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    タイトル : 雨降って 地固まる(後編)
    投稿者  : 希 悠
    投稿時間 : 2010年10月1日22時54分20秒

続きです。
どのくらいの長さまで一度に投稿できるのか良く分からなかったので、2つに分けました。

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医者が去り、背後には苦しそうな息の旅の連れが寝ている。
ゼルガディスはなぜアメリアの異変に気づけなかったのかと先ほどの後悔を蒸し返していた。

なぜアメリアは自分に体調が悪いことを言わなかったのだろう。

『言えなかったのか?そんなに俺は信用できないのだろうか・・・』

自分の勝手のせいで彼女に苦しい思いをさせていることにひどくイラつく。そしてそのことについて倒れるまで相談されなかったことが腹立たしく、少なからず傷ついた。

最初は別にアメリアが何をしていようと自分に実害が加わらないのだったらかまわなかった。次第に、アメリアの面倒に巻き込まれても『しかたない助けてやろう』と思うようになった。そしていつの間にか、アメリアの姿が見えないと不安になることが増えた。

彼女の笑顔を見ていたい。怒った顔でもいい、正義に燃える顔でもいい。ただ苦しむ顔など見たくはなかった。

だから彼女が自分を必要としている時、自分が助けてやれる時にはできるだけ全力で助けてやるのだ。それが自分の主義に反していたとしても。

いつからだろう。こんなにアメリア思う心が膨れ上がってしまったのは。

宿の人間に食事を運んでもらい、ゼルガディスは一晩中アメリアの傍を離れられなかった。


翌朝、窓から差し込む陽光と鳥の鳴き声に重い瞼を開けたアメリアの目に一番に入ったのは、陽光を浴びて複雑に色を反射させる銀の塊だった。

『・・・綺麗。キラキラして、ゼルガディスさんの髪の毛みたい・・・・・・』

ぼんやりしながらその銀を眺めて、はっと気づく。
それが“みたい”ではなくゼルガディスの頭そのものだということに。

アメリアは焦ってがばっと起き上がろうとした。が、急に動いたせいか激しい頭痛が押し寄せて来て再びベッドに頭を沈めた。
無言で頭を抱えひとしきり悶絶していると、アメリアの動きを察知したのか、
ベットに突っ伏していたゼルガディスも起きた。2、3度頭を振ると、一人悶絶しているアメリアの顔を覗き込む。

「アメリア?大丈夫か。」
「ふぁい・・・。頭が割れそうに痛いですぅ・・・。(泣)」

頭を抱えたまま答えるとその手をちょっと乱暴に剥がされ、代わりに温度の低い硬いものが額に当てられたのが分かった。

「ぅむ。まだ熱は高いようだな・・・。水を飲むか?」

差し出されたカップを受け取り、ちびちびぬるくなった水で喉を潤す。自分で気づいていなかったが、相当喉が渇いていたようだ。
その様子を見たゼルガディスは、水の入った桶と水差しを持つと「ちょっと待ってろ」と言って部屋を出て行った。

ゼルガディスのいなくなった部屋ではアメリアがため息を一つ。

『うぅぅ・・・。また、ゼルガディスさんに迷惑をかけちゃった。』

雨の中、足の力が入らなくなり地面がいきなり近づいたことは覚えていた。その直後駆け寄ってきた足音と鋭い舌打ち・・・。急に高くなった視線と目の前にゆれる銀色・・・。

『今度こそ、迷惑がられて置いていかれるかも・・・。あんなに鋭い舌打ち戦闘中にしか聞いたことない。絶対、怒らせた・・・。どうしよう・・・。・・・頭痛い・・・(泣)』

何を考えても頭に走り続ける頭痛とあいまって悲観的なことしか出てこない。

『どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・・・・』

胸の奥が締め付けられ、風邪のせいだけではない悪寒が湧き上がる。

【恐怖】

それに押しつぶされそうになる。


ようやく戻ってきたゼルガディスが見たのはベットの上で苦しそうに涙をぼろぼろと流し毛布を湿らせているアメリアだった。

驚きのあまり手に持っていたイロイロを落としそうになりさらに慌て、何とかそれらをテーブルに置くとベッド急いで近づく。

「どっどうした?!頭が痛すぎるのか?苦しいのか?ぇえい!とりあえずそんなに泣くほどつらいなら無理せずに体を横にしろ!!・・・そっそれとも起きてた方がいいのか???」

いつに無くワタワタと慌てるゼルガディスはリナがいたら確実に腹を抱えて笑うほどのものだったが、アメリアにはそれに気づく余裕も無い。
黙ってさらに俯いてしまったアメリアの目元をそっと指で拭い、ぎこちなくゆっくりと黒髪をなでてやる。

しばらくそうしていると、彼女もようやく落ち着いてきたようだった。

一息ついて、その手を放しテーブルの上に置きっぱなしだった物を取りにいこうと立ち上がる。


アメリアは頭をなでる手が自分を押しつぶしそうだった恐怖を少しずつ払いのけているように感じた。涙も収まり、その感覚に身をゆだねる。
不意に自分の頭をなでていた心地よい手が離れていく気配を感じ、慌ててその手に縋った。

掴んだ手の先には驚いたように目を見開くゼルガディス。

すぐに表情を戻すと掴みかかっている手を“ぽんぽん”と軽く叩き、手を離させるとテーブルからほんのり湯気の上がる皿を持って戻ってきた。

「ほら、とりあえずこれを腹に入れて、薬飲んでもう一回寝ろ。置いてきゃしないから。」

手元にその皿を渡され、もう一方の手にはスプーンを握らされる。
殆ど無意識に人肌に冷まされた味の無い粥を口に運び、渡された丸薬を呑み込んだ。

先刻頭をなでていた手に促されて再びベッドに潜り込み・・・

「・・・おい。」

不機嫌な声を無視してその手を抱え込んで目を瞑る。ため息が聞こえたような気もするがそう思ったときにはもう眠りに落ちていた。


自分の手を抱え込んで寝入ってしまったアメリアにため息をつきつつも、先ほどの泣き顔を思い出すとその手を無理に引き抜けない。哀れな男は彼女が目覚める前と同じ体制でベッドの横に座り込んだ。

アメリアを見ると、薬が効いているのか夜よりは随分穏やかになった寝顔に心底ほっとした。ゼルガディスの顔には僅かな笑みが浮かび、次いで苦い笑みに変わる。

『無理をさせていたのか?いくら丈夫印の鋼鉄娘とはいえ、雨の中の強行軍は堪えたのだろう・・・。まったく、俺はどれだけ視野の狭い男なんだか・・・。自分のことばかりで、仲間を気遣えないとは。』

三度後悔を繰り返す。全く女々しい上にしつこい男である。

ゼルガディスの脳裏には昨夜のアメリアのうわ言が甦っていた。


『オイテイカナイデ』


「俺はそんなにお前を置いて行きそうか?そんなに普段、信用ならない行動をしていたか?全く、身に覚えは無いんだが??」

しっかりと腕を抱え込んで眠るアメリアに向かって思わず零す。
おまけに置いて行かないといって眠らせたのに、しっかり腕を掴んで寝入るとは全く信用されていないこと請け合いである。

何度目かも分からないため息をつき、半眼で寝顔を見やる。
その寝顔に胸の奥から愛おしさが湧き上がってくるのが自覚された。

彼女に信用されたいと思う。

いつか自分の目の前から消えていくのは彼女の方だと分かってはいるが、それまでの短い間はこの愛おしさを大事にしたいと思うようになった。

初めてこの思いを自覚したときは、どうすればそれを綺麗さっぱり捨てられるのか、忘れられるのかを考えた。しかし、冥王との戦いの後1年以上一人で旅を続け、どうやってもそれを捨てたり忘れたりすることは無理だと知った。

思わぬところで再開し、彼女の勢いに負けて再び共に旅をするようになり、ようやく大切にしたいと思えるようになったのだ。元の体に戻りたいと思うのと同じくらいに。・・・それ以上に。

シトシトと雨音を聴き、薄暗い部屋の中で重い瞼を開けたアメリアの目に一番に入ったのは、朝の光景と重なる鈍い銀の塊だった。

今度は一気に覚醒し、次いで腕に抱えたものが彼の腕であることを確認してひどく動揺した。それはもう、抱えていた腕を投げ出すほどに。

「・・・おい。」

寝る時に聞いたのと寸分違わぬ不機嫌な声がすぐ間近から聞こえた。

「おっおぉおはようございます!あの、あの、すっすすすすすみませんーーー!!」

顔を真っ赤にしながらも大げさな身振り手振りで謝るアメリアにゼルガディスは自然と笑みがこぼれる。見慣れない彼の穏やかな笑顔に思わず見とれ、無言になりますます顔を赤くするアメリア。

ゼルガディスは顔を赤くして黙ってしまった彼女の額に手をやり、そのまま頬に添える。

「具合はどうだ?未だ苦しいか?」

心配そうに問いかけるゼルガディスにアメリアはブンブンと顔を横に振り腕を胸の前に握り締め

「全然だいじょーぶです!!!もう元気!元気です!!」

どれだけ元気かをアピールするかのごとく叫んだ。
ベッドの上に立ち上がりかねない勢いの彼女に苦笑し、落ち着かせる。

「あの、すみませんでした。迷惑をかけてしまって・・・。」

アメリアは毛布から半分だけ顔を出して申し訳なさそうに言った。

「全くだ。とんだ迷惑だ。」

ゼルガディスの口から発せられる冷たい言葉にアメリアはさっと顔を強張らせた。
赤かった顔は一転して血の気の引いた青白いものに変わる。
泣きそうだ。

「は・・・ぁ、ぁの・・・。ホント・・・すっすみ、ま、せぇん・・・」

俯いてしまったアメリアの頬に再び手を添え、自分のほうを向かせるゼルガディス。
そこには眉間に皺を寄せてどこか困ったような表情の彼がいた。
怒っているようにはとりあえず見えない。

「・・・心配した。気づいてやれずにすまなかったな。」
「・・・・・・」
「だが、具合が悪いこと言えないほど俺はお前に信用されていないのか?」
「そっそんな!ゼルガディスさんのこと信用してないなんて・・・絶対無いです!!!」
「でも、俺はお前を置いていってしまうような薄情者なんだろ?」
「なっ・・・なんでっ!?ゼルガディスさんがそれを・・・」

言ってしまってからあわてて口を塞ぎ、あからさまに動揺して目を泳がせるアメリア。

「・・・ウワゴトで言ってたぞ。俺がとことん信用されてないのがよっく分かった。寝ている間も手を離してもらえなかったしな。」

苦笑しながらアメリアに抱えられていた手をひらひらさせる。

「・・・・・・すみません。ゼルガディスさんを信用してないわけじゃないんです。本当です。むしろすっごく信じてます。」

『信用できないのは自分なんです。ゼルガディスさんに迷惑ばかりかけている自分が信用できないんです。。。』

心の声が痛い。
心が痛い。
また泣きそうだ。
“はぁ”とため息が頭上から降りてきた。
アメリアの頬に掛かった手が僅かにずれて髪を軽く梳く。

「ならば次からは何かあったらすぐに言え。抱え込みすぎるな。黙っているほうが迷惑だ。」
「・・・・・・はい。」
「こんなに心配させられたんじゃ、な。心配かけるなら小まめに心配させろ。
心配かけまいとするから、大事になるまで気づけない。だからこんなにつらい思いをして心配しなくちゃならなくなるだろ。」
「迷惑かけても・・・いいんですか?心配させてもいいんですか?」

不思議そうなで問いかけるアメリア。
それに対し、手を自分の胸の前で組み窓の方を見ながらぶっきらぼうに答えるゼルガディス。

「ふっ、昨日今日の仲じゃあるまいし。“仲間”だろ。」

「はい。ありがとうございます。・・・“仲間”ですものね。」

窓を見ていたゼルガディスは気づかなかった。
“仲間”と言った時に、アメリアが一瞬寂しそうな顔をしたことに。

アメリアの答えに納得した様子でゼルガディスは一つ頷くと、宿の食堂へ行って食事を持ってきた。

大分回復してきたアメリアに昼食と薬を渡すと、今度は「寝てくる」といって彼は自分の部屋に行ってしまった。

食事を終え、薬を飲んでベッドに沈み込むアメリア。

『仲間・・・か。そうよね。ゼルガディスさんにとってはただの“仲間”。
 “仲間”として認めてもらってるのに、こんなにモヤモヤするのはやっぱりアレよね。
私にとってゼルガディスさんはただの“仲間”じゃないって事よね。』

今までこんなにしっかりと自分の気持ちに向き合ったことが無かった。
今度のことで曖昧だったゼルガディスへの想いがハッキリした。


『私・・・ゼルガディスさんが・・・好き。』



今度のことで2人はお互いへの気持ちを改めてはっきり認識したのだった。

〜雨降って 地固まる〜

fin
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最後まで読んでいただきありがとうございました。

結局お互い“への”気持ちを認識しただけでお互い“の”気持ちは未だ知らないままという・・・。
はい、全然固まってません。
苦情は是非とも胸の内に仕舞うか、画面に向かって呟くにとどめてください。
おまけに「・・・・・・」が多い!
ダメダメな初投稿でしたが、今後も精進していきますのでまた投稿の機会があったら宜しくお願いします。


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いきなり小説初投稿(ゼルアメで!)宜しくお願いします。-投稿者:希 悠 初恋・・・かもしれない(前編)-投稿者:希 悠