◆−最後の大賢者・修正版1−R.オーナーシェフ (2002/9/6 16:20:23) No.9028 ┣最後の大賢者・修正版2−R.オーナーシェフ (2002/9/6 16:52:42) No.9029 ┣最後の大賢者・修正版3−R.オーナーシェフ (2002/9/6 16:57:23) No.9030 ┣最後の大賢者・修正版4−R.オーナーシェフ (2002/9/6 17:00:19) No.9031 ┣最後の大賢者・修正版5−R.オーナーシェフ (2002/9/6 17:02:20) No.9032 ┗最後の大賢者・修正版6−R.オーナーシェフ (2002/9/6 17:04:39) No.9034 ┗Re:最後の大賢者・修正版−ブラントン (2002/9/10 23:37:02) NEW No.9112 ┗Re:最後の大賢者・修正版−R.オーナーシェフ (2002/9/12 15:10:25) NEW No.9150
9028 | 最後の大賢者・修正版1 | R.オーナーシェフ | 2002/9/6 16:20:23 |
前に投稿した小説なのですが、気になるところを修正してみました。 ********************************* ゼフィーリアではぶどうの収穫の季節。空は澄んで高く、さわやかな時期である。 小鳥がさえずり、風景は美しい姿を魅せる。結婚式に、この時季を選ぶカップルも、多かったりする・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「あんた・・、ほんとにぶどう食べたかったんだ。」 「まあな。」 ほんとにまあ、なれた手つきでつるりんとよく食べること食べること。 「ねえガウリイ、あたしの実家に来たかった理由ってぶどうだけ?」 「うーん、そうだなあ・・。聞きたいか?」 「うん。」 あたしは強めに言った。なぜか。 「おまえ、何か期待してるだろ。」 「それは・・・」 そこで、あたしは言葉に詰まった。 「リナ・・・? 熱ないか?顔赤いぞ。」 「ないわよ。うっさいわね。気温が高いからよ。」 いつも通り、ガウリイに怒りながらも、同時に心の何処かで一言一言、しぐさに ガウリイらしさを感じ、ここちいいような気もした。 あたしは目の前にあったワインを飲み干した。 ぬくもりが。つたわってくる・・。いつもそばにいる彼の、知っているあたたかさ。 でもこんなに深くやすらいだことはなかった・・。 つんつん。ぺたぺた。べちべち。ばしぃぃぃぃぃん!! 「ったーっ。ったく何すんのよって・・・・ね、姉ちゃん?」 「よ。リナ。ずいぶんきもちよさそうに眠ってたわね。」 「あれ?ここは・・・」 あたしが眠っていたのはベッド。見渡せば部屋にはあたしと姉ちゃん。見覚えのある場所だ。 「レストラン・リアランサーの2階よ。あんたがよっぱらって『う〜ん』なんてSEXYな 声出しながらガウリイによりかかっちゃって、そのまま眠っちゃってさ。仕方ないから ガウリイがあたしの案内で抱きかかえて運んできたのよ。他の客にひやかされながらね。」 「うぞ?」 「ほんと。」 「・・・・・・・・・。そ、そうなんだ・・。ところで、ガウリイは!?」 「うんと・・、就職面接ってやつかな。」 「・・・は?」 「流れの傭兵やめて安定した職につきたいんだってさ。それであたしが紹介してやったのよ。 さっき推薦の手紙も書いてわたしてやったわ。」 「で、その場所は?」 「それはねえ・・」 「なによ。王宮の中までつれてきちゃって。」 あたしは姉ちゃんに言った。姉ちゃんはなぜかここをフリーパスで通ってしまうのだ。 「ついたわよ。」 「ここって・・・」 かつて降魔戦争のとき、人間側の主力としてドラゴンやエルフと同盟を組んで以来の伝統をもつ “精強無比”ゼフィーリア騎士団。その統合参謀本部のある部屋のでっけー両開きの ドアの前にあたしたち姉妹はいた。 突然、ぎぎぎーっとドアが開く。出てきたのはちょっと渋めのおやぢ。見た目四十くらいだが 実際は七十歳だという。統合参謀総長サー・ピーター・デ・ラ・ビリエール将軍。‘歴戦の勇者’らしい。 姉ちゃん以外にもゼフィーリアにいくつか転がってる化け物その一である。父ちゃんとは宿命のライバル。 「お!ルナとリナじゃねーか。ちょうどよかった。手伝ってくれよルナ。」 そう言われ、 姉ちゃんは両刃の長剣をわたされ、あたしたち姉妹はビリエール将軍の後をついていった。 やがてかなり広い部屋―闘技場に出た。 「ガウリイ!」 「よう。リナも来てくれたのか。」 「ようって、何してんのよあんた。」 「俺の剣の腕がみたいんだってさ。女王様が。」 石造りで、周囲に過去の勇者や国を守護する神々、想像上の生き物などの彫刻が立つ。 おそらく広さは謁見の間より上、王宮で一番だろう。中心に、姉ちゃんがわたされたのと 同じ長剣を持った長い金髪の男。ガウリイ。それを取り囲み、見下ろすように一段高く 半円形に席がならび、大臣やら将軍などが座る。その中に女性が、若い者とやや歳 いっている者と二名。知っている顔だった。 「久しぶり。リナ。いい男連れてきたわね。今ちょっと借りているわよ。」 あたし達姉妹とはよく組んで暴れてた彼女が即位してそれ程たたない ‘永遠の女王(エターナルクイーン)’の称号を持つ存在。名をエリザベートという。 ボーイッシュなショートカットのブロンド。美人だがきつそうにも見えて不良グループの 女リーダーやってりゃ似合うかもしれない。姉ちゃんとは同じ歳の化け物その二。 こうしていれば分からないがカリスマ性は絶大である。 「お前も来ていたのか・・・。」 「ええ。弟子との再会ばかり楽しみにしていたけど、あなたともしばらく会わなかったわね。ビリエール。」 「評議長引退して、また王宮勤めに復帰したのか。」 「非常勤だけどね。そういうことよ。」 女王の隣に座る女性が最高位の将軍に向けた言葉遣いから、その格がうかがい知れる。 あたしは、姉ちゃんとフィルさんとこの人は苦手だ。名をエイミー・ハノーヴァーという。 このあたしに‘桃色(ピンク)のリナ’の称号を与えた張本人だ。ゼフィーリアの化け物その三。 「久しぶりね。リナ。旅に出て以来会ってなかったけど。まさかこんな殿方つれてくるなんてね。」 「ま、導師(マスター)。おひさしぶりです。」 「さ、ルナ。ガウリイの相手してちょうだい。」 女王が言った。 「ま、いいわ。あたしもガウリイの腕は興味あるし。」 昔パートナーだった相手に姉ちゃんは今も同じ言葉使いで敬語はつけない。 二人が剣をかまえる。 ビリエール将軍が真中に立った。 右手を静かに上げた。そして振り下ろす! 「はじめ!!」 刹那 二人が消える。ドンっという、空気の壁を破る衝撃波。瞬間的にいくつも火花がとびちり、 ギリギリと剣をかみ合わせ、動きを止めた二人が姿をあらわす。 「はあっ!!」 ガウリイが気をはいた。 次の瞬間、あの姉ちゃんが後ろに吹っ飛ばされる! だがすぐに体勢を直し、鋭い突き。ガウリイが受け、すくいあげる。 流れるようにガウリイが振りかぶる。姉ちゃんには一瞬スキが出来た。だが、上に 飛ばされ宙を舞ったのはガウリイのほう。姉ちゃんの剣を受け流した後には蹴りが待っていたのだ。 着地して受身を取り立ち上がるガウリイ。一度剣を収め、居合抜きで姉ちゃんに斬りかかる。 「くっ。」 なんとかそれを受け止める姉ちゃん。その時、一瞬姉ちゃんの目が変わる。そんな気がした時、 光が走るようにガウリイの剣ごと一気に斬り、ガウリイをふっとばした。 「ガウリイ!!」 あたしは思わず叫んでしまった。 姉ちゃんが床に倒れたガウリイに近寄り、剣先をのどにつきつける。 「そこまで。勝負あった。」 ビリエール将軍が姉ちゃん側の手をあげた。 姉ちゃんがゆっくり、剣を鞘に収めた。 「負けたわ。」 姉ちゃんが言った。ガウリイのほうをむいたまま。 『・・・・・・・・・・・・はい?』 BY姉ちゃんガウリイ以外の一同。 「あたしの負けだって言ってんのよ。」 「な、なんでよルナ。」 女王が言った。 「不公平だったからか?ガウリイの勢い、凄かったもんな。でも勝負はついた。ルナの勝ちだ。」 将軍が姉ちゃんをたしなめる。 「・・・・・・・あ、そっか。」 女王がつぶやくと同時にあたしも気がついた。 「ビリエール将軍が気がついた通り、力が入りすぎて、つい使っちゃったのよ。あたしのスイーフィードナイトの力を。だからあたしの負け。」 「そう言うなら俺はかまわんが、こんな勝ち方納得いくか?ガウリイ。」 将軍は、ちらっと、知った仲間でもみるようにガウリイを振り返った。 「いいえ。」 「だよな。俺やインバースの奴でも同じように言うさ。男の剣士ってのはそういうもんだ。 もう一本行くか?ルナ。天下のスイーフィードナイトが負けっぱなしってわけにはいかねーだろ。」 「将軍、俺の剣あります?」 「あの力を受けるにはこいつがいるか。いい剣持ってるな。」 長剣をほうりなげる。ガウリイの斬妖剣だ。 「つまり、次はフルパワーの大マジでってことね。甘くないわよ。神の欠片の力は。」 「姉さん、俺はリナとともにシャブラニグドゥの攻撃も受けてきたんだぜ。今も同じように リナが見てる。スイーなんとかも受けてやりますよ。」 「スイーフィードナイトよ。ガウリイ。」 つっこみだけはあたしの担当である。 なんか、いつのまに姉ちゃんのこと『姉さん』って言ってるのが気になるけど・・・・。 「ガウリイ、あなたって・・・、リナにぞっこんね♪」 「なっ!?」 一気にあたしの顔が紅潮してボッと熱くなった。何言ってんのよ姉ちゃん、と言いたかったが声にならない。ガウリイは黙ったまま。 「そうなると・・・、誘惑したくなるのよね。」 眼を妖しく細めて、姉ちゃんは唇をなめた。 「心理戦は通用しないぜ。」 表情を変えないガウリイ。 「マジってことは、ゲームの試合じゃない。真剣勝負よ。命の保証はできないわ。 あなたの腕はさっき分かったから手は抜けないわね。妹のパートナーは殺したくないわ。」 「俺は最初からそのつもりで姉さんに来てほしかった。」 「そう・・・。まいいか。面白いわ。リナと組んで高位魔族と戦ってきた勇者の剣、本当は興味あったのよね。」 「ちょっとまてよ、姉ちゃん、ガウリイ!」 二人は答えない。そんな・・・止められないの? 持っていた剣を放し、姉ちゃんは虚空に赤い光を出現させた。竜王と同様、スイーフィードの 分身の一つであるそれはスイーフィード・ナイトの意思により異空間を通って出現した。『赤竜の剣』だ。 「いくわよガウリイ。」 「ちょっとまってって。おーい。こら。そこの剣術バカ3人やーい。」 女王が身を乗り出した。でも向き合う二人と立ち会う将軍の剣術バカ3人は、その空間に集中していた。 「おう!」 そうガウリイが応え、気をはく。黄金竜の描いた文様が光を放った。互いが一気に斬りかかる。 「だあああああもう。ルナったらやめえい!こら。ったく。」 女王が言った。と思ったその次の瞬間、 ギィィィィィィィィィィィィィィン 刹那の静寂。 姉ちゃんの赤竜の剣とガウリイの斬妖剣を、女王が一瞬で、持たせていた付き人から 引き抜いた魔力バスターソード二刀流が、間で同時に受けていた。雷が落ちたようだった。 周囲で腰を抜かし崩れる老大臣数名。あたしはなんとか目で追ったが。 でかいバスターソード二刀をこの速さ。ひょっとしたら女王のパワーって、見た目 華奢なのにフィルさんくらいあるかもしんない。 「ルナが本気になったらあたしの城が消し飛ぶっちゅーの!!」 女王に言われ、口元でかすかに姉ちゃんは微笑んだ。割って入る女王を予期していたかのように。 ガウリイとやる気はなかった・・・、のか・・・? 空気がしばらくシーンとして、やがてゆるみ、ざわざわと周りが騒ぎ出す。 一人、あたしはその中を歩み、ガウリイに近づいた。あたしに気がつき、微笑む。 あたしは右手を横に上げた。そして、バシッ、と、乾いた音が響く。 「・・・」 ガウリイはビンタされた頬を押さえ、無言で答えた。 「二人で戦う時はいつも危険の連続だけど・・・・・・・」 今までのいろいろな戦いのシーンがいくつか頭の中に流れる。 「一人だけで危険を冒すのは止めて。お願いだから。」 「・・・そっか。悪かったな・・・」 ガウリイはゼフィーリア騎士団に合格した。 やがて皆が闘技場を後にした。 ・・おや? 一人だけ、違うほうの入り口から出て行く人がいる。 「ガウリイ、あたし久しぶりだから話してくるわ。エイミー先生と。」 「ああ。」 やや気まずそうな、寂しいような目が気になったが、あたしは先生を追った。 マスター・エイミー・ハノーヴァー。 あたしが弟子になったときから旅に出ているころはゼフィール・シティ魔道士協会評議長だった。 その後、やっぱ歳だし、引退したが、また宮廷魔道士を非常勤で引き受けたらしい。 昔もやっていたと聞いたが。 かつて仲間だった相手とのつらい戦いがあり、その後ガウリイと二人で郷里に帰ることにした。 その途中近代の五大賢者の一人、ルオ・グラオンが亡くなったという知らせを立ち寄った 魔道士協会で聞いた。あたしは、『ルオ・グラオンの書』なんてのを頼まれて探したりして、 本人に会ったこともあるのだが、普通のじいさんである。でもそう聞かされるとやはりさみしいものである。 そうなると、今生きている五大賢者は、その中の唯一の女性だった大魔道士。ゼフィーリアの “生きている伝説”エイミー・ハノーヴァーただ一人だ。 ガタっと先生が出ていった扉をくぐる。 「エイミー先生・・・って。歩くのこんなに速かったっけ?」 追いついたと思ったのだがかなり先まで行っている。あたしは少し速めに歩き、 やがて灯りのとどかない薄暗い廊下の奥の、地下へ続く階段へ行きついた。 王宮は何度か来ているが、ここはあたしは知らない。 ・・・いや。かすかに。記憶があるかもしれない・・。 魔道を習い始めたばかりの小さいころ、ひょっとしたら来たことがあるのか・・・? あたしは階段を降りていった。 西の地平線がオレンジ色にそまり、やがて蒼く薄暗い色に変わる。空には細い月。 東から魑魅魍魎が跋扈する闇がやってくる・・・・ ここは・・、来たことあるかもしれない。確か、まだあたしが魔道を習い始めたばかりのころ、 一回だけ先生と。地下に降りたように感じられるが中庭である。王宮の中で床の高さが地面より下がり、 城の地下の部分から出入りできる手入れのよく届いた庭。天井がぽっかり空いている広い地下室という感じだ。 そこに、エイミー先生は立っていた。 やや歳いってるがまだまだ綺麗な女性、と見た感じでは映る。だが実際は世間一般の平均寿命 くらいにはなってるはずだ。神官、僧侶系の白い服をもう少し飾ったような姿。 あたしにピンクのローブをさずけたように変な少女趣味みたいなところがあるのだが、 性格はクールである。新月の夜空のように黒く綺麗な長髪。あの歳で若いままのボディーライン。 ナーガが歳をとったらこんな姿になるかもしれない。ヤな例えだが。 「あら、リナ。」 「先生、ここは確か・・・」 あたしたちの目の前には長方形の石のケースが置いてある。その形から、これが何なのかはだいたいわかるが・・。 「ここはね、ゼフィーリア王室の霊廟なのよ。」 「誰が眠ってるんですか?」 ふと、エイミー先生は上向きかげんに軽く目を閉じ、息をはいた。 「フェリペ王子。向こうには先々代の王が眠ってるわ。二人ともあたしにとっては大事な人だから。 たまにここへは来てるの。」 フェリペ王子というと・・、現‘エターナルクイーン’エリザベートの叔父、先代国王の兄だ。 后の子じゃないから即位できずに、失意のまま亡くなった悲劇の王子。王位継承するわけではないから、 あまり束縛されずフリーに行動できたようで、彼にまつわる、アメリアが聞いたら泣いて喜びそうな伝説もいくつか残っている。 ゼフィーリアってそういうの多いけどさ。 母親は誰なのか、公表はされてない。国王の愛人としか。 だが、その正体は・・・今、分かった。 「そっか。先生、先々代の、昔の王様と『禁断の愛』ってやつをしちゃったんだ。」 「ま。そういうことよ。確か、今のあなたくらいの歳にね。」 今のあたしくらい・・か。 そりゃあ、あたしゃ女だし。恋もしたいし、お嫁さんだってあこがれてるし・・。 ほんとだってば。 確かにそういう年だな。 ふと、思い浮かぶ。ともに旅した彼の顔・・・・・・・・・ って、なんでアイツ思い出すのよ。 「リナ、顔赤いけど、どうかした?」 「ど、どうもしてませんよ。」 アイツがあたしの実家に行きたいと言ってからだ。調子が狂っちゃう。 そのときは正直うれしかった。なぜか。‘ぶどう’でなんだかごまかされたけど。 ムカツク。自分がわからない。 「ガウリイって言ったかしら。長い金髪の彼ね。ほんと、強くてやさしくて。ステキな人よね。」 「せ、先生!か、勘違いしないでよね。別にガウリイはなんていうか、自称保護者っていうかくされ縁っていうか・・、」 「やっぱり顔赤いわよ。ま、いいじゃない。自分の心の支えになる信頼できる人がいるっていうのはとてもありがたいことよ。」 「でも、ガウリ・・・・・・・・あ。そうか・・。先生って今は・・・・・・」 一瞬気まずくなった。セリフがつまる。 息子も夫とも死別。生きてるときもその立場上自由には共に暮らせなかった。今、エイミー先生は一人。 「いいえ。」 ぜんぜん気分を悪くすることもなく、まっすぐあたしを見た。 「あたしには、リナ。弟子のあなたがいてくれたからね。でも、そろそろかしら?娘を嫁に送り出す親の気分を味わうのは。」 「もう。先生ったら。」 「これは本心よ。あたしは、あなたのウエディングドレス姿が生きてる間に見たいと思ってるわ。」 「そ、そんな。ウエディング・・・・・・・・・・・生きてる、間?」 「こう見えても、ずいぶん長く生きてるからね。大きな魔法もかなり使ったし大分消耗してるしね。 ねえリナ。あたしのわがままなんだけど、頼み聞いてくれる?」 「え?あ、はい。」 唐突なのできょとんとした。 「あたしの一生が終わる時、あなたが看取ってくれないかしら。できることなら、あたしがあたしでいられる間に・・・・・・・・・」 |
9029 | 最後の大賢者・修正版2 | R.オーナーシェフ | 2002/9/6 16:52:42 |
記事番号9028へのコメント 政治は時に悪と手を結び毒をも飲むことを必要とする。古今東西、各国王室にお家騒動がつきものなのは必然だ。 聖王国をなのるセイルーンもそうだった。 だが、そんな争いは利益を求める外部に付け入るスキを与える。特に負の感情を食う魔族にとっては 最高のターゲットだ。過去、魔族との戦いに人間の先頭にたってきたゼフィーリアも例外ではない。 フェリペ王子が騒動に巻き込まれた時も、やはり彼に魔族が近づいた。しかも高位の海将軍である。 当時は対魔族の切り札である先代赤の竜神の騎士(スイーフィード・ナイト)が亡くなった後だった。 当然ルナ・インバースとして転生する以前である。 苦戦したが、謀略を見破り、自分を王にし操ろうとした海将軍を王子は撃ち滅ぼした。大魔道士エイミー の助けを借りて。その時エイミーが実の母だと言うことは国王とエイミー以外誰も知らなかった。王子自身も。 やがて王子は魔族との戦いと冒険のストーリーを残し、戦いでの消耗が原因で永眠した。これが世間で伝わる王子の伝説である。 しばらく先生と話しして、あたしは先に王宮を後にした。 ・・・・ん? おや? 太陽が沈み、まだ薄暗い明かりが残る中、人影が歩いていく。あたしの向かう方向とは反対側に。 あっちにあるのは・・・ ゼフィール魔道士協会と、さらにしばらく行って、郊外の森の中にゼフィーリアの名門ハノーヴァー家がある。 かすかにしか見えないが、あの人影は知っている姿だ。さっき話してたばかりの。 「え、エイミー先生・・・」 呼んでみようと思ったがやめた。 でも、 なんでもうあっちのほう歩いてるんだろう?あたしが先に出てきたのに。ずいぶん早いな。 霊廟にはあたしが通ってきた入り口一つだけで他にはなかった。 あいている空からレビテーションで飛んできたか。 ・・いや。それはない。 ゼフィーリアの王宮の中で魔法使えばアストラル監視用の水晶に反応してしまう。 許可を得た場合か緊急時を除いて王宮内部では魔法発動は禁止されているのだ。もし使えば、 「殿中でござるぅ〜」などと言われて押さえられ、厳しい罰が待っている。中下級の魔族なら防御は 鉄壁である。まあ、ゼロスくらいのやつならば破ることもできるかもしれないが。 「うーん・・・・・。まあ、いっか。」 「できることなら、あたしがあたしでいられる間に・・・・・・・・・」 その先生のセリフがあたしの頭の中で響いていた。 東の空から闇が広がってくる・・・・・ 急いで帰ろ。 からんからん 「よう。リナ。ここ座れよ。」 レストラン・リアランサーの入り口を開けると、カウンターに座っていたガウリイが言った。 多分、スコッチあたりだろう。そのロックをかたむけ、氷をゆっくり溶かしながら。 あたしはそのとなりに座る。 「あのさガウリイ。その・・・昼間はごめん。」 「ん?何かあったっけ?」 「このクラゲ。ま、いいわ。気にしないで。」 実はここの店、夜になるとパブもやるのだ。 バーテンは・・・ 「リナ、あんたも何か飲む?」 他の客の注文したカクテルをしゃかしょこしゃかしょこ振りながら姉ちゃんが言った。昼のウエイトレス姿 とは変わり、蝶ネクタイに短めのジャケットを着ている。巨乳がウエイトレス姿よりももっと めだってるような・・。化粧も少し濃くなっているかもしれない。赤い口紅がよく似合う。 奥の厨房で忙しいオーナーシェフに代わり、表は姉ちゃんが仕切っているのだ。 なんか、かっこいいし。女として少しくやしい。 ・・・・でも。それでいいのかスイーフィード・ナイト。 あたしは今年からゼフィーリアの法令でお酒が飲めるようになった。もちろんこれは国によって 違うわけでセイルーンであたしが飲んだらアメリアが「未成年の飲酒すなわち悪」と言ってキレるだろう。 よい子のみんなもお酒は飲んではいけないよ。大人になってからね。 でも、やっぱ経験は浅いわけで好みがあるわけでもなく・・ 「なんかおすすめ作ってよ。姉ちゃん。」 「オッケー。」 ブランデーか?それと、レモンジュース、砂糖にソーダを入れて姉ちゃんはシェイクし始めた。 「はい。ルナ姉ちゃん特製『毒の見分け方練習用カクテル弐号』ね。」 「でえええええええええええええええええっ。ちょっとまってよ姉ちゃん。」 「弐号ってことは、壱号もあったんですか?」 ガウリイが姉ちゃんに聞いた。 「うん。昔、ノンアルコールでリナに飲ませたわ。毒には毒性弱めのブルーリーの実を使ってね。今度はマンドラゴラあたりを・・」 「姉ちゃん、まぢ!?」 「使いたい誘惑があったんだけどやめたわ。ビックリした?本当はアプリコット・フィズっていうの。飲んでみなよ。甘口でおいしいから。」 「へー。そんな名前なんだ。ありがとう。」 「ふふん。リナも大人になったわよねえ。ほんと、あたしが『世界を見て来い』って言ったときよりも 成長したわ。なによりも、こ〜んなステキな彼氏連れてきちゃうんだもんね。」 ぶぴゃあーっ 「っ、えほっ、げほっ。」 酒が気管に入るとぐるぢい・・ 「ち、違うわよ姉ちゃん。ガウリイはそんなんじゃないってば。」 「なーによ。照れるなって。」 「だからー。もう。ガウリイもなんか言ってよ。」 「ん?お、おう。えーと・・」 「ふーん・・・じゃあ、そうすると困ったわねえ。」 「どうしたの?姉ちゃん」 「これから田舎へ帰るとしてもまだ一日か二日くらいかかるし、どうせゼフィール・シティで泊まっていくんでしょ。 部屋はここの上の階にとっておいたんだけど・・・・・・ 一部屋しかとってないわよ。」 「ええええええええええええええええええええ?マジ?姉ちゃん。」 「うん。てっきり二人で泊まるもんだとばっかり思ってさ。もう他は予約でいっぱいだし。 あきらめて二人で泊まれ。リナ。いっそのこと彼氏彼女になっちゃえ。」 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ姉ちゃん。そんな・・・」 「ま。他に部屋ないんじゃ仕方ないな。リナ。」 普段同様に平然と。ガウリイはそう言った。あたしに向かって。 あたしは・・・・・・・・、その、ガウリイの視線に・・・・・、何も言えなかった・・・・・・。 あったかい・・。おいしそうな小鳥さんの鳴き声で目はもうさめたけど。気持ちいいからもう少し お布団さんのなかでヌクヌクしてたいにゃん・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・なんか作品違う・・!? 「リナ、おきてるのか?」 「うーん・・。」 布団の中でその声の方に寝返りをうつ。すぐ目の前にはガウリイの顔。 「おはよー。ガウリイ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん? ってガウリイ!! なにあんたあたしと同じベッドで寝てるのよ!!」 「仕方ねえじゃんか。ここベッド一つなんだから。いいって言っただろ?だいたいリナ、酒飲んでさっさと寝るなよ。」 そう、ガウリイはいった。ものすんっごく不満そうな顔で。 目を見ると、あんまし寝てないような目つきをしている。 「うーんと、昨日の夜のことはよく覚えてないけど。」 普段のガウリイみたいなセリフだな。酒はほどほどにしよう。 「せっかくの長い夜が・・・・・」 「は?夜?」 あたしはガウリイに聞いた。 「いや。なんでもない。」 そう言ってガウリイは先にベッドを出た。あたしはもう一眠り・・・・・・・ ・・・みょーに、あったかくて、ここちいい気分だった・・・。 ううっ。階段降りると、ちょっと頭にひびくな。ひょっとして初体験二日酔いってやつか? 一階では、 ウエイター、ウエイトレスたちが店の準備でせっせと仕事している中、一人、姉ちゃんがすみっこの ほうのテーブルで剣の手入れをしていた。いつものウエイトレス姿とは違う、動きやすい戦士風の格好で。 「あ。おはよ。リナ。あたしちょっとお城まで出かけてくるわよ。」 「どうしたの?姉ちゃん。」 「さっき、エリザベートの使いが来てね。事件がおこったらしいのよ。」 「事件?」 「そう。昨日の夜、霊廟から死体が起き出して暴れたんだってさ。はなれた外からネクロマンシーで 操られたらしいんだけど。死体はすぐ、女王を警護する魔道騎士によって倒されたわ。なかなか 高度な術のようでてまどったようだけどね。でもその死体が厄介でね。あの王子なのよ。」 「王子って、フェリペ王子!?」 「そう。昔、お家騒動があったのは知ってるでしょ。王宮内でもその時の争いをひきずってる 派閥があってね。争いに火がつきかねないわ。だからあたしがその前に、エリザベートのそばについて押さえに行くの。 ゼフィーリアにとって、あの事件にふれるのはヤバイのよ。昔の、その事件とかかわってるのか、誰が何の目的でやったのかは、まださっぱりわかんないけどね。」 「ねえ、その王子は当然、もう・・・」 「きれいに、虚空に塵と消えて滅ぼされたらしいわ。そうねえ・・、やっぱりエイミーさんはつらいでしょうね。」 そういって、姉ちゃんは不気味な朝靄の中、王宮へ向かっていった。ちょうど、ヒロイックサーガにあるような、 魔が支配する冥界へ降り、冒険に行く勇者のように。 ・・・な〜んて言ったら大げさかな。なんといってもあの姉ちゃんだし。 最後はエリザベート女王と組んで力で強引に制圧するだろう。 でも・・、確かに・・ 「あまりいい天気じゃないわね。起きた時は日の光もさしてたのに・・。」 あたしは店の窓から空を見上げた。 「朝メシ食って俺たちも行こうぜ。リナ。」 後ろからガウリイが言ってきた。 「姉ちゃんの話、聞いてたの?ガウリイ。」 「ああ。聞いてはいた。全部覚えちゃいないけど。」 ・・・やっぱし。 でも、まあガウリイだし・・。 「おまえさんの魔法の先生がつらいってとこだけ覚えてる。姉さんはお城に行ったんだから、 俺たちのほうはその先生のとこ行ったほうがいいんじゃないか。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそ・・。うそよ。 が、ガウリイが自分でこの後の行動考えてるなんて・・。いやぁぁぁぁぁぁっ。そんなのガウリイじゃないぃぃぃぃぃぃぃっ。」 「あ、あのなあ・・・・・」 「冗談よ。」 「・・・・・・・・・。」 確かに。エイミー先生のところへ行って、一通り話を聞く必要はあるだろう。昔の事件に かかわった人物の一人なのだから。王宮の捜査チームは当然容疑者の一人と見るだろう。まさか息子を、と思うかもしれないが。 もちろんあたしは無実だと思う。どういう人かはよく知っている。あたしのローブをピンクに したりおかしなところはあるけれど。もしも苦しんでいるのなら、だれかが助ける必要があるのなら・・ 「あたしの仕事ね。これは。」 ゼフィーリア郊外に広がる深い森。その中を通る一本道の奥にハノーヴァー家はある。 昼なのに薄暗く、 そうとう深い。上を見上げれば、光の細い帯が通るようにしか空が見えてない。それくらいの大きな 大木がうっそうと茂っている。たまに、魔道用語で言う『地磁気』が狂っているポイントがあり、 マジックアイテムが使えなくなったり、道に迷ったりもする。そのせいかアストラルサイドも 変化があるようで低級霊やレッサーデーモン、ブラスデーモンもたまに自然発生するところもある。 自殺の名所でもある。奥で、枝に紐の輪がついていたり、時にはそこに遺体がぶらさがっていたり、 というような光景に出会ったのも何回か。 だが、そんなマイナス面ばかりでもなく、妖しいところには変な伝承もできるようで、 ここの木にカップルが名前を彫っておけば必ず結ばれるとかなんとか・・・・・・・・・腕組んで いちゃいちゃしてる男女二人組もたまにすれ違うし・・・・・・彫ってみようかな・・・・・・・・・いや。 なんでもない。気にしないで。 また、動物さんたちにとってはパラダイスなのだ。野生のかわいい小動物を観察する趣味のある 商人や貴族、動植物を研究する魔道士といった連中がたまに、ひたすら怪しい管理人兼ねた護衛つきの別荘をたてたりもする。 ハノーヴァー家はそれよりもっと奥にある。理由は簡単だ。魔道研究を盗まれないように、 またよい研究環境を求めてこの地にエイミー先生の先祖は家を建てた。魔道士には共通する、 宿命のようなものだ。それでも、地下の暗いところでねちねちと研究するよりはずっと健全かもしれない。 それからずっと代々ハノーヴァー家は皆魔道士だった。 「なあリナ。」 「どしたの?ガウリイ。」 「このへんおかしくないか?なんか静か過ぎる気がするんだがな。」 「・・・・ほんとだ。」 確かに動物の気配が全然ない。この辺を歩くとウサギやシカなんかが道を横切って走って いったりするのに、ぜんぜん静かだ。 「かと言って、何かデーモンが潜んでいるような瘴気もぜんぜんないわね。」 やがて、深い森が開け、かなり大きな邸宅―ハノーヴァー家が姿をあらわす。敷地を囲ってる わけではなく、まるで庭が森まで続いてるよう。普通、研究用の薬草を栽培してたりするものだが、 この辺は自然に取れるから必要ないのだ。壁つくらなくても防御には、この家は魔法だけで自信を持っている。 邸宅のつくりは少し古い。まあ実際古いからあたりまえだが。つたの葉っぱに覆われたりしてて 雰囲気がでている。だが、いかにも怪しげな雰囲気が出ているのはもう一つ理由があるのだが・・・ 両開きの大きな玄関のドアをたたく。だが何の返事もなし。 「なんだかあやしそうな家だな。」 ガウリイが言った。 ぎい・・・・ あたしはドアをあける。 「エイミー先生、リナでーす。入りますよー。」 あたしとガウリイは中へ入った。 ぎい・・・・ばたん!! 突然入ってきた入り口がひとりでに閉じる。入り口から漏れていた外の光がなくなり、一瞬暗くなったように感じられた。 同時にガウリイが警戒して剣に手をかける。 「何だ!?」 「ああ。大丈夫よ。ここ、先生の魔法がかってて自動になってるの。」 「・・・・・な。なんじゃそりゃ。」 ガウリイの緊張が崩れ、一瞬気まずい空気が流れた・・・・・・・。 「先生の趣味なの。」 確かに、初めて来る者にとっては、大変まぎらわしい魔法である。たまーに本当に低級霊や レッサーデーモンに出会っちゃう場所だけにもてなしは抜群(?)。 そして、あたしたちは先生の部屋に向かった。 こんこん 先生の書斎のドアをあける。 何か。 空気が、違う。 「せ、先生・・?」 そこに座っていた大魔道士エイミーは、 まるで人形のように美しく。そして冷たく、固まっていた・・・・ う、うそ・・・・・・ |
9030 | 最後の大賢者・修正版3 | R.オーナーシェフ | 2002/9/6 16:57:23 |
記事番号9028へのコメント ゆっくりと、先生が座るイスに近づく。 「先生・・・」 冷たい目は虚空をみつめたまま。 「エイミー先生!!」 冷たい、感情のない目。そこから、一瞬かすかに涙が光った。そうあたしには見えたとき、 目の焦点が定まったような気がした。はっ、と思い至り、振り向く。 「あら。リナ。それに・・ガウリイだったわね。どうしたの?」 「それはこちらのセリフですよ。どうしちゃったんですか?先生。」 「ああ・・。ちょっとした、真相意識を使った魔法をね。」 「・・そう。ならよかった。研究熱心ですね。先生。ところで、王宮で発生した事件は聞きましたか?」 「ええ。あたしにも知らせがあったわ。」 「その・・・、なんて言ったらいいか・・。」 ガウリイが言った。 「大丈夫よ。あたしの息子は、もう、ずっと昔に亡くなってるんだから。」 自分に言い聞かせるように・・強く・・。 ・・それとも、冷たい人形がひとりでにしゃべるような、女優の演技にも見えるか・・・・。ちょっと表情が読み取れない。 でも、先生がそう言うのなら。 「強いわね。先生。ほっとしたわ。」 「あたりまえよ。ずっとあたしの元で勉強したリナならわかるでしょ。」 「そうですね。」 緊迫していた空気が緩む。落ち着いて、何年かぶりにこの先生の部屋を見るけど・・・。 なんだかなあ・・。 「ぴ、ピンク・・・なんだな。この部屋・・。」 ガウリイも気が緩んだか、いまさらのように言う。 そうなのだ。この部屋はピンク色を基調とした、3才児のオママゴト部屋。いや、違うけど。 まるでそういう感じ。女の子向けのストーリーのヒロインの部屋はだいたいこんな感じか。 その中に、難解で厚い魔道書をずらりとおさめた本棚やそれなりに落ち着いた造りの机が自然に 溶け込んでしまうのだから不思議だ。さすがは近代の五大賢者。いや、関係ないけどさ。 でも、やっぱあたしはなじめない。数年間通ったところだけど。リビングメイルが並び、薄暗い ライティングの照らす重厚な造りの廊下から扉開けたら、いきなりこうだもんなあ。 先生に聞くと、いい年した熟女が「だってあたし女の子だもん」などとぬかす。あまり表情は多くない、 静かな方だが、あたしにフリルのついた、どピンクのローブを与えるような人だし。 でも、二階のここの窓から広がる森を眺めると、地下の暗いところで研究するよりもいいアイデアが浮かぶかもしれない。 「さて、本題に移りますけど、先生。フェリペ王子の永の眠りの邪魔をした不届き者に心当たりは?」 「そうね・・・・、あたしも容疑者の一人になっちゃうわけね。」 平然と。先生は言いきった。 「心当たりと言うと・・犯人は、昔の事件の関係者か、昔の事件とゼフィーリアの内情をよく知り、 ゼフィーリアを混乱させることによって何かの得をする者。そして高度なネクロマンシーの腕前を持つ者。 あたしが聞いた知らせでは、操られたあの子の体はゾンビではなく生前そのままで滑らかに動き、 当時を知るビリエール将軍に言わせれば剣の腕もそのままだったらしいわ。」 かなり高度なネクロマンシーを使うあたしの知り合いに、しゃべるゾンビやディープキスかまし、 アドリブもできるゾンビをつくるねーちゃんがいる。常識で考えて相当高度だ。だが今回はもっとレベルが高い。 そもそもネクロマンシーだったのか。魔族がからんでいる可能性も当然否定できない。 「ネクロマンシーなら、あたしもできるのよね。白、黒、精霊、攻撃系でも呪術系でも一通り研究してるからね。 動機もあるわ。今の女王は個人的に評価してるけど、王室、ゼフィーリア自身は、はっきり言って恨んでるし。 国のためにあの子が死んだことに変わりはないからね。」 「あのー、先生・・・」 「あたしはずっとここにいたけど、一人だったし。アリバイ証明できないわね。実際離れたここから でもいくらだって魔法でできるし。王宮の保安体制の魔道にかかわる部分はあたしも担当してるからごまかせるもんね。」 「先生・・・。自分で追い込んじゃってるじゃないですか。」 「そーねー。」 一時の静寂。 『・・・いやー、はっはっはっは。』 BYそこにいた三人。 「って、笑ってごまかすなぁぁぁぁぁぁっ。せぇぇぇぇぇっかくあたしが弁護して真相解明するつもりで来たのに。」 「へえー。リナが?報酬無しで?」 先生は何か面白いものを見るような目で言った。 「ええ。それだけの価値があります。あたしには。」 まっすぐに。視線を外さずに言い返す。 「そう。うれしいこと言ってくれるわね・・・。」 先生は言った。少し、うつむきかげんで。視線を机に落としながら、でもその目は、昔の通りの意思の強く、 けど、やさしい目。あたしの知っているエイミー・ハノーヴァー。 やっと表情が読み取れ、あたしは、ほっとした。 「一言だけ。あたしは、やってないわ。」 「信じますよ。俺たちは。」 あたしの頭をわしゃわしゃなでながら、まるであたしの心を読んだかのようにガウリイが言った。 それに合わせ、あたしは無言でうなずく。 やがて、あたしたちはハノーヴァー家をあとにした。 ゾクッ 『!?』 同時にあたしたちは振り返った。今の、何? なんとも言えない悪寒。前にも何度か感じたことあるような・・・ その時に起きたことは・・・シャブラニグドゥ復活。 でも少し違う。そんな気がする。 「リナ。周りに注意しろ。」 ガウリイが言った。 刹那 木の影から、ささっと飛び出してくるもの。 「り、リス・・ね。」 木の実をかじり、口とほおと手を早く動かしながら、道の真中でちょこんとこちらを不思議そうに見つめる。 プチ グチグチグチ 『なっ?』 突然木の実かじっていた口の動きがとまり・・、背中からなにかがふくれあがる。 レッサーデーモン化!? 「くっ。かわいそうだが仕方ないか。」 ガウリイが剣に手をかけた。 ハノーヴァー家に一度戻って先生の様子を確かめたほうがいいんじゃないか。デーモンをあっさり倒した後、ガウリイはそう言ったが、あたしは事件の捜査を急ぐことにした。そうしたほうがいいような気がしたからだ。 デーモンが現れるとき、術者か魔族が普通はどこかにいる。でも元々あそこの森は自然に発生する 場合もある地点だし、何か、別の変化が起きた可能性だってある。 ゼフィール・シティーの中央通りから王宮の門を抜け、すぐに右折すると宮内大臣のオフィスがある。 そこの受け付けカウンターにあたしたちはいた。王宮関係者と、なぜか姉ちゃん以外の外部の者が 王宮に用がある時は、特別に招待された場合を除き、ここを通らなければならない。もっとも、 あたしの場合、今の女王と知り合いなのでチェックはすんなり通ってしまうが。 「女王警護の魔道騎士、‘イエロー’のジュリアに会いたいんだけど。」 「ジュリア隊長は今多忙で面会は難しいかと・・」 若い、メガネかけた真面目そうなあんちゃんが言う。 「今は姉ちゃんもエリザベートの側にいるんでしょ?一人抜けたってどうってことないじゃん。 『リナ・インバースが会いに来てる』ってジュリアに一言伝えてくれりゃあいいのよ。そうすればあの女はすっ飛んでくるから。」 ジュリアというのは、あたしが魔道士協会で勉強してたときの同期である。導師(マスター)一人に 見習い魔道士がそれぞれ一人づつ付くのだが、誰が評議長で『近代の五大賢者』のエイミーにつくのか、ちょっと競争になっていた。 一番執念を燃やしていたのがジュリア。だが結局あたしに決まり、それ以来、ずっと向こうは、 まるで露出度高い某女魔道士のようにライバル心を燃やしている。まあまあ頭もいいし、一流と言ってもいい。 ナーガと違い、少しは役に立つ。あくまで、少しは、だが。とりあえず当時の魔道の試合では あたしの5勝0敗である。所詮はNo.2の秀才でしかない。だから、例えば、細かいテクニックは 高度なものを持っていても、実戦の極限的な状況で・・・・・・・・ 刹那、あたしは考えるより早く、かすかに足をずらす。次の瞬間、微妙に移動した頭のわきを、 多少魔力をかけてあるレイピアが後ろから、あたしの髪を2、3本切りながら突き出た。ちっ、という舌打ちが聞こえる。 「ふっ。さすがね。‘ピンク’のリナ。」 極限的な状況で・・・・・・・・殺気が出てしまうのである。生死をかけた戦いでは致命となりかねない 部分だが、隊長やってるところみると、リーダーシップはそれなりに持っていたようだ。 「ローリング・エルボー。」 「ぐはっ。」 回転し、後ろにいた彼女の首に肘撃ちをたたきこむ。ふらっと倒れかける彼女の胴を流れるように抱えあげ、 「エメラルド・フロウジョン!」 まっさかさまに後頭部を地面に撃ちつけた。カウント・スリー。ゴングの音と歓声が頭の中で響く。 No.2の秀才は、所詮、天才たるこのあたしの敵ではないということだ。 まあ、いまのはあまり魔道と関係ないけど。 「な、な、何するのよ。リナ!」 しばらくすぎて、頭を押さえながら言った。 「だって、王宮の中って魔法禁止じゃん。剣か肉弾戦しかないでしょうが。」 「そういう意味じゃなくてさあ・・・、ピンクって言ったの、根に持ってるわね・・。」 「いいえ。『おひさしぶり』の挨拶の代わりよ。ジュリア。あたしが来たとたん、ほんとに すっ飛んできたわね。ねえジュリア、あたし頼みがあって来たんだけど・・。」 頭を押さえ、なんとかふらふらっと立ち上がりつつ、 「事件の捜査はトップ・シークレット。部外者はだめよ。」 「まだなんも言ってねーっつーの。ねえ、公文書館に案内してほしいんだけど。」 王宮内にある、でっけー図書館。その奥に普段は閉じられ、魔法の封印がかかっている扉がある。 ゼフィーリアの歴史の表と裏すべてが保存されている場所だ。変な呪術系の魔法がけられ、 読んだだけで生死にかかわるという古代神話の記された本とか、クレアバイブルの写本の内容の 口伝の、さらにその調査資料(くどいけど。写本が簡単にあるわけないでしょ。)、 スイーフィード・ナイト転生の追跡記録などが管理されている。 「だめに決まってるでしょ。」 「昔、エイミー先生通して魔道研究のために一緒に入ったところでしょ。お互い、いろいろいたずらした仲じゃない。 落書きしたり紙飛行機にしたり、ジュリアなんかやりすぎて魔道書に封印されてた魔物復活させちゃったじゃない。」 そのとき、ジュリアの後から人影が接近し、首根っこをひょいっとつかみあげた。 「へえ。あたしが即位する前のあの騒ぎの犯人ってあんただったんだ。」 「じょ、女王陛下!!」 「あたしのガードの仕事ほったらかして何やってるかな。あんたは。」 やや離れた奥のドアで、他の魔道騎士はあきれ、一緒にいた姉ちゃんは、やれやれと腕を組んでいた。 カウンターのメガネ君は展開についていけず目は点、口をぱくぱく。 今近づいたエリザベートは気配まったくなし。あたしの隣でみていたガウリイ少し額に汗を浮かべ不意を疲れた視線を送る。 女王サマ、あんたってガードの必要あるんかいな・・・・・・・ 「ま、いいわ。リナ、ついてらっしゃい。あたしがみずからあそこの扉開けてあげるから。」 「いいんですか!?陛下!」 ジュリアが驚く。 「あたしも用があるしね。昔の、例の事件調べるんでしょ?リナ。」 少し、カビの匂いのする書棚の列をぬける。やがて現れる、かなり大きい扉。フィルさんも 通過してまだ余裕がある。オリハルコン製の、‘装甲’といってもいいくらい厚く重い扉の取っ手を女王は握った。 一瞬それが光る。ぶつぶつと呪文を唱え、やがてひとりでにぎぎぎーっと開いていった。 鍵じゃなくてこういう仕掛けにしないと、鍵あけの呪文でやられる場合もあるからね。 あれは使える人そんなにいないけど。ここは、場所が場所だし。 見た目は図書館とそれほど違わない。違うのは・・・・お化けがウヨウヨいること。 「うっとーしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」 姉ちゃんが気合一発。ただ、それだけで、いっぱい浮かんでいた半透明のものが消滅した。 「なんせここの資料は古いからね。たまにこうなっちゃうのよねえ。さてと・・」 そう、女王は言ってあたしたちを先導した。それほど歩かず、すぐついた比較的最近の新しい公文書のコーナー。 「この辺はまだ表に出したらヤバイ、非公開のものばっかしだからね。中身ベラベラしゃべったらそっこーブタ箱行きだから。オッケー?」 あたしとガウリイはうなずいた。 フェリペ王子に関するものや例の事件がおきた年の資料を取りだし、 そなえてあったデスクで調べ出した。 実は王宮の捜査チームの指揮を任されていたジュリアも。あたしにここを見せたがらなかったのは、手柄横取りされたくなかったからか? ガウリイは・・・・・・・・・・・・・・・もっちろん。見てるだけ♪ やっぱガウリイはこうでないと。 |
9031 | 最後の大賢者・修正版4 | R.オーナーシェフ | 2002/9/6 17:00:19 |
記事番号9028へのコメント スッと、ガウリイがあたしの髪をなでた。 「大丈夫か?リナ。」 「・・う、うん・・。」 外に出て、王宮の中の庭園で、木のかげでガウリイとよりかかり、あたしは空中をみつめていた。 ショックが大きかったようだ。しばらく、思考が働かなかった。 魔道士や戦士にとって、衝撃的な状況に遭遇した時ショックを受けて行動がにぶるのは あまり誉められたものではない。感情を心の奥にしまいこみ理性で行動するのだ。 でも、それ以上にショックが大きかった。おそらく、当時だけでなく、今回の事件も一 通り読めてしまったからだ。エイミー先生が今どういう状態なのかも。まだ想像でしかな いが。多分、それほど推理の必要はなかった。単純な筋書きだ。しかし、単純だが、やっかいだ。 空中を見つめていた視界の中にだんだん周囲のものが入っきて、ゆっくり脳が働き出す。 「何が書いてあったんだ?」 「それは・・・・」 人間と高位魔族。そのキャパシティの差はどうしようもない。だが、それでも対峙しな ければならない時がある。あたしもそうだった。敵対する魔族や、ドラゴン・エルフ族にも、その行動は無謀に映るようだ。 それでも、人間は知恵を絞りなんとかしようとする。 フェリペ王子は海将軍と対決しようとした。王位を継ぐ弟のため。ゼフィーリアのため。天下国家のため。人間のため。 だが、王子は、実は最初から死を覚悟していた。いや、計算していたと言ったほうがい いかもしれない。直接対決で高位魔族に勝利するのは無理。そう判断した王子は自分が戦 い死ぬことによって、人間社会のなかに溶け込んでいた海将軍の存在を公(おおやけ)に しようとした。そうなれば、降魔戦争で竜族・エルフと共に冥神官・将軍を滅ぼした精強 ゼフィーリア騎士団が最前線に出てくる。 魔族は負けはしないまでも楽な戦いはできない。またゼフィーリアと直接対決すれば、 ゼフィーリアだけが持っている竜族とのつきあい関係により竜王までからんでくる。神と魔の力の均衡が崩れかねないのだ。 結果、海将軍はカタートに退くだろう。 だが、王子の母親エイミー・ハノーヴァーはその自己犠牲を許さなかった。息子には生きて欲しい。当然間に割って入った。 そして普通に戦っては勝てない相手にエイミーは、伝説の大魔道士たる彼女にしかできない究極ともいえる魔法を放った。 「そうか・・・・・。エイミーさんがそういう行動とった気持ちは、俺はわかるな。」 そう語るガウリイに視線を向けた。目と目が合う。 ・・・・ああ。そうか・・・・・・・。こういう、気持ちだったんだ。きっと・・・・・ だから・・・、あんな危なすぎる魔法を放ったのか・・・・。あたしは少し安心した。エ イミー先生や王子達の心がわかった気がしたから。そして、今、この男も同じ気持ちであたしを見ていてくれる・・・・・。 「しばらく休めよ。リナ。」 「うん。」 あたしの肩をガウリイはよせて、身を任せ、よりかかった。 目を閉じる。 先生のセリフを思い出す。自分の心の支えになる信頼できる人。 今隣にガウリイがいる。ふれている肩、うで、ほおからガウリイのぬくもりが伝わってくる。今は、ただ、それだけ・・・・・・・・・。 「ね、ガウリイ。しばらく、このまま・・・・・・・・・」 「仲がよろしいですね。」 突然二人で寄りかかっていた木の反対側がしゃべった。くっついていたあたしたちはあわ てて離れ、自分で分かるくらい顔を真っ赤にしながらその正体を確かめた。 『ぜ、ぜ、ゼロス!!』 「いやあ。また会いましたね。リナさん。ガウリイさん。」 「こんなところに何しに来たのよ。」 「それはひ・・」 「秘密なんだな。」 そうガウリイに言われて、指を立てたままゼロスは硬直した。 静寂が流れ、魔族のはずの彼が冷や汗を流す。 うーみゅ。いつみてもなかなかの演技。どっかの劇団に売り飛ばせたら金になるだろうに・・。 やがて、なんとか声をしぼりだす。 「ま、まあ・・、あななたちやゼフィーリアをどうにかしようというためではありません から。ちょっと、このへんにいるって聞いてきた方に伝言をあずかってましてね。」 「赤の竜神の騎士ルナ・インバース?」 「い、いえいえ。あの方には頭を三回、右肩八回、胴を二回斬り飛ばされてますからね。このへんで滅びては仕事に支障がでるので。」 『・・・・・・そ、そうなんだ・・・・・・・・・』 驚いた・・。 「あんたが用があるんだから魔族がらみよね。昔ゼフィーリアを襲った海将軍の関係者?」 「・・・・・そ、それじゃ僕はこの辺で。」 そういって、いつものようにアストラルに消えていった。 「うーん・・。ま。ちょっとヒントにはなったかしらね」 「そうなのか?今ので?」 「ゼロスはこのへんいいるっていうやつに用があったんでしょ。正門抜けてすぐ広場のこ こはね。王宮のアストラル監視網の境界線あたりのはずなのよ。多分、このへんのどこか で人間の姿している魔族がタイミングを計って何かしかけるつもりなんじゃないかしら。」 ゼロスは、かかわってるわけじゃないらしい。魔族は、また何かこんらんしているのか。 やがて。ただ、まっすぐに正門から彼女は来た。 大賢者エイミー・ハノーヴァー。 あたしたちは木陰から立ち上がった。 「エイミー先生。どちらまで?」 一瞬、心が動揺する。だがあたしは必死でおさえこんだ。 ふふっと、エイミーが冷たく笑う。 「さあてね。」 目の前で。 スッと、彼女は消えた。 魔族と同じ。アストラルサイドへの移動。 「やっぱり・・。」 かすかに、右目から暖かいものが一滴こぼれた。 「リナ。」 ガウリイがあたしの肩をポンとたたく。 「あたしの一生が終わる時、あなたがみとってくれないかしら。できることなら、あたしがあたしでいられる間に・・・・・・・・・」 先生のセリフが頭に浮かぶ。 分かったわ。先生。 お願い。まだ‘エイミー先生’の意識が残っていて! 「行くわよガウリイ。」 「どこへ?」 それは一ヶ所しかない。昔、海将軍は最終的に何を目的としたか。 ガウリイの手を取り、あたしは走り出そうとした。が・・、 「あれ?ビリエール将軍!」 「よう。リナ、ガウリイ。」 「どうしたの?」 「陛下がな。俺も出るはずだった会議を突然キャンセルしたから戻ってきたんだが・・・・・あの事件で動きがあったのか?」 「そうよ。将軍も来て!」 廊下を走り抜け、一番奥の女王陛下の謁見の間。その両開きのでかい扉の前にぶちあた る。将軍は、細身の割に意外と太い腕に力をこめ一気に扉を開いた。 「ご無事ですか!?陛下!!」 「落ち着きなさい。何あわててんのよ。」 25歳の華奢なお嬢さんがとても大きく見える。動かず、ただ玉座に腰掛け、まっすぐ前を見ていた。 側に立ってるのは姉ちゃんとジュリア。 「他の魔道騎士たちは?」 あたしはエリザベート女王に聞いた。 「あたしが指定したポイントで待機。異変が発生し次第、臨機応変に対処せよ。こう命令 しておいたわ。普通、騎士団は指揮官に従い集団で動くものだけど、あいつらは別だから。 自分の判断で、孤立しても戦い抜ける奴ばかりだからね。ここ以外も心配だしね。中枢に置くのは、ごく少数の精鋭だけでいい。」 日がやや、傾く。 ゼフィーリア創世神話に登場する偉人たちを描いたステンドグラスから、オレンジががった日の光がさしこんできた。 かすかに。 日の光がゆれたような気がした。 数秒が永遠とも思える一瞬が過ぎる。 「ぐっ。ぐはあっ。あ。ううううっ。」 『なっ!?』 いきなりの出来事に全員が玉座を振り向いた。突然エリザベートが苦しみ出したのだ。何 が起きたのか。皆声を出せなかった。両腕が。首筋が。胸が。下腹部が。蠢き、変化しようとしている。 ジャッ 右腕の皮膚が盛り上がり、それは飛び出た。 「へ、へ、蛇!?肉の蛇!?」 ジュリアが叫ぶ。 まさか・・。屍肉呪法(ラウグヌト・ルシャブナ)!? 「ふふっ。こういう手で来るとはね。思いつかなかったわ。」 必死でこらえながらも、そのエリザベートの目は不敵な視線をまっすぐ前に送っていた。 少しは慌てろよ。あんた。 飛び出た蛇が、出てきた元の体の首筋めがけて食らいつこうとする。その瞬間。 「はあああああああああああっ。」 いつのまに、赤竜剣を発動させた姉ちゃんが玉座の前の虚空を斬り裂いた。その閃光から 激しい‘波’が周囲の空間を恐怖で震え上がらせるかのようにつたわり、玉座の間の視界 がゆらぐ。アストラルサイドそのものを叩き斬ったらしい。同時に。首筋へ食らいつこう としていた肉の蛇が霧のように蒸発していった。 「屍肉呪法が無力化されたのは始めての経験だわ。」 それは扉の向こうから聞こえてきた。染み透るように、扉をあけることなく、こちらに姿を現す。 黒く、流れるような長髪。スカートが床スレスレまで長いドレス。あたしの知ってる顔だ。 「あら。また会ったわね。お二人さん。ごきげんよう。リナ・インバース、ガウリイ・ガブリエフ。」 「ええっと、誰だっけ?」 「っもう!あんたは!!ったく、パターン通りなんだから。サイラーグで。ルークと戦っ た時に。会ったでしょ!?もう一人金髪のやつがいたけど。あいつはねえ、ディー・・」 「海王(ディープ・シー)ダルフィン。」 あたし達を遮るように姉ちゃんが前に出た。 ・・え?知ってるのか?姉ちゃん。 「千年ぶり、ってとこかしら。前世を覚えてるわけじゃないけど、なんとなく分かるわ。 たしにボコボコにされて逃げていった海豚野郎。」 千年ぶり・・?そういうことか。 「あたしはよーく記憶に残っているわよ。水竜王を助けられなかった負け犬スイーフィード・ナイト。」 「屍肉呪法っていうの?あれ。あいかわらず魔族っていうのは趣味悪いわね。」 「ああ。あれね。ちょっと試したのよ。ここの王宮ご自慢のアストラル監視網を、作った 本人がうまく止めてくれたかな、ってね。どうやらやってくれたらしいわ。」 「それってまさか、エイミー先生!?」 「そう。確か、あの人間の女ってそういう名前だったわね。」 そう言って、ダルフィンはゆっくり前に進み始めた。進みながら、姿を変えていく。黒い 長髪が、ボーイッシュなショートカットのブロンドへ・・。‘永遠の女王(エターナルクイーン)’の姿へと。 「これで、あたしが何やりたいか。だいたい分かったでしょ。結構単純な理由なのよね。」 ‘本物の’エターナルクイーン、エリザベートが玉座からゆっくり立ち上がった。 「勅令百二十四号を限定解除する。魔法使ってよし。」 『Yes、Your Majesty(女王陛下)!』 あたしたちは同時に答えた。 「あたしはいつも使わないんだけどね。」 姉ちゃんが笑う。本気を出せる相手が出てきたからか。 一瞬、ダルフィンが目を瞬く。何か、空気が変わった。 「いない!!陛下がいない!!」 ジュリアが叫んだ。 「魔族の結界で陛下をのぞき俺達を閉じ込めたか。」 ビリエール将軍が言った。やはり、この百戦錬磨のじっちゃんは魔族との戦いも経験あるらしい。 「これで、あなたたちの女王様には手が届かなくなったわね。後はあたしの部下がやってくれるわ。」 ダルフィンはそう言うと指をパチンと鳴らす。それに呼び出され、虚空から人・・・の、 形をした魔族が四体姿を現した。それぞれビリエール将軍とジュリア、あたしとガウリイをマークする。 自分は、姉ちゃんとの戦いに専念するつもりのようだ。 「うまい作戦を考えたつもりか?魔族よ。」 「いきがるな。人間風情。」 ビリエール将軍にダルフィンが答えた。 「違うわよ。将軍が言うとしたのは。」 やや、うつむきかげん、だったか。あたしは心の中で自分を強く支えながら、言葉を搾り出した。 「エリザベートは、即位前は、明るくて情け深いやつだったけど、今、世間であの若さで 名君と呼ばれている彼女が王宮の奥を知る将軍や大臣、ロードたちはどういうイメージ持 ってると思う?それはね、『冷酷非情』よ。女王になってからエリザベートはそういう仮面をつけているのよ。 なぜエイミー先生を側近として置いていたか。先生の中に何がいるか、気がついていた からよ。あえて、そばに置き監視してた。それはエイミー先生自身も分かっていた。 ダルフィン。あんたは、確実に抹殺するため女王を孤立させたつもりのようだけど、冷 酷非情な、ゼフィーリアで最も恐ろしい女を結界の外に解き放ったのよ。 彼女は、騎士団に号令をかけて迎撃し、滅ぼすわ。あんたの切り札『海将軍エイミー・ハノーヴァー』を。 そして、あんたの誤算はもう一つ。」 「何だと?」 「あたしが今まで魔族とどう戦ってきたか知ってるでしょうに。誤算とは、あたしは魔族の結界を破れるってことよ!!」 それが戦闘の合図だった。 ビリエール将軍が唱えておいたラ・ティルトを片手で直接、張り手を叩き込むように放 つ。ジュリアがダイナスト・ブレスで氷付けにしたところへアストラル・バインで斬りこむ。姉ちゃんが眼力で海王を釘付けにする。 ガウリイが斬妖剣を抜き、あたしをカバーする。中級魔族がふたりがかりで迫ってくる ところをガウリイは居合抜きでまとめて胴を一閃。もちろんこれで滅びるわけないが、威嚇にはなった。 ルークとの戦いでつかってしまった魔血玉。一応残ってる欠片は持ってるのだが・・・ お願い。発動して。 あたしは呪文を唱え始めた。 四界の闇をすべる王 汝の欠片の縁に従い 汝の力すべてもて 我にさらなる力を与えよ 悪夢の王の一欠けよ 世界のいましめ解き放たれし 凍れる黒きうつろの刃よ 我が身 我が力となりて 共に滅びの道を歩まん 神々の魂すらも打ち砕き 「いって来い!リナ!」 姉ちゃんが叫ぶ。 ガウリイと視線が重なる。 いっしょに来て。 ああ。 声に出さないのに。通じた気がした。 「神滅斬!!」 すぐそばの壁へ向かって。闇の刃をまっすぐ振り下ろし、時空ごと叩き斬る。 なんの手応えもなくあっさりひらいた大穴に、あたしはガウリイの手を取りとびこんだ。 エイミー先生のもとへ。 |
9032 | 最後の大賢者・修正版5 | R.オーナーシェフ | 2002/9/6 17:02:20 |
記事番号9028へのコメント 空間が変なふうに曲がったか。飛び込んだのとは逆の方向に。つまり、元の玉座の間に。 壁の位置に神滅斬で空間を斬り裂いた穴からあたしたちは飛び出た。誰もいない。シーンとしてる。 魔族の結界からうまく脱出できたようだ。この玉座の間と紙一重ずれた空間で姉ちゃんたちは魔族と戦ってるはずである。 誰もいない玉座の間で変わってるところが一つ。玉座の後ろの、ゼフィーリア王家の紋 章が描かれた壁に入り口が開いていることだ。王家やロードの城でおなじみの緊急時の抜け穴らしい。 「いくぞ。リナ。」 「待って。ガウリイ。」 あたしの手を取り抜け穴に飛び込もうとしたガウリイを止めた。 「ここの抜け穴はエイミー先生も知ってるわ。このゼフィーリアで王室とつながりがあり、 長く生きてる人だからね。だから、エリザベートは何か裏をかくはずよ。」 刹那 ズドォォォォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・・・・・・ 「何!?」 あたしは玉座の間のステンドグラスにかけより、近くの椅子で叩き割った。古い伝説に ある初代赤の竜神の騎士の姿が粉々になる。ごめん姉ちゃん許して。ちょっと、日ごろの恨みがこもってたりして・・・・。 広い王宮敷地の、柵で囲まれながら郊外の森まで続く裏庭園。その地面から凄まじい炎がふきだしていた。 「あれは・・、バースト・フレアの炎!」 火炎系でブラスト・ボムにつぐ威力を持つ精霊呪文。それも普通よりかなり大きい。そう とうな魔力キャパシティだ。放ったのはエリザベート?それともエイミー先生? 「いくわよガウリイ!」 あたしはガウリイの手を取り割った窓から飛び出した。 「レイウィング!」 燃え上がる木々。噴出すバーストフレアの周囲の地面が溶岩と化す。そのあたり一帯に は騎士団が終結していた。風の結界を解き、降り立ったそばにいた顔見知りの隊長に声をかける。 「状況は!?」 「わからん。陛下から、レグルス盤で非常召集をかけられたのだが・・。」 その瞬間、炎の中に飛び出してくる人影! バーストフレアの炎を振り切り、風の結界をまとって高く舞い上がる戦いの女神。そう 見間違えるように、エターナルクイーン・エリザベートは現れた。 風の結界の中で、彼女は手信号で命令を伝える。 「『ここの地下に通じてる抜け穴の中に、高位魔族がいる。殲滅せよ。』だと!? ロイヤル・オーダー承った。ゼフィーリア騎士団前へ!!」 隊長が号令をかけ、一瞬で陣形を整える。目標は、炎の噴出す地下! 「放てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 その瞬間、黒魔法、精神系精霊魔法の攻撃呪文の豪雨のような光が一気に集中し輝きを放った。 炎は勢いで吹き消され、刹那の時が過ぎた後、奥が闇で見えない大きな穴が出現した。隊長が手の合図で『退け』の命令を出す。 同時。その穴を四方から取り囲むように、大木や塔、城の屋根に人影が立つ。騎士団の 制服の上から魔道士のマントや護符などをつけたエリザベート直轄の魔道騎士。少し前、 あたしたちが覇王軍やルークと戦った時に異常に発生したレッサー、ブラスデーモンの群 れの討伐に姉ちゃんと出撃した精鋭である。その四人は印を結び口からカオスワーズをつむぎ始めた。 「・・・!?」 その時、あたしは背筋にゾクゾクっと寒いものを感じた。 いる。この下に。平然と。“エイミー”が。 魔道騎士たちの呪文が完成した。四人が一斉に放つ。 『ラ・ティルト!!』 今まで見たこと無いくらいの大きな光柱が出現する。 だが・・、 その中心にじっとしている人影。 「え、エイミー先生・・」 かすかに、笑みをうかべたような気がした。 ・・・・・・・・・はっ! 「全員伏せて!!」 あわてて、そう叫んだあたしと魔道騎士と、着地したエリザベートは防御呪文を唱え始めた。 そこに高位魔族の放つ衝撃波が襲う!! 「いないぞ。誰も。」 ガウリイが穴の中をのぞいた。 さそっているのか・・ 「隊長。ここは一度退いて。警戒しつつ他の魔族を捜索し遊撃的に攻撃。常に複数で。かつ、一箇所に固まらないように。」 エリザベートはそう言って、四人の魔道騎士のみを残した。高位魔族が相手なら、一歩間 違うと全滅しかねない。上手いやり方だ。あたしが彼女の立場でも同じ命令を出すだろう。 「行くわよ。」 女王にかまわず指示するあたし。ガウリイ、エリザベート、魔道騎士の六人は無言でうなずく。 ゼフィーリア騎士団で、狭い場所に突入し接近戦を挑む時のオーソドックスなやり方が ある。それがこれ。あたしとエリザベートは同じ呪文を唱えた。 『ライティング!!』 持続時間ゼロ。発光量最大のライティングを二発叩き込んだ。相手が視界を失った瞬間に 一気になだれ込む。特に魔族相手の時は心を無心にしなければならない。 地下に一斉に飛び降り、周囲を見回した。けど・・・・・ 「やっぱし、こういうとこって、迷路になってるのね。」 「そう。そして道順を知っているのは女王のあたしだけってわけよ。ついてきて!」 たまにねずみらしきものが走り、水がぽたりと落ちる闇の中。しばらく走り右折したところに“エイミー”はいた。 「待ってたわよ。あたしのかわいい弟子。リナ・インバース。」 「違うわよ。」 「まあ。師匠に向かってなんていう口きくの?」 魔道騎士の一人が光量をおさえたライティングをうかべた。そのかすかな光に照らされて、“エイミー”の姿が浮かび上がる。 妖艶な笑みをうかべる“エイミー”。 「そういうとぼけ方ってきらいよ。先生はそういうの言わなかったわよ。主役はあたし。 こっからが『名探偵 皆をあつめて さてと言い』っていうタイムなんだから。」 「その、名探偵さまがどんな謎解きをするのかしら。」 「別にたいした謎じゃないわ。ただ、フェリペ王子の遺体を操ったのはあなたでしょ、と 言いたかっただけ。昔、エイミー先生が魔法で自分自身の中に封印した魔族、海将軍。多 分、先生の高齢の体が衰えてきてごくたまに、あんたの意識が封印の外へ出ることがあっ たのね。そのチャンスを使って先生の知識にあるネクロマンシーの技術と己のキャパシテ ィを使い、遺体を操った。あんたは先生がよく霊廟に通っていたのを‘内側’から見てい て息子に対する、他の魔族には分からない気持ちを知っていた。だから、王子をどうにか すれば先生自身の負の感情を一気に高め、それを利用し封印を解くことができるだろうと 考えた。実行したときは先生の体は仮死状態になっていたのね。それがちょうど解けるこ ろあたしたちが訪ねたから人形のようになっていたのよ。」 「良くできたわ。さすがはあたしのかわいい弟子。」 「少しでも、その時に負の感情やわらげられればと思ったけど・・、できなかったみたいね。」 「うれしかったわよ。でも弟子を巻き込んだのがつらかったみたいね。ふふ。親子して、 悩み事を一人で背負い込むタイプなのね。最後の一手は簡単だったわ。あなたたち二人が 帰ってから、真相意識を操って息子の幻を見せてやった。そしたら拍子抜けするほどあっさり封印が解けたわ。」 「確かめたいことが、一つ。」 「何かしら?」 「今、あたしのエイミー先生はどうなってる?」 「自然状態で、あたしが封印を破った瞬間に寿命が尽きたらしいんだけどね。あたしの力で支配しながら生かしてあるわ。」 「趣味悪いぜ。相変わらず、魔族ってやつは。」 ガウリイが鋭い視線を送る。 「負の感情や、この女の知識は便利だし、この状態だと人間の魔法も使えるのよね。あたしのキャパシティとあわせればいろいろできるし。 例えば・・・・・、こういうのはどうかしら?」 そう言って、手をパチンと鳴らした。 同時。後ろに気配!あたしたちは慌てて振り向く。あたしたちを海将軍とはさむように彼らは虚空から出現した。この六人、一体・・ 「あ、あなたたち・・・・」 こういう時、いつも落ち着いているエリザベートがめずらしく一滴の汗を流した。 「知ってるの?エリザベート。」 「このあたしが、前に命令で非公開の特別法廷で裁かせ、処刑されたやつらよ。謀反騒ぎ を起こし、ゼフィーリアを裏切った貴族たち。昔、魔族と組んだフェリペ王子派の流れを受け継ぐ集団。」 あ。知ってる。確か・・・ 「生きていたころの能力は一通り使えるわ。同時に、このあたしが生み出した中級魔族で もある。どう?あなたの相手にはちょうどいいんじゃないかしら?エターナルクイーン様?」 「このあたしが動揺するとでも思った?何度でも処刑してやるわよ。」 冷酷非情の仮面をつけたこの国の女王が、魔道騎士のうち二人に持たせていた魔力バスターソード二刀を抜いた。 「リナ。ガウリイを貸してくれる?ガウリイ。騎士団に入るんでしょ?あたしの最初の仕事、受けてくれる?」 ガウリイはうなずき、魔道騎士たちに加わった。 あたしは海将軍と向かい合う。 「ついて来なさい。リナ。」 一瞬、振り返った。ガウリイが片目でウインクする。 オッケー。行ってくるわ。 魔族と一体となってしまった人間を元に戻し、楽にする方法は、それぞれが絡み合うと ころをアストラルサイドから断ち切ること。だがそれが可能な方法は人間にはない。二つ例外をのぞいて。 一つは確実に倒すこと。楽にはなれる。混沌へ沈むのだから。 もう一つは・・・・ 海将軍を追跡しながらカオスワーズをつむぎだす。怪しい空気が支配する ゼフィール・シティ。その世界自身に、気づかせず、さらに深き闇が手を伸ばす 王宮から続く地下の抜け穴を出た。日が西の地平線へ傾く。 晴れたり曇ったり、不安定な天気が続く。今は上空のほとんどを、どんよりと厚く暗い 雲が覆うが、西だけ空が顔を出していた。そこからさしこむ夕日の光が空と雲を血のよう に赤く染める。血の色を背景に、闇に支配される黒い森。その影にエイミーの姿をした海 将軍が横たわる騎士たちの中にたたずむ。胴体からひきちぎった頭部を無造作につかみ、 口から、だらだらと血を流しながら。見た目、ある程度若返っているようだ。騎士の誰か が斬ったのか、服の胸の部分が開き、谷間がみえていた。血が首筋を伝ってそこへ流れて いく。残酷な悪も、美しく魅せることがある。恐怖をともなって、人を震え上がらせながら。 血に染まった口元が冷たい笑みをこぼす。 「気に入らない顔をしているわね。なんせ復活したばかりなんでね。人間を恐怖させ、そ の感情を‘食らう’のはこれが手っ取り早いのよ。好みの色をした血と一緒に恐怖と絶望 が流れ込んでくるわ。同時に、このエイミー自身からも負の感情がわきあがってくる。自 信の内側から好物が染み出てくるのよ。魔族にとってなんという至福。とても大切に思っ ていた人間と対峙しようとしているものね。この大賢者様が、あわれなものね。息子が死 んでから、孫娘のように思っていたリナ。愛していたリナ。ふふふ。今殺してあげるわ。」 これからあたしは、師匠の一生の幕を閉じる。悲しみを深くしまいこみ、静かに、唱えていた呪文を発動させた。 重破斬。 ―大分、このリナ・インバースに興味を持ったらしいな。エイミーという人間の中から見ていてお前も気に入ったか― 「生意気な人間。自意識過剰ね。」 ―気づいているか?エターナルクイーンを殺せと海王から命令されたはずのお前が、 リナと対峙し、結局そのエイミーの思い通りになっているということに― 「なっ?」 海将軍が驚愕し、自ら負の感情を放った。 “あたし”が創造した傑作の一つ、太陽がすぅっと西の地平線に沈んでいく。闇が深ま るにつれ、できるかぎり静かに押さえていた金色のオーラが少しずつ目立ち、周囲を照らしはじめた。 周囲の土、水、空気、時間、空間も遅れて“あたし”の存在に気づき、恐れ、空気が震え上がり風となる。 その夕闇の風に、ふぁさぁっと黄金にそまった“あたし”の髪がなびいた。 ―己の母親だろうが。世界よ。母に触手を伸ばされ出現されるのが恐ろしいか?慌てるな― 海将軍がまだ生かしているエイミーという人間も驚いたようだ。 ―驚いたか。エイミー・ハノーヴァーよ。リナは師匠の前で、自分の最高の魔法を見せて 海将軍を倒し、純粋なお前の苦しまない最後を看取りたいのだそうだ。あたしは、純粋な るものを好む。このリナ・インバースは心の中にそれを持っている。たいしたものだよ。エイミー。お前の弟子は― 「な、な、なぜ、なぜ・・・」 ―不安定になっているな。海将軍。仕方ない。それだけ人間の心は意外と、特に信頼する 別の人間へ向けられた時はかなり強いものだ。世界を滅ぼすという魔族にとっての使命感 と同様にな。あたしがそう創ったのだから。お前はエイミー・ハノーヴァーによって自ら の中に封印された時点で敗北した。人間の心にさらされて魔族としての純粋さは失ってし まった。人の心に興味を持ち、利用しようと考えても、その芯の強さに驚き、純粋に魔族 にも戻りきれず、海王からは使い捨て扱い。魔竜王ガーヴと同様の運命だな。あわれな海 将軍よ。滅びを選び、この母のもとへ帰ってくるがいい― 「先生!エイミー先生!!」 あたし、リナ・インバースは急いで横たわるエイミー先生の元へ駆け寄った。 「・・・・・・あ、ああ。リナ。本当に、成長してゼフィーリアに帰ってきたわね。」 「はい。」 涙が一滴。先生のほおへ落ちた。 「知ってることはすべて教えた。何もいうことは無いわ・・・・・・いえ。一言だけ。」 ふるえる手であたしのほおをぬぐう。 「リナと過ごした時間、悪くなかったわよ。息子が亡くなった後、あなたがいたからあた しは生きてこられた。あたしは思いっきり生きた。そして、生き抜いて、ここで一生を閉 じるのよ。悲しいことじゃないわ。リナなら分かるでしょ。だから泣かないで。今のリナ にはガウリイがいるのね。彼と、幸せにね・・・・・・・・・・・」 暗く覆っていた雲が流れる。夕日を反射する、不気味な血の色は色合いをかえ、優しい 姿へ変わっていった。オレンジの淡い光の照らす舞台には二人だけ。最後の大賢者は、あ たしの腕の中で、静かに目を閉じていった。 |
9034 | 最後の大賢者・修正版6 | R.オーナーシェフ | 2002/9/6 17:04:39 |
記事番号9028へのコメント 騒がしかった店の中が静かになっていった。いつももより早めに閉店し、掃除をするウ エイター、ウエイトレスたち。オーナーシェフは奥で明日の仕込みをする。やがてそれら も終わり、いるのは、カウンターに立つ姉ちゃんと、その前に座るあたし。 こくっ。 カクテルを一口。味を覚え、また姉ちゃんに頼んだアプリコット・フィズ。 そのグラスを眺めながら彼―ガウリイの帰りを待っていた。 魔族の襲撃を撃退してから、しばらく過ぎて近代の五大賢者の最後の生き残り、 エイミー・ハノーヴァーの“病死”が発表され、ゼフィーリアの国葬として儀式が行われた。 埋葬されたのは、荒らされたのを元通りに直したフェリペ王子廟の隣。本当は王族のみ のはずのところに入れたのはエリザベートの判断だ。 戦いも終わり、一通りの儀式その他も終わり、騎士団のメンバーとしてかりだされてい たガウリイも帰ってくるはずなのだが、何やら、寄ってくる所があるから少し遅くなるとのこと。 あー、つまんねー。何やってんだよ、あいつは。 「ねえ。姉ちゃんたちのほうは結局どうなったの?海王ダルフィンは?」 「うーん・・。いいところまでダルフィンを追い詰めたんだけどねえ・・。邪魔が入っちゃったのよね。」 「邪魔?」 「うん。獣神官ゼロスってやつがね。」 「ええ?あいつ?」 「そ。リナとも知り合いらしいわね。あのすっとこ神官ね、昔ゼフィーリアに来た海将軍 が戻らないから調べていたらしいのよ。それで一通りの事情はつかんでいたのね。フェリ ペ王子やエイミーがどう動いたか。そしてこのゼフィーリアへ魔族が攻撃すれば神と魔の 力のバランスが崩れる可能性も知った。それは獣王を通して、カタートで氷付けのあのや ろうにも伝わったらしいんだけど、魔族社会ってのは、縦割りらしいのね。海王には伝わ ってなかった。だから慌ててゼロスがそれを伝え、海王を退かせたのよ。思い出すわね。 あのダルフィンの悔しそうな表情。」 「なんか楽しそうね。姉ちゃん。負の感情で喜ぶ魔族みたい・・。」 「あたしは神の欠片なんてのを持っているけど人間よ。良いことも悪いこともするわ。」 からんからん 閉店したはずのリアランサーに表から二人の客が入ってくる。いつもより閉店が早いのは、彼らが忍びで来ることになっていたからだ。 エリザベートとビリエール。 エリザベートは、女王とはぜんっぜん分からない不良少女のようなしぐさで、無造作に カウンターのイスに座った。遅れて、後ろから先走る孫娘を心配するように、やれやれと老将軍は座る。 「ねえ、ルナ。あれ。いつものやつ、出してよ。」 「あいよ。」 飲み屋のおばちゃんのような返事をした姉ちゃんは棚からキープボトルとグラスを出した。 エリザベートはなみなみとグラスに注ぎ、一気にあおる。 「ねえ、エリザベート。それって・・、今飲んだ奴・・」 「ああ。これ?ウォッカよ。90度の。」 「90度って・・。ほとんどアルコールじゃん。ストレート?」 やっぱり、おまい、人間じゃねーだろ。 「そうよ。今夜はそういう気分なのよ。」 彼女はごくりと流し込んだ。そういう、気分か・・・。 「エリザベート。あんた飲みすぎよ。この店で働くあたしとしては、もっとゆっくり味わって欲しいわね。」 「・・ううん・・・。」 姉ちゃんがエリザベートをたしなめた。応じる彼女。やや落ち着いて、もう一口を少し飲んだ。ふー、とため息をついた。 「リナ。あたしが、エイミーをそばに置きながら監視していたって言ったらしいけど・・・」 「うん。」 「その通りよ。でも、それだけじゃないわ。あの人はあたしにとっても先生だから。先々 代の王が孫のあたしにつけた、知恵と魔道の先生があの人だったのよ。その時はねえ、あ たしは王位を継ぐものだって、そんな意識が先生にあったのね。突き放されていた部分も あった。だから、その後リナの先生になったのを見てて、うらやましい気持ちもあたしに あったのかな。だから、そばにいてほしかった。 なんかねえ・・・・。年を取ってから心境に変化があったのかしらね。あたしはもっと 早く王宮に復帰してほしかったんだけどな。そしたら、あの事件だって、彼らを処刑に追 い込むずっと以前にふせげたかもしれない・・・・。今回は密かにひきずっていたのを叱られたみたいだわ・・・・。」 「気のせいですよ。いや、魔族のせいか・・。もともと政治は不完全な、限られた中で決 断を下すものです。アイツはきっと陛下をほめてます。よく、孤独なつらい決断をしたと。 “完全”はありません。いろんな重いものを背負いながら人は生きていくのです。特に君主ともなれば。」 ・・・あ。あの時の、魔王と化したルークと戦った時の、ガウリイと同じ台詞だ・・・・。王宮で怖がらずに彼女に近づくのはこのビリエールぐらいだった。 「あたしもそう思う。やすらかだったわ。最期は。」 「よかった・・。最期にそばにいたのがリナだったからかな。それでよかったのね・・・。」 また一口、口に含んだ。 謀反騒ぎを起こしたロードや大臣六名が捕らえられ、処刑された事件はあたしも覚えて る。あたしが旅に出る少し前。まだ彼女が即位して間もないころだ。明るくやさしい、姉 ちゃんのパートナー。あたしの良く知っていた王女エリザベート。だが、即位してからは 女王という立場が心の奥とは正反対のことを己の口からしゃべらせる。冷酷非情の仮面が 本当の素顔をどんどん傷つけていく。そんな素顔をあたしは知っている。 「それでねえ、剣の師匠はこちらのオヤジ。こちらのオヤジさんはねえ・・・」 「陛下、そりゃ勘弁してくれねえか。」 「酒のせいよ。しゃべっちゃうもんね。あのね。エイミーはビリエールの初恋の相手なのよ。」 「ん・・、まあ、な。王位を継ぐ前の、仲間だった先々代とエイミーを奪い合って、結局 負けたんだが・・・。それからはひたすら剣の道。失恋したからかな。腕をどんどん上げ ていって、若いくせに生意気なインバースの奴と戦場で競い合う毎日だった。もう昔の話だと思っていた・・・。」 そう、あの父ちゃんを生意気と言う老剣士は、昔の思いをバーボンで胸に流し込んだ。 「へー。ほんと、いろんな人に影響与えてるのね。今のゼフィーリアを作った女、ってと こかな。でも、いろんなかかわりの中でも、昔の苦しみをずっと一人で抱えている彼女の 心を、最後になって心開かせたのは弟子になったリナ、あなただったみたいね。」 「・・・・、そっか・・。」 「よろこんでいたわよ。あんたが、あのガウリイを連れてきて。あの人ったら、あんなの作ってんだもんね。」 「は? あんなの?」 「今に分かるって。そのうち渡すわ。」 ・・・・・・。 「ねえ、ルナ・・・・。即位した今もあたしのパートナーでしょ?今夜は飲ましてよ。」 「しょうがないわね。ほれ。」 「わお。ルナ話分かるぅ♪」 ボトルごとわたす姉ちゃん。自分もグラスを取り出して、夕日、あるいは違う角度からな ら紅葉のような色をしたブランデーを注いだ。自分のだけはとっておきらしい。さすがにあたしの姉である。 「あたしも付き合うわ。」 姉ちゃんがエリザベートに眼だけで少し微笑んでみせた。女王の仮面を外した素顔のパートナーに。 ウェイトレスと女王と。また、神の力を持つ者と普通の人間と。そんな違いは二人には 関係なかった。妖しくも見える美女二人が見つめあう。おそらくその絆は、恋愛にも負け ないのだろう。自分の心の支えになる信頼できる人、か・・・。皆、いろんな人間関係があって・・・。 アプリコット・フィズを傾けて、ゆらすとそこに浮かぶ、長い金髪の美形の男。彼が優 しくあたしに話しかけてくる気がした。ふふふ。そうよねえ。あたしたちだって、負けな いわよね。ガウリイ。いつだって二人でいるのが当たり前で、互いに無条件で信頼して命 を預けあってきた。ずっとそばにいてほしいと、望んでいる・・・・のかな。冥王と関わ り、一度彼を失いかけて、涙流したこともあったっけ・・・・・・。ねえ、ガウリイ・・・・・・・、 あんたはいったいどこでなーにやってんのよ!クラゲ!!脳みそヨーグルト!!体力オ― ガ並のくせに知力スライム並!!剣術超一流のくせにあたしがいなきゃ何もできない!! ああああああああっ。なんだかむかつく。このばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ・・・・何を考えてんだ?あたしは。 「さてと。偉大な最後の大賢者のために乾杯、と、いきたいとこだけど・・・、リナ。」 「うどわあああああっ。ね、姉ちゃん!いきなり某黄金竜のじいさんみたいに顔どアップにしないでよ。」 「んふっふっふ。肝心な人がいないわねえ。リナ。とっても大切なカレシがねえ。あんた、 さっきっから彼のことばかり考えてるでしょう? しっかり顔に書いてあるもんね。ほん と、からかうと面白いわ。あんたは。・・・・ん?噂をすればなんとやら、かな?」 からんからん 入り口からひょっこり顔出すガウリイ。 「ええっと・・。お。いた。リナ。ちょっとちょっと。」 「ん?」 後ろのひやかしを無視し、あたしはその手招きに応えて表に出た。 「綺麗な星空だな。リナ。」 「曇ってるわよ。」 「ええっと・・。ごほん。」 「・・・と。そうだ。ガウリイ。あんた、騎士団で働いてきた分給料もらったはずよね。 それ今あるの?かなりでかい事件だったし、普通より高額のはずだと思うんだけど。」 「そ、それがだな・・・・。全部、使っちまった・・・」 「な、なんですってえええええええええええええええええ!?なんつーもったいないことするのよ。あんたは。」 「値段高かったからな。これ、買ってきたんだ。もらってくれないか?リナ。」 ガウリイがふところから出した、小さなそれが夜の暗闇を明るく照らした。 「だ、ダイヤの指輪・・・・・!?」 あまりの出来事にあたしは言葉を失った。 「この、斬妖剣が見つかってから、だったかな。俺たちが一緒にいるのに理由なんていら ねえだろ、なんてセリフを言ったこともあったっけ。一緒にいるのがいつのまにか当たり 前になっちゃったんだな。おまえにそばにいるとな。なんか、こう、何かすごい事ができ そうな気がするんだ。初めて会ったときから、直感的に、お前といればこの剣が人のため に役に立つと感じてたんだ。この剣でずっとリナを守りつづけたい。リナとずっと一緒にいたいんだ。」 覚悟を決めたように、一気にまくしたてた。 「・・・・・・・一緒に・・・・・・・な、なんでよ・・・?」 心と言葉と、混乱している。自分で分かるくらいに。素直になりたいのになれない。なぜ? 「それは・・・、リナが好きだからさ。」 スッと、かすかだが光が差す。曇り空から、ほんの少し月光が覗いた。ここにいる彼とい う太陽に遠慮しているように。あたしにはそう思えた。そのあたたかな光で、癒され、全 身に染み渡っていく。自然に、力が抜け、身をあずけて抱きついた。 一言。あたしには、ほんの、一言。それで十分だった。それだけで思いは伝わってくる。心から信頼している人だから。 「・・・・それをね。その言葉をね。聞きたかったの・・・・・・。あたしもガウリイが好き。」 今まで気がつかなかった気持ちが心の奥底から踊りだす。自分がおかしくて笑っちゃうく らいに。彼に抱かれて、それは、経験したことのないとても不思議な気分だった。このぬ くもりに、いつまでも包まれていたいと思った。 「結婚してくれるか?リナ。」 「うん。ガウリイ。」 ゼフィーリア首都ゼフィール・シティへ、他国からの街道が一度終わる広場。そこから 今度は東の街道へ進路をとる。ゼフィーリアはけっこう北にある。だが、北にほうの海に は暖流が流れていて、ゼフィール・シティからこちらの田舎のほうへ行くと、だんだん気 候がかわり、深い森を抜け、なだらかな草原と少ない木々になる。天気も変わって気持ち よく晴れ、あたしにはなつかしいブドウ畑の風景と、よく釣りをした川が見えてくる。 ・・・ありゃ? あそこで釣りしているのは・・、 長い髪の男。火のついてないらしいタバコ・・・・・・そう。あれが、昔、若いくせに生意気だったという・・・ 「ああああああああああっ!とうちゃん!とうちゃぁぁぁぁぁぁん!!ただいま。天才娘のリナが帰ったわよぉぉぉぉぉぉぉぉ。」 気がつき、立ち上がるとうちゃん。 「リナ。あたしは用があるから先行ってるわよ。」 そういって何やら大きなバッグかかえた姉ちゃんと分かれ、あたしとガウリイは駆け出した。 「よう。リナ。よく帰ってきたな・・・・・・って・・・・お、お前!!」 「ん!?」 ぽかん、と口をあけて驚くガウリイ。あたしはとうちゃんとガウリイを交互に見た。知り合い!? 「久しぶりだな。ガウリイ。」 「リナのとうちゃんだったんだな。あんた。」 「まあ、そういうこった。おめー、まさか家の娘に・・・・」 「まあ・・・・、抱きしめて、ぎゅーはしたかな。」 「なに!?」 今度はとうちゃんがあたしとガウリイを交互に見た。 「お、おめーら・・・・・・・そうなのか?」 こくっと、あたしはうなずいた。 「おめーにゃやらんぞ。ガウリイ。家の娘は。」 「そ、そんな!?とうちゃん!!」 「どうする?リナ。」 とうちゃんは、まっすぐあたしを見た。 「出て行くわ。家を。」 「冗談だ。」 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい!?』 あたしとガウリイがハモる。 「こういう時、娘を持つ父親は一度断らなきゃいかんっていう法律があっただろ?」 「ないわよ!!んなもん!!」 「ちょっと言ってみたくなってな。気持ちを確かめたいっていうのもあったからな。本当 はルナから、もうとっくに連絡がきてたんだ。ガウリイ。今日からおめーは俺の息子だ。」 「ああ。親父・・って言わせてもらっていいのかな。」 「あったりめーよ。」 「ええっと・・・、ところでとうちゃん。釣り竿がもう一本あるんだけど、これは?」 「ああ。あいつまたどっか行きやがったか。ほれ、リナ。これで呼び戻せ。」 渡されたのは・・・・・ 「こ、これは犬笛!?」 ガウリイが言った。 「えっらーい。ガウリイ。覚えてたんだ。」 「まあな。あの時だろ?ほら、『リナ・インバース神教』の騒ぎのとき。」 「なんじゃあそりゃあ。おめー、変なカルト宗教でも始めたか?」 「あたしじゃないって。」 ラジオドラマ『破壊神はつらいよ』参照のこと。 「んじゃ、せーの、」 スゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・ 「きゃいーん わんわんわん あおーん って、あああああ!!お前ら!!逃げろ!!」 ガウリイが今度は呼びかけた。 「スポット。お手。」 「あおーん さささささっ。」 「お回り。」 「くるくるくるって、また同じパターンかよ!?」 ・・・・・・・・・・・・・・進歩のねえやつ・・・・・・・・・・ 「あ。かあちゃん。たっだいまーっ。」 「あら。お帰りなさい。リナ。ルナが部屋で準備してるから。さ、早く。」 「は?姉ちゃんが準備?」 あたしは階段をあがり自分の部屋へ行こうとしたが、つれていかれたのは別だった。 ドアを開け、そこに姉ちゃんがニヤニヤしながら立っていた。 「あ。ガウリイは入ってきちゃダメよ。リナだけ。」 姉ちゃんがドアを閉めた。 「何、姉ちゃん。な、何よその笑みは・・・」 「んふっふっふっふ。リナ。服脱げ。」 「え?」 「いいから脱ぎなさい!!」 「え?え?ちょっと、姉ちゃん。あ、いや。お代官様お許しを。あ、あああれえええええええええええ・・・・」 「おーい。ガウリイ。もう入ってきてもいいわよ。」 不思議な顔しながら、姉ちゃんに手を引っ張られ、ガウリイは部屋に入ってきた。 「な、何だ?・・・・って、リナ!!その格好!!」 「いや。見ないで。恥ずかしい。」 あたしの今の格好。 それは・・・・、 どピンクのウエディングドレス。エイミー先生から、姉ちゃんが預かっていたようだ。ほ んとにあの先生はあたしにピンクを着せたがる。あたしゃ着せ替え人形かっつーの。しか も、あたしの胸にあわせて、しっかりと、よせて上げるようになっているのが嬉しいような悲しいような・・。 「綺麗じゃないか。似合ってるよ。リナ。」 「ほんと?ガウリイ。」 そんなあたしたちを見て、あたしはお邪魔かな、などと姉ちゃんが部屋を静かに後にした。 「リナ。」 エイミー先生、見てるのかな。リナはガウリイと結婚しちゃいます。 抱き寄せ、あたしの唇をうばう。 ガウリイ。幸せにして・・・・・・・・・・・・・・・・ |
9112 | Re:最後の大賢者・修正版 | ブラントン | 2002/9/10 23:37:02 |
記事番号9034へのコメント 初めまして……ですよね、R.オーナーシェフ様。 『最後の大賢者』、元のも読んでいたのですが、改めて修正版、読ませていただきました。 じつは私も五大賢者ネタ(しかも同じく女性!)で話を書いていたりしまして、これはもう縁があるものとしか思えず感想をお送りさせていただく次第であります(^^;) 一応、私の方は「現代」の五大賢者なのでかろうじてかぶってなかったりするのですが―― 覇王神官やこちらでも出てきている海将軍のように、原作の設定の隙間をついて登場させるネタとしてはかなり有力なものと個人的には思っていたりする割に、実際には二次創作もので全然見た覚えがないので、すごく嬉しくなってしまいまして。 さておきまして。 その“生きている伝説”以外にも、“歴戦の勇者”や“永遠の女王”など、強力な二つ名が続々出てくるのに感心いたしました。こういう本格的な肩書きにも作品の本物志向が伺えます。(即位してそれ程たたない上まだ若いのに“永遠の女王”という二つ名がつくのは微妙に謎な気はするのですが) 他にも、原作15巻後の話であることをふまえての内容(冒頭シーン、海王との会話など)、ルオ=グラオンに関しての説明や、ピンクのリナ、ガウリイと父ちゃんの絡み、はたまたデーモン異常発生時に出撃したゼフィーリア騎士団という原作にもさらっとしか書かれていないような小ネタまでフォローしているあたりにひしひしと本格感を覚えました。じわじわ自分のツボにジャブをつかれていきましたとも。ちらっと出てくるゼロスもらしくって良かったです。 L様同様、当たり前のように二次創作で出ている郷里の姉ちゃんですが、この作品でのルナ=インバースは特に好きですー(^^) おちゃらけ感が少なく、もうあらゆる意味でリナを「超えている」人物という感じで、赤竜の剣を呼び出すところもかっこよくて! いちばんのヒットは『毒の見分け方練習用カクテル弐号』です。 さらにガウリイとの対決をバスター・ソード二刀流で止めてみせる女王陛下はさらに凛々しくて、まさに大物! というにふさわしいキャラとなっていることにも感服いたしました。 (と言っておきながらなのですが……バスター・ソードとはどのような剣なのでしょうか? バスタード・ソードなら知っているのですが……) 物語の展開ではお伺いしたいことが――えと、二つありまして…… まず、最初にリナたちがエイミーの家を訪れて彼女を発見したときのこと。 後のシーンでこのときは、海将軍が王子の死体を操ってエイミーは仮死状態だったのが解ける頃だった、と説明されていますが――ということは前日の夜から朝までずっとエイミーはその状態だったということなのでしょうか? でもそうだとなると、エイミーが事件のことを聞かされているはずはなく、「あたしにも知らせがあった」と答えることもないはずで――あと可能性として考えられるのは既にこのとき意識は海将軍のものになっていて、嘘を言ったということになり、となるとリナは見事に騙されていたことになるのでしょうか。 またリナは同じく謎解きシーンで、「少しでもその時に負の感情をやわらげられればと思ったけど・・」と言っていますが、リナが真相に気づいたのは古文書館に行ってからのはず。まだ彼女が普通の人間だと思っていたはずのその時に負の感情をどうなどという思考はできないはずと考えますが……どうなのでしょう? そちらは理詰めで考えての疑問でして、もう一つは個人的に―― リナが重破斬を使ってしまうのは、どうなんでしょう…… えと、おそらくその前で魔族と一体となった人間を元に戻す方法のもう一つというのが、金色の魔王たるL様にやってもらう、という手段であり、そのためにリナが重破斬を唱えたのでしょうが。 ということは完全版を唱えているはず。魔血玉をほとんど頼りにできない状態で完全版を唱えても制御できるはずもなく、本文中の描写から見ても、見事にL様に意識を乗っ取られているようです。 で、その後無事にL様はリナに体を返してくれたようで、そのL様の行為自体は不思議な感じはしませんが……リナがそう確信できていた根拠はどこにあるのでしょう? アニメやマンガと違い原作はL様はポカミスをして消えてしまっただけで、情けをかけてもらえているわけでもなく、リナがもう一度L様に乗っ取られた時にまた自分を取り戻せると思うだけの材料はないはずです。それなのに、いくら師匠のためとはいえ、ガウリイとも会えなくなってしまうかもしれないような危険を冒すものなのでしょうか? 非常に細かいことを伺っているのは承知しておりますが、冒頭に書きました通り今作は原作スレの枠を出ない本格志向を色濃く感じる作品だと思いますので、この部分が大変に気になって仕方ないのです。 ぜひ、ご解答いただければと思います(m_ _m) ……すみません、何だかずいぶんなこと書いていますね…… でも、ネタでの縁だけでなく、本当に自分の好みの作品でした。十分に楽しませていただきました。 それでは脈絡ないながら、これにて―― |
9150 | Re:最後の大賢者・修正版 | R.オーナーシェフ | 2002/9/12 15:10:25 |
記事番号9112へのコメント どうも。とても深く読んでいただけたようでたいへん光栄です。 いくつか質問があるようなので答えていきます。 エターナルクイーンについて。 神坂先生がさらっとしか書いてないゼフィーリアの「永遠の女王」ですが、ここでは、二つ名というより、 何かの古の伝説による称号のようなものと解釈しています。歴代の君主がそう呼ばれて、 先代がエターナルキングだったのか、彼女だけなのか、何かの印があって数百年に 一度生まれたりするのかは考えてません。若くしたのは、そのほうがかっこいいから。 強いお姉さま大好きなんです(ルナ姉ちゃんとか、他では例えば某修練闘士エレ・○グのような。 まあ、あの方の声のキャラは全部なんだが・・・)。年取らせるとエイミーと重なってしまうし。 原作に女王とあるから男にするわけにはいかないしね。 バスター・ソードについて。 ええっと・・・・。バスタード・ソードなんですか? ただ単に、みょーにでかい剣のつもりなんだけど。 間違えて覚えてたのか・・・。ごつい男がやっとかつげる剣だから、それの二刀流なんて他には絶対無いなと、 とんでもねーキャラが作れると思って書いたんです。ゼフィーリアの人間ならやりかねないなと思って。 ハノーヴァー家と謎解きのシーンについて。 「ええ。あたしにも知らせがあったわ。」 これは、あったわ、の後に、海将軍からね、と付け加えてもらいましょうか。その時はリナには伏せていたという。 「少しでも、その時に負の感情やわらげられればと思ったけど・・、できなかったみたいね。」 これはあくまで、その時に、です。あのときのやりとりで少しでも元気になってくれていたらなあ、 ということです。ハノーヴァー家のシーンで気づいていたわけじゃないです。ルーク同様、 また助けられなかったのか・・、いや、まだ・・・・・・と、最後のギガスレ発動へと行くんです。 最後に重破斬について。 発動させたのは、そのほうがかっこいいから。金色リナちゃん大好きなんです♪ ・・・ああっ、石投げないで! っていうのはあとがきのパクリだけど、ま、いいじゃん。(だめ?) うーんと、リナがなぜ大丈夫だと確信できたか、ですよね。 原作の流れだと、やはり無理があるのかな。ドラゴンボール的なパワーアップしていくストーリー に対するアンチテーゼみたいなところがあるから連打しちゃいけないし、発動するのは よほどの場合ですよね。ルークとの時もやらなかったし。でもやりたかったんだよぉ。 はっきり言って理屈だけで書いたわけじゃないんですね。設計してやると、経験上ヘタに なっちゃうんで。イメージというか、流れというか。まずギガスレ使いたいという欲望はありましたけど、 流れで、そこにたどり着いたのは、「答え」だからかな。なんていか・・・、最終巻で竜破斬やったでしょ。 「―いや― 答えは。最初から、そこにあったのだ。」と。 嫌な例えだけど、ビルから飛び降りて自殺しようとしているルーク=シャブラニグドゥの耳元に 「飛び降りちゃえ」って耳元でささやいたわけでしょ。黄昏よりも昏きもの・・・って。 そして、それが答えだったからうまくいったわけだ。この場合は 「リナと過ごした時間、悪くなかったわよ。息子が亡くなった後、あなたがいたから あたしは生きてこられた。あたしは思いっきり生きた。そして、生き抜いて、ここで一生を閉じるのよ。 悲しいことじゃないわ。リナなら分かるでしょ。だから泣かないで。今のリナにはガウリイがいるのね。 彼と、幸せにね・・・・・・・・・・・」 このエイミーの最後の台詞は、L様の意思、望みそのままだと考えて書いたんです。 あとがきで、なぜL様は魔族応援しているのか。全ての王なのに。それぞれの役割に 応じてしっかりその使命を果たせ、というのが望みだとしたら筋が通るなと考えたんです。 生まれたからにはしっかり生きて、いずれはL様の元へ帰っていく。NEXTオープニングの give a reason for life♪なわけです。リナはそれを知り抜いていた。 だから、きっと成功するという確信があった。L様の望みでもあるから。また、 この段階で自分に気がついてないけど、心の深層の部分で生への執着からくる不思議な自信、 信頼みたいなものもあった。なんってったってガウリイらぶらぶだから。あたしはこれからあの人と生きていく。 きっと同様の理由でパツキン大魔王にも伝わる、と。 最初のガウリイvs.姉ちゃんのシーンで、 リナの指輪買うために自分で稼ごうとしてたのに、いつのまにか剣士の世界へ入り込んじゃったから ビンタされたけど、それと違い、エイミーの元へリナが行くときにガウリイと視線だけで 気持ちが通じ合ってたように、エイミーを助けるのは二人の意志なんです。ようするに愛の力の重破斬なのだ!! リナの大切な人なら俺(ガウリイ)にも大切な人だ、というわけです。 それから、強引な設定で(ごめんなさい)、タリスマンは、王宮内での戦闘シーンにも書いたけど、 カケラだけ残って、少しは発動することにしちゃってます。じゃないと神滅斬とかできないし。 |