◆−月―リナ編―−流々るう (2002/8/12 21:53:13) No.8761


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8761月―リナ編―流々るう URL2002/8/12 21:53:13


1ヶ月ぶりの投稿です。
相変わらずのゼルリナ。←だからマイナーだってばよ。
後で、ゼル編も書きたいと思っていますのでよろしくお願いします。

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「うわぁ!リナさん、見てください!」
宿屋の一室。
アメリアの大きな声に、あたしは窓の方へと歩み寄った。
「あぁ、ここからだとすごく良く見えるのね、月。」
 いつも見ているはずの月なのに、今日は何だか特別な感じがする。
(満月だから………?)
ちょっぴしセンチになった自分に照れる。
ふと窓の下を見ると、よく見知った姿があった。足早に町の外へ向かって行く影に、あたしはちょっとしたいたずら心を揺さぶられた。
(ついてっちゃおーっと。)
 あたしは彼が行く方向だけ確認すると、パジャマから普段着へと手早く着替えた。
(マントは………ま、いっか。)
 妙な視線に振り向くと、アメリアが訝しげな顔を向けていた。
「リナさん、どこへ行くんですか?」
「ちょっと散歩してくる。」
努めて平静な表情で言うあたし。
「まさかとは思いますけど、盗賊退治じゃないですよね?」
「あんた人を何だと思ってんのよ。すぐ帰ってくるから、先に寝てて。」
アメリアを睨みつつ、あたしは宿屋を後にした。

 満月に照らされて、町の中は夜だというのに明るかった。
 あいつの消えた方へ気配を殺しながら、あたしは急ぐ。
 窓の外から見たときに、実は大体の見当はついていた。おそらくあいつの向かった先は、町外れの湖。端から気配を消していればいくらあいつでも、あたしの存在には気がつかないだろう。
(たまには驚かせてやりたいし。)
 いつも冷静なあいつ。まぁ最近はかなりお茶目なところも満載だけど、驚いた顔というのはちゃんと見たことがない気がする。
(見たい!)
 そんなつまんない欲求だけが、今のあたしの動力源だった。
(いた!)
 湖を取り囲む木の陰であたしは立ち止まる。ちょうどあいつの真後ろに陣取った。
 あいつは湖の辺に立ち、月を見上げたまま微動だにしない。ここから見えるのはあいつの後姿だけだった。
(後ろじゃ驚かしても顔が見えないよね。)
 どーしてやろうか考えていると、不意に風が吹き抜ける。木々を軽く揺らす程度の風。その風があいつの髪も揺らす。その光景にあたしは一瞬息を飲んだ。
(キレイ………)
 満月に照らされていただけでキラキラしていたあいつの銀髪。風に揺れてキラキラが飛び散ったように見えた。
――――――トクン。
 何かがあたしの奥で音をたてた。
(なんだろう、この感覚は。)
 今まで感じたことのない感覚に、あたしは戸惑った。何だかわけが解らなくて、あいつを驚かすという目的も忘れてただ、ただあたしはその姿をぼーっと眺めていた。
 と、あいつが横を向く。フッと唇の端が持ち上がる。
――――――ドクン。
 さっきよりも大きな音があたしの中で響いた。
(あいつってあんな風に笑うっけ?)
完全にペースを乱され、気配を消すことすら失念した。
「そんなところで何してやがる、リナ。」
 いきなり現実に引き戻されて、あたしは言葉を発することができなかった。
「人の後コソコソつけてきて何してんだ、と聞いている。」
ぼーっとしていたあたしに再び問う声。
「あ、あ〜いや、ほら。月がきれいだな、と思って。」
慌てて取り繕うあたし。
「答えになってねーよ。」
 正面から見据えられ、ついでにわけの解らない感覚に教われ、もーうまい言い訳すら見つからない。
(しょうがないか………)
「あのね、たまにはゼルの驚いた顔が見たいな〜とか思って。で、驚かせちゃお〜とか考え、宿から気配消してついてきました。ごめんね?」
 ゼルの近くまで歩み寄り、ちょこっと上目遣いで謝ってみる。必殺「乙女的謝罪」。
 だがしかし、ゼルには全く通用しなかった様で、
「ほほう。いい趣味だな………」
ずいっとゼルの顔が近づいた。
 あたしは一気に顔の温度が上昇するのを感じ取り、ゼルからすばやく離れる。
「おい、どうした。顔が赤いが?」
 そう言ったゼルは余裕の表情が浮かんでいる。
(何かムカツクむかつくむかつくぅぅぅぅぅぅぅぅぅ)
 悔しくて、争っていたわけでもないのに負けた気がした。だから思ったことを全部ゼルにぶちまけていた。
(せいぜい困るがいいわ!)
 多分、この時点であたしは冷静な部分を全て無くしていた。後々考えると、よくそこまで言ったものだと恥ずかしくなる。
「………………そ、そうか??」
ゼルが言った言葉はこれだけだった。そりゃそうよね。普通どう反応して良いかわかんないわよ。
「う〜……帰る!」
あたしはさっさとゼルに背中を向けると、宿屋に向けて歩き出した。後ろでゼルが何か言いながらついて来ていたが、全く耳に入っていなかった。

この気持ちは何だろう。
暖かい、柔らかな気持ち。
名前すら解らないから、
後でそっと聞いてみよう。
静かに降りそそぐ
明るい光。
きっと答えてくれるはず
それはね―――――――――

終わり


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あ〜何だか寒い話ですが、ココまでお付き合いくださりありがとうございます。
ご意見・ご感想お待ちしています。