほんとになるんなら、あたしだけじゃなくてガウリイだって見るだろうし」
 「アクアクの夢」が近い将来を見せたのなら、きっとそう。あたしたちは、これからも一緒に旅をするのだから。あたしのこの返事に、ガウリイは、じゃあ、そう決めた、と言いつつ伸びをして、目を閉じた。眠ったのかな、そう思いつつ火を見ていたら、
「……俺の子どもだったりしてなー。ばーちゃんとマリーがそうだったから、瞳の色が青や赤茶色だけじゃなくて、赤紫色でもおかしくないし……」
 あ……青はともかく、赤茶色って……その色は……。こっそりとガウリイの方を見ると、……眠ってる。もしかしてら寝たふりかもしれないけど、眠ってる。眠ってたの! ついでにあたしは今、何も聞かなかった。聞いてない、なぁーーんにも聞いてないったら聞いてないっ! と、また、唐突に誰かの言葉が頭に浮かぶ。
 ──これは夢です── 夏の夜に垣間見た、少し不思議なだけの夢──
 うん、そう。今のは夢。そーゆーことにしておこう……………………………………とりあえず、今は、ね。

                     ─アクアクの夢〜A Summer Night Dream・終─

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8672あとがき(またの名を言い訳)エモーション 2002/7/8 22:05:01
記事番号8671へのコメント

長い……特に4章……。読んでくださった方、ありがとうございます。

実を言えばこの話、3章を削っても成立します。現に最初に考えたときはいなかったし、案内人……。
「アクアクの夢」と言うタイトルは、吉川洋一郎さんのCDのタイトルから使わせていただきました。
確か昔N○Kで放送してた「地○大紀行」のサントラだったと……。
何故か家にあって、タイトルが昔から気に入ってたんです。話も木の設定も
全部このタイトルから逆算して創りました。
……その割に「アクアク」の意味が未だにわかりませんが……。

では、失礼します。

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8679こそこそっ。らりろれる E-mail URL2002/7/9 21:11:30
記事番号8672へのコメント

1年近く連載中断してほったらかしてると、さすがに書き込みにくかったり(滝汗)
しかし待望の丸々一作、これは書かずばなりますまい。
ふっふっふ、愛い奴じゃ(怪)。

やっぱなんつっても『お嫁に行っちゃイヤだぁぁぁぁぁぁぁっ!』ですね。
最高ですこれ。
しかも違和感なかったんかい(笑)

3章のゼロスモドキも、たしかに筋の上では必要ないかもしれませんが、会話の妙がありまする。
最高の人(?)選ですよねー。話をはぐらかすには(笑)

さすがに推敲を重ねられただけあって、全体として文章にもよどみがないし、起承転結がはっきりした、すっきりした構成ですねぇ。

よーしまたおねだりするぞっ!

でわでわ。

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8687全ては無印17話が……エモーション E-mail 2002/7/11 22:31:22
記事番号8679へのコメント

>1年近く連載中断してほったらかしてると、さすがに書き込みにくかったり(滝汗)
>しかし待望の丸々一作、これは書かずばなりますまい。
>ふっふっふ、愛い奴じゃ(怪)。
ありがとうございます〜。って、こちらでもお代官さまモード?!(笑)

>やっぱなんつっても『お嫁に行っちゃイヤだぁぁぁぁぁぁぁっ!』ですね。
>最高ですこれ。
>しかも違和感なかったんかい(笑)
リナが「見た」のは女性ですし。でも無印17話が無かったらコレを考えなかったと思います(笑)
パッケージの方なんてガウリイ、リナに勝ってるし(爆)ビジュアル的にあのガウリイの瞳の色違いが「花嫁さん」です♪
ただ「妹」なのか「娘」なのかは決めてません。決めたのは「どっちにしてもリナは親族席にいる」こと。

>3章のゼロスモドキも、たしかに筋の上では必要ないかもしれませんが、会話の妙がありまする。
>最高の人(?)選ですよねー。話をはぐらかすには(笑)
でも、ゼルには使えない人選(笑)速攻で攻撃されるか相手にされないから。

>さすがに推敲を重ねられただけあって、全体として文章にもよどみがないし、起承転結がはっきりした、すっきりした構成ですねぇ。
ありがとうございます。これでもう少し短くできれば……。自分で短編と書いててまとめてみると長くなってるのが……。

>よーしまたおねだりするぞっ!
「短編」になるように祈っててください。