タイトル : ドラスレ! 20
投稿者 : とーる
URL : http://blacktail.blog.shinobi.jp/
投稿時間 : 2011年5月30日17時28分02秒
第二十話
ガウリイお嬢ちゃんの剣技をじっくりと見るのはこれが初めてだったが、
これほどの腕を持っているとは、思っていなかった。
何せ、はたで見ていて太刀筋が見えない。
俺も並の戦士よりは剣が使えるが、お嬢ちゃんは格が違った。
一瞬にしてゾロムの頭を断ち斬る。
「はっ!」
背後から飛ぶ銀光を見事に払い落とす。
「ほう……若いわりにはやりよるわい……」
「ああ、魔族なの……」
何事もなかったかのようなゾロムに、これまたこともなげに
お嬢ちゃんが言う。
しかし、お嬢ちゃんは状況を理解しているのだろうか?
「しかし若いの、それでこのわしを斬ることなぞできんぞ」
ゾロムの言う通りだ。
レッサー・デーモンだの半魔族ならともかく、こいつのような
純魔族はアストラル・サイドに属する存在。
それを物質で滅ぼすことは出来ない。
お嬢ちゃんが持つのは結構良い剣ではあるのだが、俺の短剣のように
護符が組みこまれているわけでもない普通の剣。
しゃーない、これは俺が少し本気を出して……。
「――斬れるわ」
あっさりとガウリイお嬢ちゃんが言う。
おいおい分かっとんのか、このお嬢ちゃんは!?
しんそこ馬鹿にした口調でゾロムが笑う。
「ほほう……ならば、斬ってみてくれるか? できるものなら、の」
「では、お言葉に甘えて」
お嬢ちゃんはなにを思ってか、剣をパチンと鞘に納め、
代わりに懐から一本の針を取り出す。
右手に持った針で、左手でささえた剣の柄をつんっと突く。
……うん?
刀身を柄に固定する、留め金のある場所である。
つまるところお嬢ちゃんは、柄と刀身を分解した――ということに?
針を懐にしまい、お嬢ちゃんは微笑む。
「――こうするんですよ。分かっていただけましたか?」
何がだ!
分かるかい、そんなもん!
しかしガウリイの落ちついた態度、よほど自信があるか、
アホのどちらかだ。
ゾロムもそう思っているのか、怪訝そうにしている。
「これで――行きますよっ!」
右手を柄にかけて、お嬢ちゃんが突っこむ!
嬢ちゃんはゾロムから現れた数十本の矢を全て避け、
間合いを一気に詰める。
すごいっ!
……って、あほかっ!
傍観を決め込んでいた俺は、慌てて呪文詠唱を始める。
「光よ!」
ガウリイお嬢ちゃんが叫ぶ。
俺は目を見張り、ゾロムが硬直する。
硬直したまま、真っ向から両断されるゾロム。
悲鳴すら上げる暇もなく、虚空に崩れ去る。
ガウリイお嬢ちゃんが持った剣――刀身を抜いたはずの剣に、
煌々と光の刃が生まれていた。
「光の……剣……」
そう――俺の目の前にあるそれは――お嬢ちゃんの右手に燦然と輝く
それは――まぎれもなく、伝説の“光の剣”だった。
お嬢ちゃんが抜いた刀身は、光の剣の鞘の役割を果たしていたのだ。
「お……お嬢ちゃん……」
やっとのことで俺は声を出すが、かなりかすれている。
お嬢ちゃんは光の剣をゆっくりと“鞘”におさめ、
静かに俺を見て、にっこりと微笑んだ。
俺は駆け出す。
全力で、お嬢ちゃんのもとへ。
彼女の前で立ち止まり、じっとその微笑みを見下ろす。
「お嬢ちゃん……」
「リナ……」
「――その剣くれっ!」
こけけっ!
ガウリイお嬢ちゃんが大げさに突っ伏す。
だが、そんなことはどーでもいい。
「なーっ、お願いっ! それくれっ! なっ! なっ! なっ!」
「あ……あのねえ……」
お嬢ちゃんは疲れたように起き上がる。
「私はまた、心配して駆け寄ってきてくるものだとばっかり思って……」
「心配は後でするから、とりあえずそれ、くれっ! ――いや、
タダでなんてあつかましーことは言わない。――五百!
五百で売ってくれ!」
「あーのーねー! 五百って、レイピア一本買えないじゃない!」
「じゃあ思いきって五百五十! 持ってけどろぼー!」
「ドロボーはリナよっ!? もう、どこの世界に“光の剣”をそんな
値段で売り渡す人がいるのよ……」
「ここの世界」
「リナ!」
何を言うか。
自分の払う金は銅貨一万でも大金である。
――やっぱ俺は、商売人の息子だ。
NEXT.
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